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2009年 11月 22日
リーマン予想と天文学
リーマン予想についてのNHK特別番組の拡大版(50分⇒90分)が、BSチャンネルで放送されたそうです。今日は、ある方のご好意でこの拡大版を見ることができました。テレビ番組の著作権のことが気になったので、放送コンテンツ適正流通推進連絡会のウェブサイトを参照したところ、著作権の制限規定の中に、「自分の所属する閉鎖的なグループ内」で「使用することを目的とする場合には、著作物を複製(コピー)することができる」とありました。これに当てはまると理解して、心安らかに拝見しました。

エピソードが増えているだけでなく、全体の話のつながりがよく分かるようになっていました。たとえば、50分版ではリーマンのゼータ函数のゼロ点の分布とランダム行列の固有値の分布の関係の話から、非可換微分幾何に移るところが唐突な印象でしたが、拡大版では量子ビリヤードの話をはさんで、このあたりの事情がたっぷり語られていました。また、ドン・ザギエさんが素数定理についてのガウスの貢献を解説したり、ピーター・サルナクさんが物理学との関係の重要性を語るなど、当代一流の整数論研究者が要所で登場するしっかりとした構成でした。

すばらしい番組でした。見せてくださった方、ありがとうございました。

ガウスが N までの素数がおおよそ N/log(N) であることを発見するくだりで、少年ガウスが素数階段からひも付きレンガを落として階段の高さを測るのもうまい演出です。

それで思い出しましたが、素数の表を持っているとRSA公開鍵暗号が解けるような印象を与えるのは正確ではないと思いました。インターネットの認証サービスをしているVeriSignが大きな素数を金庫に保管しているのは、暗号を作るのに必要だからでしょうが、暗号を解くには素数の表を持っているだけでは十分ではありません。

N という数の素因数分解をする一番簡単なアルゴリズムは、2 から N の平方根までのすべての整数で割ってみることですが、この方法では N のけた数に関して指数関数的に計算時間がかかるので、RSA暗号に使われるような大きな N を素因数分解するのは、現在の計算機では時間がかかりすぎます。ガウスが見つけたように、N までには N/log(N) だけの素数があるので、N の最小の素因数の候補は N の平方根を log(N)/2 で割った程度あることになります。log(N)/2 で割ったぐらいではたいした効率化にはならないので、素数の表をもっているだけでは、素因数分解の計算時間はそれほど短くならないと思います。

もちろん、VeriSignが使っている素数が限られているのなら(そうなのかどうか知りません)、その表を盗み出せばよいわけですが…。

番組では、米国の国家安全保障局がリーマン予想の証明を知っていて隠しているのではないかというジョークを紹介していましたが、それに類する話は他の分野で実際にありました。

1980年代の後半にフランスの天文学者は、地上の望遠鏡から星を観測するときに大気の揺らぎが画像をゆがめるのを修正する、補償光学の方法を発表しました。しかしその10年ほど前に、米国国防省の諮問機関であるジェイソンの科学者がすでに同じ技術を開発していたのです。1970年代に国防省はソビエト連邦のスパイ衛星を精密に観察する方法を必要としていました。相談を受けたジェイソンの科学者は、大気圏の上空にナトリウムの層があることに着目し、そこにレーザー光をあてて人工的な星を作ることを思いつきました。この人工的な星の光の揺らぎを観測すれば、これを使ってスパイ衛星の画像を修正できるというわけです。フランスの天文学者が10年後に発表したのも同じような考え方でした。このアイデアが公になってしまったので、国防省はそれまでに開発していた技術を発表しました。今では補償光学の技術は、日本のすばる天文台やCaltechなどが運営しているケック天文台にも応用されています。右の写真は、ケック天文台からレーザー光が打ち出されているところです。

リーマン予想については知りませんが、国家安全保障局は数学や数理科学の様々な研究に資金提供をしています。たとえば、この記事へのコメントにお応えして書いた、ラングランズのプログラムとゲージ場の量子論の関係についても、研究費が支給され研究会も開かれています。日本でこんなことをしていると、行政刷新会議の事業仕分けの俎上にあげられそうですね。

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Tags:リーマン予想 暗号 天文学 
# by planckscale | 2009-11-22 15:40 | Trackback | Comments(0)
2009年 11月 21日
外国人研究者とエントロピー

スザンナ・レファートさん(上の写真で前列左から3人目)はドイツのミュンヘン大学で博士号を取った後、理論物理学では世界の中心地のひとつであるアムステルダム大学でポストドクトラル・フェローとして活躍をしていました。しかしIPMUでの新しい研究の可能性に引かれて、アムステルダム大学の任期半ばで昨年IPMUに移籍しました。素粒子の究極の統一理論の候補である超弦理論の最先端の研究者です。この1年の間に3本の論文を発表し、5月には私と一緒にIPMUで国際会議を組織しました。こちらに、レファートさんが自分の研究を一般向けに3分間で説明するビデオがあります。⇒ 「はてな宇宙」

レファートさんはIPMUに着任してから、自分の研究や日本での生活についてのブログを書いています。ブログを読むと、日本での生活を冒険として楽しんでいる様子がよく分かります。しかし昨日のブログ・エントリーは暗転して、行政刷新会議の事業仕分け作業でIPMUを含む世界トップレベル研究拠点(WPI)プログラムが予算削減の対象となっていることを述べ、世界中の研究者にSOSを発信しています。

このように海外から招聘した気鋭の研究者に対し、「屋根に上げて梯子を外す」ような仕打ちが行われようとしています。基礎研究のみならず、日本の国際的信用に関わることです。すでに日本の科学予算削減の可能性は、英国ネイチャー誌や米国サイエンス誌に大きく取り上げられています。幸い、文部科学省は行政刷新会議のやりかたについて広く国民の意見を求めています。ぜひ皆さんの生の声を文部科学省のトップへ届けていただきたいと思います。メールアドレスはnak-got_at_mext.go.jpです。正しいあて先に届くため、メールの件名は、『No.14「競争的資金(外国人研究者招へい)」WPI』としてください。

さて話題は変わって、今日の超弦理論セミナーはスタンフォード大学からカリフォルニア大学のサンタバーバラ校に移籍したシャミット・カチュルさんでした。AdS/CFT対応によると、電荷を持つブラックホールの中の量子重力理論は、共形場の量子論で化学ポテンシャルをオンにしたものと等価になるとされています。最近では、これを使って物性物理学の強結合電子系の模型を作り、高温超伝導の謎を解こうとする試みもなされています。しかし、このようなブラックホールは絶対温度ゼロ度でも膨大なエントロピーを持つのが普通なので、物性模型の基底状態とは考えにくいという問題があります。実際に、このようなブラックホールは不安定になる場合もあり、私が先々週に京都大学の中村真さんとCaltechの学生のチャンスン・パークさんと一緒に発表した論文もこのような不安定モードに関するものです。このような場合には、ブラックホールは基底状態ではなく、それに変わる何か別な解があるはずです。

カチュルさんたちは、ディラトンとよばれるスカラー場のある場合に、熱力学エントロピーがゼロになる解を作って見せました。今週論文が発表されたばかりだったので、よいタイミングでした。カチュルさんたちの解では、事象の地平線の近くの時空間が、リフシッツ対称性と呼ばれるある種の不変性を持っています。しばらく前に、IPMUの高柳匡さんたちがリフシッツ対称性を持った解は超弦理論からは作りにくいという論文を書いていたので、セミナーの後で職員会館に昼食に行ったときにその話題でひとしきり議論になりました。

行政刷新会議の事業仕分け騒動のために書き忘れていましたが、水曜日のセミナーはプリンストンの高等研究所のブライアン・ウェヒトさんで、シチリア型ゲージ理論についての話でした。ウェヒトさんは今年度末に高等研究所の契約が切れるので、この2週間ほどはカリフォルニアの各大学をセミナー行脚していらっしゃいます。

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Tags:事業仕分け AdS/CFT対応 ブラックホール 
# by planckscale | 2009-11-21 14:39 | Trackback | Comments(0)
2009年 11月 20日
篤志家の支える科学
今日はCaltechで、ガリレオが望遠鏡を夜空に向け宇宙の扉を開いてから400周年の記念のシンポジウムがありました。科学史から最新の惑星探査まで、おもしろそうな講演がたくさんありました。私はそのうち3つの講演しか聞く時間がありませんでしたが、木星のガニメデ衛星の磁場の話(表面の氷の下にある塩水の層が重要な役割を果たしているそうです)やエウロパ衛星の表面の亀裂の話(サイクロイド曲線を描いているものがあるそうです)など、興味が尽きません。

今回のシンポジウムは、KISS(Keck Institute for Space Studies)の主催でした。KISSは、ケック財団からCaltechへの24億円の寄付によって設立され、8年の間毎年3億円を使って宇宙科学探査の技術開発を行っています。ケック財団は、ハワイのマウナケアで、Caltechとカリフォルニア大学機構が共同運用しているケック天文台にも、多額の寄付をしてくださっています。

Caltechの科学研究の多くは、このような篤志家の寄付でなりたっています。私の関係する理論物理学でも、フェアチャイルド財団などからいただいたおよそ20億円の基金を運用して、15名ほどのポストドクトラル・フェローを雇用しています。昨年の株価下落によって基金が目減りしてしまいましたが、卒業生のディビット・リーさんやムーア財団が増資に協力してくださいました。また、今年からサイモンズ財団が数学と理論物理学のポストドクトラル・フェローシップをはじめられ、Caltechでも2名の新しいサイモンズ・フェローを雇用できるようになりました。

米国でも国からの科学研究資金はそのときの政府の政策に左右されますが、篤志家の寄付がショックを和らげる働きをしています。2001年の9月11日に米国で同時多発テロが起きて景気が冷え切ったときには、インテルの元会長だったゴードン・ムーアさんが、「このようなときにこそ見本を見せなければいけない」と、Caltechに600億円の寄付をしてくださいました。ムーアさんは、30メートル天体望遠鏡計画にも、これと別に200億円の寄付をしてくださっています。

これはCaltechの話ですが、ハーバード大学、イェール大学、プリンストン大学のようなアイビー・リーグの大学、MITやスタンフォード大学のような名門校にも同等かそれ以上の寄付があるはずです。

米国でこのように篤志家の層が厚いのは、アングロサクソンの伝統と税制上の優遇措置のおかげです。このために国の科学政策が急に変わっても、基礎研究の継続性が保たれるようになっています。このような篤志家の層の薄い日本では、国の科学政策は特に慎重に行う必要があると思います。ショック・アブソーバーがない社会で、科学政策を急激に変えると、基礎科学の底が抜けるかもしれません。

というわけで、文部科学省の意見募集に応えましょう。あなたの意見が、日本の基礎科学を救うことになるかもしれません。 ⇒ http://www.mext.go.jp

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Tags:ガリレオ 科学政策 事業仕分け 
# by planckscale | 2009-11-20 13:38 | Trackback | Comments(0)
2009年 11月 19日
文部科学省への手紙

行政刷新会議の事業仕分け作業で、次世代スーパーコンピュータ、先端研究、若手研究育成、外国人研究者招へいなどが予算の見送りや縮減の対象になっており、日本の基礎科学は危機的な状況にあります。

「事業仕分け」の様子をライブ中継で拝見しました。たとえば、ポストドクトラル・フェローを失業対策であるとする批判がありましたが、その場で説得力のある反論がなかったのが残念です。文部科学省が仕分け対象事業について意見を募集しているので、こうした批判にきちんと応える機会だと思います。対象事業のリストと意見の提出先はこちらにあります。 ⇒ http://www.mext.go.jp

私も手紙を書いてみました:

文部科学省 
中川正春 副大臣 
後藤斎 政務官

私は、米国のカリフォルニア工科大学で教授をしております大栗博司と申します。この15年間は米国で研究に従事してきました。一昨年より世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)の1つである東京大学数物連携宇宙研究機構(IPMU)に主任研究員として参加し、1年間に3ヶ月の間IPMUに滞在し、数学と物理学の境界の研究に携わっております。

【中略】

今回の行政刷新会議では、「このような研究から納税者にどのようなリターンがあるのか」とのご質問がありましたので、それについての私の考えを述べます。私が米国に研究に出かけた1980年代には、まだ日本が米国の技術にただ乗りして貿易をしているという批判が聞かれました。その後このような批判が鎮静化した理由の1つとして、過去10年の間に8つのノーベル賞を受賞するなど、日本が基礎科学の進歩によって人類の知的財産に貢献しているとの認識が広まったことがあげられます。11月23日の米国ニューズウィーク誌のアンケートでは、各国の技術革新への貢献度についての米国民の評価として、日本が第1位の81%、次いで米国自身の73%、中国50%、英国28%などとなっています。このような地位は過去数十年間に渡る日本の科学政策と現場の科学者や技術者の努力の賜物であり、基礎科学への投資の納税者への重要なリターンであると思います。

【後略】

意見の締め切りは12月15日だそうですが、早めに送ったほうがよいと思います。

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Tags:科学政策 事業仕分け 
# by planckscale | 2009-11-19 14:12 | Trackback | Comments(0)
2009年 11月 18日
リーマン予想
今日は日本時間で正午からIPMUで文献紹介がありました。米国は冬時間になったので、カリフォルニアでは午後7時。早めに夕食を済ませて参加しました。

先日NHKでリーマン予想についての特別番組があり、それについてこのブログのコメント欄に、「素粒子論との関係を取り上げていましたが、本当に関係があるのでしょうか」との質問がありました。コメント欄にご返事をしましたが、念のために番組を見てみました。

丁寧に作られたよい番組だったと思います。RSA公開鍵暗号との関係も、「リーマン予想が証明されると、暗号の解読が可能になるのでITビジネスが崩壊する」というありがちな誤解に陥らず、「素数の性質がすべて分かると、暗号の解読が可能になる」というように正確な説明をしていたのは、さすがにNHKだと思いました。

そういえば、Caltechの理論物理学の教授がFBI捜査員であるお兄さんを手伝って犯罪を解決するというテレビドラマ『Numb3rs』(番組ではCaltechではなく、CalSci)で、リーマン予想を証明した数学者のお嬢さんが誘拐されるという話がありました。最初のシナリオでは、犯人が「リーマン予想を使ってRSA暗号を解読しようとする」という設定だったそうでしたが、意見を聞かれたエドワード・ウィッテンさんがそれはおかしいとおっしゃって、「リーマン予想を証明するために開発した理論的手法が暗号の解読にも使える」というように直されたそうです。

さて、ご質問の「素粒子論との関係」ですが、リーマンのゼータ函数のゼロ点の分布と、ある種の行列模型の固有値の分布との関係のことを指しているようです。

原子核のような複雑な多体系のエネルギー準位を計算するのに、基本原理から求めることをあきらめて、あまりに複雑だからランダムに分布したエルミート作用素を原子核のハミルトニアンの模型として考えようという試みが、今から半世紀ぐらい前になされました。理論物理学者のフリーマン・ダイソンさんは、特にガウス分布をするユニタリー行列を考えて、行列のサイズが無限大になる極限で、固有値の分布の相関を計算しました。

一方で、数学者のヒュー・モントゴメリーさんは、リーマン予想に動機付けられて、リーマンのゼータ函数のゼロ点の分布の相関について予想をたてました。そして、この相関が、たまたまダイソンさんの計算したランダム行列の相関と一致した。NHKの番組では、この2つの相関の一致のことを「素粒子論との関係」と呼んでいたのです。

ダイソンさんの模型自身が原子核を極端に簡単化したものなので、これをもってしてリーマン予想が究極の素粒子理論の鍵を握るというのは大げさすぎるかなと思いました。ただし、ゼータ函数のゼロ点の分布のような整数論の基本的な問題と、物理学の問題から現れたランダム行列模型が関係しているということ自身は面白いことなので、それをできるだけ分かりやすく伝えようとする番組の努力は立派です。

ところで、番組ではリーマンのゼータ函数のゼロ点についてのモントゴメリーさんの予想が事実であるかのように述べていましたが、36年たった今でも、この予想には証明がついていないはずです。リーマン予想が証明できるかどうかが焦点の番組だったので、モントゴメリーさんの予想についても、証明されているかどうかを明確にされておいたほうがよかったのではないでしょうか。

ルイ・ド・ブランジェさんの「証明」を中心にすえた番組構成でしたが、もうすこし整数論の主流の研究者の意見を聴きたかったです。たとえば、番組の最初にドン・ザギエさんが一瞬だけ登場しますが、彼はド・ブランジェさんの証明やモントゴメリーさんの予想についてはどう考えているのでしょうか。

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Tags:素数 素粒子 リーマン予想 
# by planckscale | 2009-11-18 14:13 | Trackback | Comments(6)
2009年 11月 16日
ココ・シャネル
今朝の飛行機でバンクーバーからパサデナに帰ってきました。

帰りの飛行機でも映画を1本観ました。『シャネル以前のココ』、日本ではどんな題名で公開されているのでしょうか。最近はシャネル関係の映画が流行っているようで、9月に東京にいた時にも、シャーリー・マクレーンさんが主演の別なテレビ映画『ココ・シャネル』が劇場公開されていました。また、シャネルとストラビンスキーの関係を描いた映画『ココとイゴール』も公開される予定です。

今回の映画は、シャネルがデザイナーとしてデビューする以前の話で、革命的な美意識と強い野心を持つシャネルを演じるのは、『アメリ』で主演をしたオードリー・トトゥさん。私は、シャネルのパトロンになるエティエンヌ・バルザンを演じたブノワ・ポールブールドさんが、なんとも哀れでうまいと思いました。

短い旅行でしたが、バンフ国際研究所の2010-2011年度のよいプログラムができたのではないかと思います。私は昨年諮問委員になりましたが、プログラム委員会に出席するのは今年が初めてでした。整数論や代数幾何のような純粋数学から、確率・統計や情報科学のような応用数学、さらには電気工学までの様々な分野の人の意見を聞くことができて、勉強になりました。

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Tags:シャネル バンフ 数学 
# by planckscale | 2009-11-16 15:34 | Trackback | Comments(3)
2009年 11月 15日
バンクーバー
昨日と今日は、バンクーバーのブリティッシュ・コロンビア大学内の宿舎に泊まっています。大学は半島の先端にあって、海を見渡せる美しいキャンパスです。今日はバンフ国際研究施設(BIRS)のプログラム委員会の会議が終わってから、キャンパス内の新渡戸記念庭園だけでも見に行こうとしましたが、残念ながらもう閉まっていました。「太平洋の橋」となるべく活躍された新渡戸稲造さんは、バンクーバーで客死されたのだそうです。

夜には、BIRSの所長の家の夕食会に行きました。私の親しいゴルドン・セメノフさんやジム・ブライアンさんも呼んでくださったので、珍しい中近東料理と供に、楽しい話ができました。

ブライアンさんは、IPMUで5月に開催した「新しい不変量と壁越え」のフォーカス・ウィークに来てくださいました。この分野は、数学者と物理学者の研究が競合することが多いので、数学者であるブライアンさんは、物理学者の研究のサイクルの速さに当惑されているようでもありました。1980年代後半に2次元の共形場の理論の研究を通じて数学者と物理学者の交流が盛んに行われたときにも、このようは話を数学者からお聞きしたことがあります。異分野との交流は、互いの分野のスタイルを尊重していかないと、うまく成り立たないものだと思います。

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Tags:バンクーバー 新渡戸稲造 壁越え 
# by planckscale | 2009-11-15 15:14 | Trackback | Comments(0)
2009年 11月 14日
ジュリア・チャイルド
カナダのバンフにある数学の国際研究施設(BIRS)のプログラム委員会のためにバンクーバーに来ています。ロサンゼルスからの飛行機の中で、映画『ジュリー&ジュリア』を観ました。米国では夏休みに公開になって、見そびれていたのでちょうどよかったです。ジュリア・チャイルドさんは、大著Mastering the Art of French Cookingやテレビ番組The French Chefによって、本格的なフランス料理を米国の一般家庭に伝えました。日本の辻静雄さんのそれに匹敵する功績と言ってよいでしょうか。

映画自身は、ジュリア・チャイルドさんの話と並行して語られるジュリー・パウエルさんの話が深みに欠けているように思いました。しかし、ジュリア・チャイルドさんに扮したメリル・ストリープさんの演技がすばらしい。チャイルドさん本人と生前に親交のあった方とこの映画の話題になったときに、映画を観てからチャイルドさんの想い出とストリープさんの演技が混ざってしまうとおっしゃっていました。メリル・ストリープさんの扮するチャイルドさんは、おおらかで、冒険心があり、人生に肯定的な、米国人のよい面をうまく表しています。

ロサンゼルスからバンクーバーまでの飛行時間は2時間半と短時間でしたが、飛行機が着陸するまで映画を見せてくれたので、最後まで観ることができました。エア・カナダさんありがとう。

空港を出たところには、五輪の電飾が飾られていました。バンクーバーオリンピックはもうすぐですね。おいしそうな映画を観たので、飛行場から大学に行く途中で、グランビル通りのレストランに立ち寄りました。

さて、これから明日の会議のための資料の山を読みます。

今日は科学ブログではありませんでしたが、ボタンの用意がなくてすみません。
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Tags:バンクーバー ジュリア・チャイルド フランス料理 
# by planckscale | 2009-11-14 15:23 | Trackback | Comments(2)
2009年 11月 13日
物性と素粒子の対話
今日は、行政刷新会議ワーキンググループで文部科学省の競争的資金(先端研究)についての「事業仕分け」がありましたので、ライブ中継で拝見しました。これって、もしかして多数決で決めているんですか?

IPMU本館の建築は終盤になってきました。左の写真は先週末に村山機構長が撮影したものです。

2月8日-12日にIPMUでCondensed Matter Physics Meets High Energy Physicsと題した国際会議(フォーカス・ウィーク)を予定しています。IPMU本館での最初の国際会議になる予定です。

物性理論と素粒子論は場の量子論を共通の言語とし、歴史的にも、対称性とその破れ、くりこみ、トポロジー、可積分性など、様々な側面で触発し合ってきました。たとえば、昨年度のノーベル物理学賞の授賞対象となった南部陽一郎先生の「対称性の自発的破れ」の理論は、超伝導のBCS理論の深い理解から生まれました。この話題については、岩波の雑誌『科学』の「ノーベル賞特集号」に記事を書きました。ここに記事のコピーが貼ってありますので、よろしければお読みください。

また、最近はAdS/CFT対応の応用により、量子重力理論と物性理論との新たな交流が生まれつつあります。私が先週発表した論文もこの方面の研究結果です。

素粒子論からはショーン・ハートノルさん(ハーバード大学)、シャミット・カチュルさん(スタンフォード大学・カリフォルニア大学サンタバーバラ校)、ホン・リュウさん(MIT)、シラツ・ミンワラさん(タタ研究所)、ボルカー・ショメロスさん(DESY)、ダム・ソン(ワシントン大学)さんが講演をされます。また、物性理論ではジョン・カーディさん(オックスフォード大学)、エドワルド・フラッドキンさん(イリノイ大学)、ニコラス・リードさん(イェール大学)、シバジ・ソンディさん(プリンストン大学)、シャオガン・ウェンさん(MIT)が講演者として予定されています。物性理論と素粒子論の連携を促進する様々な企画を考えています。

5月には、数学と物理学の境界領域のフォーカス・ウィークを組織しました。そのときには3ヶ月の準備期間で緊急に開催となりました。今回も、東京大学物理学教室の青木秀夫さんとご相談して、先月に組織委員を集めたばかりです。このようにホットな話題について敏速に国際会議を開けるのも、IPMUの機動性のおかげです。

詳しい情報はここに掲載していきますのでご覧ください。

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Tags:IPMU 物性物理学 素粒子論 
# by planckscale | 2009-11-13 15:14 | Trackback | Comments(2)
2009年 11月 12日
オリーブとバンフとループ
2週間前に買ってきたオリーブがうまく漬かってきました。左が真水、右が塩水です。塩水のほうはもうおいしく食べられます。買ってきたばかりのときにかじってみたら渋かったのが、切れ目を入れて漬けておくとあくが抜けるというわけです。オリーブ油は水に溶けないので、実の中にそのまま閉じ込められています。

今週末は、カナダのバンフにある数学の国際研究施設(BIRS)のプログラム委員会のためにバンクーバーに行きます。それに先立って、資料がドンと送られてきました。

バンフで再来年度に行う会議の提案集で、全部で700ページぐらいあります。これと別に、提案の外部評価書が300ページ。森林にやさしくないですね。土曜日1日でどれを採択するか決めるので、読んでランク付けをして来いといわれています。バンフの施設には何度か行って、そこで会議を組織したこともあるので、これぐらいはご恩返しをしないといけません。

今日のインフォーマル・セミナーはハーバード大学のシモーネ・ジオンビさんでした。水曜日のミーティングはグループ内の勉強会のはずなのですが、外部からの講演者が金曜セミナーから溢れてしまったときには水曜日のミーティングを使います。N=4超対称性のあるゲージ理論のウィルソン・ループの厳密計算の話でした。

先月のディマルスキーさんのセミナーはウィルソン・ループの分類の話でした。そのときのブログで、「経路積分の局在化の現象がうまくわかるともっとよいのですが」と書きましたが、今日のジオンビさんの話はまさしくこれをかなえてくれるもので、私は感心しました。この種のウィルソン・ループは、10年ぐらい前にディビット・グロスさんとナダフ・ドルッカーさんと研究しましたが、その後10年の間にすばらしく進歩をして、理論物理学のいろいろな話題と結びついてきました。この方面についても、また勉強しなおしたいと思いました。

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Tags:オリーブ バンフ ゲージ理論 
# by planckscale | 2009-11-12 13:08 | Trackback | Comments(0)
2009年 11月 11日
ラン・ランとあいまいな球面
昨日は、たくさんの方から、私の仁科記念賞受賞のお祝いのメールをいただきました。ありがとうございます。大学の同級生から4半世紀ぶりに連絡をしていただけたことも、うれしかったです。

さて、日曜日は午前中に家族で漢字検定を受験に行った後、Caltechの同僚の下條信輔さんの個展を見に行きました。下條さんは実験心理学がご専門ですが、残像効果を使った芸術作品の製作に協力されています。東京の科学技術館の「うずまきシリンダー」の展示などにも関わっていらっしゃるそうで、多才な方です。

夕方には、ウォルト・ディズニー・コンサート・ホールでの郎朗(ラン・ラン)さんのピアノ・リサイタルに行きました。ディズニー・ホールには何度も来ていますが、現代的な外見と対比的に、内部はリビング・ルームのような居心地のよい空間です。サントリー・ホールやカザルス・ホール(閉鎖になるのでしょうか)も手がけた永田音響設計の音響は完璧で、夢のようにすばらしい場所です。

ラン・ランさんは気鋭のピアニストで、ディズニー・ホールの席は完璧に埋まっていました。演目は前半がベートーベンのソナタ、後半はアルベニスとプロコフィエフでした。おきて破りの演奏スタイルで、ベートーベンにこんなことしていいの?と思うところもありましたが、すばらしいテクニックでスポーツ観戦をしたような気分でした。

ピアニストといえば、夏にアスペンで聞いた辻井伸行さんのリサイタルについての記事が、先月の『アエラ』に掲載されていました。リサイタルの後で、テキサス大学のクレイグ・ホィーラーさんがミュージック・テントの外で待っていてくださって、演奏について語り合ったのも楽しい思い出です。

昨日の午後は、直前に連絡を受けて数学教室にアミン・ゴランプールさんのセミナーを聞きに行きました。行ってみたら、山崎さんとの仕事とかなり関係のある話でした。ゴランプールさんは昨年からCaltechにポストドクトラル・フェローとしていらしていたのに、こういう研究をしている人がCaltechにいるとは知りませんでした。もっと、他の研究室の人と知り合う努力をしないといけません。

夕食後には、IPMUで東京工業大学のホラシウ・ナスタセさんがセミナーをなさっていたので、ビデオ会議で参加しようとしたのですが、昨晩からインターネットの接続状態が悪くなっていて、うまく視聴することができなかったので、前半だけであきらめました。最近話題になっているABJM模型から、M理論の時空間がどのように再構成できるかという話です。ABJM模型では、古典的な空間ではなく「あいまいな球面」(専門用語です)が現れるということです。インターネットの状態さえよければ、後半の技術的な部分を詳しくお聞きしたかったのに、残念でした。

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Tags:ベートーベン 壁越え 行列模型 
# by planckscale | 2009-11-11 01:23 | Trackback | Comments(2)
2009年 11月 10日
仁科記念賞
仁科記念財団から、今年度の仁科記念賞を、原子核実験がご専門の東北大学の田村裕和さんと私に授賞するとの発表がありました。⇒ 仁科記念財団ウェブページ

輝かしい歴史のある賞なので、身に余る光栄です。仁科記念財団のウェブページを拝見すると、「比較的若い研究者を表彰することを目的とします」とありますので、これを励みにしてさらに研究に精進しなさいというメッセージだと思います。

授賞は「トポロジカルな弦理論の研究」に対するものです。このように最先端の数学を使って素粒子論を研究する手法は、日本では江口徹さんが開拓し発展されました。現在ではこの方面の研究では、日本は世界トップレベルだと思います。このような分野の発展を、物理学の進歩として認めていただけたことはうれしいです。

私が京都大学に入学した年には、九後汰一郎さんと小嶋泉さんが「非可換ゲージ場の共変的量子化の理論」に対して仁科記念賞を受賞され、このような先生の下で素粒子論を研究したいものだと思いました。大学院の2年生のときに、九後さんと共著の論文を書くことができたのは僥倖でした。

また、大学院に入学した年には、江口徹さんと川合光さんが「格子ゲージ理論」に対して受賞されています。

京都大学の大学院修士課程では、九後さんの場の量子論の理論形式についての透徹した理解に学ぶことができました。また東京大学で助手であった数年間には、江口さんとの共同研究を通じて数理物理の豊富な世界を知りました。これらの経験は、私の研究者としての基盤となりました。米国の大学院に進学することを考えたこともありましたが、日本で勉強して本当によかったと思います。九後さん、江口さん、ご指導ありがとうございました。

大学院在学中には、稲見武夫さんに、研究課題の見つけ方や研究の仕方から論文の書き方まで親身に教えていただいたことにも、とても感謝しています。

以前に『仁科記念講演録集』を読んだときに、伊達宗行さんの講演で、仁科記念賞が時代を映している例として、1980年を境に、その前半では理論物理学と実験物理学の受賞数の比が2:1で理論の方が多かったのが、後半では1:4と大きく逆転しているとの指摘がありました。これは、日本の経済状態がよくなって、実験物理学の環境が改善したからだという解釈でした。学問の状況として、とても健康なことだと思います。

私は、小柴昌俊さんがカミオカンデにおける観測でノーベル賞を受賞されたときに、国が豊かになって人類の知識の進歩に貢献できるようになるとはこういうことなのだと感動しました。また、昨年ノーベル賞の授賞対象となった小林・益川理論においても、日本人が構築した基礎理論が日本の実験施設で検証されています。これから物理学の研究に進む人にとって、実験の分野でも尊敬すべきロールモデルが綺羅星のごとくにおられることはすばらしいと思います。

ご存知のように、超弦理論はまだ素粒子の究極理論の「候補」の段階で、実験的検証を受けているわけではありません。仁科記念賞の授賞理由には、「この結果は超弦理論が実際、加速器の実験結果を予言する理論であるか確認するのに非常に重要」とあります。また、「「超弦理論は一般相対論と量子力学を統合し、加速器で観測できる物理学である素粒子論を含む究極な理論である」ことを示す、物理学者の夢を実現する第一歩となった。」とのお言葉もいただきました。これは分野全体に対して声援を送ってくださっているのだと思います。超弦理論の研究者に喜びを共有していただき、また若い研究者の励みになれば幸いです。

ありがとうございました。

Tags:物理学 トポロジカルな弦理論 
# by planckscale | 2009-11-10 07:15 | Trackback | Comments(3)
2009年 11月 08日
授業参観と漢字
今日は子供の日本語補習授業校の授業参観がありました。土曜日に、日本の1週間分の授業をするのですから、大変だと思います。しかし、子供たちは集中して先生の話を聞いていて、手もしっかり上がっていました。先生方が献身的なのには、同じ教師として頭が下がります。

日本語補習授業校で難しい教科の1つは社会だそうです。日本の社会を米国で学ぶので、実感がわきにくいのだろうと思います。日本に行ったときには、工場見学などに連れて行ったほうがよいのかもしれません。

夕方にはロサンゼルスの日本人街で日本の映画『ホッタラケの島』の試写会(英語字幕付き)があり、補習授業校の生徒が招待されていたので、子供と友達を映画館に送り届けました。子供たちが映画を見ている間に、現代美術館の日本人街別館に行ってみたところ、展示の入れ替えで休館中でした。しかたなく、久しぶりに紀伊國屋書店に行きました。最近は日本に行く機会が多いので、こちらで日本の本屋に行っていなかったのですが、久しぶりに行ってみると普通の米国人がたくさん本を買いに来ていたのに驚きました。マンガ本が目当てのようです。

明日は、家族そろって日本語漢字能力検定を受けに行きます。日本で最近ニュースになった検定協会が実施していて、米国でも年に2回受験する機会があります。海外で日本語教育をしている親にはありがたい行事です。家族全員で受けて合格すると家族賞がいただけるので、子供の動機付けのために親も検定を受けています。昨年は私も何とか受かって、家族賞をいただけたのですが、今年は子供に合わせて進級するので油断できません。最近は夕食後に家族で模擬試験をしていますが、どうも家族の中で私が一番危なそうです(^_^;

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Tags:日本語教育 漢字検定 
# by planckscale | 2009-11-08 06:05 | Trackback | Comments(0)
2009年 11月 05日
理科教育とホログラフィー
私の子供の学校はCaltechのとなりにあるので、Caltechの先生の子供もたくさん通っています。理科系の大学の先生なので、どうしても学校の理科教育にちょっかいをだしたくなります。というわけで、今日はそのような先生の会合がありました。

米国では日本のように全国一律の指導要領があるわけではなく、連邦政府や州ごとの基準はあるもののそれは最低限度で、学校ごとの裁量の余地が大きくあります。このため、シンガポール式算数を試すというような実験ができる代わりに、科目によっては注意をしていないとレベルが下がってしまうおそれもあります。

せっかくCaltechがとなりにあるので、理科教育でなにか手助けをしてあげようという集まりでした。たとえば、Caltech Classroom Connectionというグループがあって、ハワード・ヒューズ医学研究所の援助で、Caltechのボランティアがパサデナ地域の学校に出張して、理科の先生の実験を手伝ったり、新しい教材を作るのを助けたりしています。算数では、シンガポール式がうまくいっているようなので、理科の教育も改善されるように協力したいと思います。

今日は、京都大学の中村真さんとCaltechの学生のチャンスン・パークさんと一緒に書いた論文がE-プリント・アーカイブに掲載されました。お読みいただけるとうれしいです。⇒ arXiv:0911.0679

この研究は、昨年の9月にIPMUで飯塚則裕さんの尽力で開催できた、量子ブラックホールのフォーカス・ウィークから始まりました。橋本幸士さんのホログラフィックな核物理学の講演に触発されて、バリオン密度が有限の系のホログラフィックな記述を理解したいものだと中村さんと議論を始めました。橋本さんの講演を聞いた帰りに、秋葉原の喫茶店で中村さんと話し込んだこともよい思い出です。

その後、私がIPMUに行くたびに中村さんが京都から出張して来てくださって、熱心に議論に付き合ってくださいました。終盤になって、超重力理論の解き方に詳しいパークさんを共同研究者に加えることを快く了承してくださったことにも感謝します。また、パークさんもそれに応えてよくやってくれたと思います。

私としては、とても満足できる論文となりました。中村さん、1年以上の共同研究に付き合ってくださりありがとうございました。おかげで、いろいろ勉強になりました。

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Tags:小学校 理科教育 相転移 
# by planckscale | 2009-11-05 13:38 | Trackback | Comments(2)
2009年 11月 04日
投票日と漸近状態
今日は、米国では地方選挙がありました。といっても、私には参政権はありませんが。米国では投票日は火曜日なので、皆さん仕事を抜けて投票に行きます。正しい米国人は日曜日には教会に行くからでしょうか。知事選などの重要な選挙では、民主党が軒並み負けているようです。

今日は先週に続いて、「物理学と幾何学のセミナー」がありました。月に1回のペースのはずですが、たまたま講演者が重なったのです。PMA部門からもお金がつけてもらえることになったので、安心して人が呼べます。この金融危機の最中にありがたいことです。

今日の話は構成論的場の量子論の話で、講演のアブストラクトも難しそうだったので気が進まなかったのですが、行ってみたらこれが面白い話でした。私は場の量子論を勉強したときに、漸近状態の定義がどうしてもわからなくて苦労したことがあります。今日の話ではこれを正面から考えようとするもので、場の量子論を勉強したころのことを思い出して質問をしました。解析の微妙な話が絡んでいるので、まだ論文になっていない段階ではどこまで正しいのかは正確にはわかりませんが、筋はよいように思いました。

食わず嫌いをしないで、いろいろな話を聞いてみるとよいという教訓でした。

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Tags:投票 場の量子論 
# by planckscale | 2009-11-04 13:44 | Trackback | Comments(0)
2009年 11月 03日
ビーバーとコレステロール
パサデナにいる間は週に3回ジムに行くという誓いを守るために、今日も運動に行ったら、Caltechのマスコットのビーバーがいました。ビーバーは小川にダムを作るので、工科大学にはふさわしいということでしょう。MITのマスコットもビーバーですね。この写真は、かぶり物を脱いでいるところ。

カメラマンもいて通りがかりの人に、「Caltechのビーバーを宇宙に送るというNASAの計画についてどう思いますか」とインタビューをしていました。本当でしょうか。

半年前には天文学・宇宙物理学センターの落成式がありましたが、先週は完成したばかりの情報科学センターの落成式がありました。私は予定が合わずに行けませんでしたが、後日にこの新しい建物にオフィスのあるアレクセイ・キタエフさんと議論をしにいきました。ガラスに包まれた採光のよい建物で、居心地がよさそうです。

先々週のニューヨーク・タイムズ紙の日曜版に、斬新な公共建築の時代が終わりつつあるとの記事がありました。Caltechではまだ建築ラッシュが続いています。

キタエフさんには、液晶にコレステリック相というものがあるということを教えてもらいました。液晶の分子がらせん状に並んでいる状態のことだそうで、コレステロール誘導体で最初に見つかったのでこの名前があるそうです。キタエフさんの専門ではありませんが、何でもよくご存知の人です。

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Tags:Caltech NASA 液晶 
# by planckscale | 2009-11-03 14:02 | Trackback | Comments(0)
2009年 11月 01日
バイリンガル
今日はハロウィーンです。昨日書き忘れましたが、超弦理論のセミナーのときに、私の学生のテューダー・ディモフテさんが黒い服にどくろのついたベルトをして、髪の毛を赤く染め、額には金の印をつけて、刀を下げて現れました。いつも的確な質問をするサクラ・シェーファー=ナメキさんが「あなたは自分が何のつもりなのかを説明しなさい。」と聞いたところ、ビデオ・ゲームの敵役だそうです。友達が主人公に扮して、大学を歩き回っていると言っていました。ディモフテさんも学生生活は今年で最後ですね。

今日は、子供が土曜日に通っている日本語補習授業校で、保護者向けの講演会があったので行ってみました。補習授業校には、月に1回来てくださる心理カウンセラーの先生がいらして、特に海外で子供を育てる親の悩み相談をしてくださいます。今日は、「多文化環境で育つ子どもに親としてできること」という題で話をされました。

米国で子供を持つまでは、子供はそのままで自然にバイリンガルに育つものだと思っていましたが、実際にはそれほど簡単ではありません。子供は学校、家庭、社会の多様な場面を通じて言葉を学びます。我が家では、子供は平日は現地校で英語で学び、家では日本語を話しているので、いずれの言語にも偏りが出ないようにするには努力が必要になります。

言語は思考の器なので、日本語か英語か少なくともどちらか1つの言葉は完全でないと、筋道だった考え方ができません。こればかりは自然に任せて置けないというのが、私の経験からの観察です。


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Tags:ハロウィーン バイリンガル 日本語補習校 
# by planckscale | 2009-11-01 11:46 | Trackback | Comments(1)
2009年 10月 31日
コヨーテとモノドロミー
学校に行く途中で、ついにコヨーテを目撃しました。お隣の猫を殺めたのは此奴かもしれません。急いで自転車から降りて写真を撮りましたが、コヨーテはちょっと横目で見ただけで、気にも留めずに悠々と歩き去っていきました。

昨日に続いて、今日も西大和学園の中学3年生のグループがCaltechを訪問しました。Caltechの学生に引率されて、学生寮やいくつかの研究棟を見学した後、この1月に完成したばかりの天文学・天体物理学センターに来てくれました。私が30分ぐらい研究の話をした後、質疑応答になりました。昨日は山崎さんに次々と質問が出ていたので、今日もたくさん質問があるかと期待していったら、あまり手が上がりませんでした。大学院生の山崎さんの方が親しみやすかったのかもしれません。

私のアウトリーチ活動については、ここにまとめてあります。日本語の解説記事もいくつか置いてあるので、よろしければご覧ください。

昨年の夏は、群馬県のスーパーサイエンス・ハイスクールの高校生がCaltechを訪問しました。このときは丸1日あったので、Caltechの日本人研究者の皆さんのご協力を得て、研究室見学やデモンストレーション、若手研究者による講演などのプログラムを組むことができました。この訪問については、新聞にも取り上げられました。1日の終わりにCaltechの芝生の上でバーベキューをしたことも、印象深かったようです。

今日は超弦理論セミナーが2つありました。ストーニー・ブルックのシュロモ・ラザマトさんは、AdS_3/CFT_2対応でしばしば話題になる対称積オービフォルド模型の相関関数を計算する方法を開発されました。

スタンフォード大学のアレキサンダー・ウエストファルさんは、カオティック・インフレーション模型を超弦理論の中で実現する方法を考えました。このインフレーション模型では、インフラトン場がプランク・スケールの何倍も変化する必要があります。しかし、超弦理論から導かれる多くの模型では、そのようは大きな変化は許されません。これが一般に成り立つことだとすると、宇宙背景輻射の極性に強い制限がついて、プランク衛星による観測結果に予言ができることになります。これは、本当に超弦理論の予言なのか、インフラトン場がプランク・スケールより大きく変化をする模型は作れないのか、というのが問題です。

ウエストファルさんたちは、Dブレーンがあると4次元のアクシオン場が周期性を失うという効果(これを彼らはモノドロミー機構と呼びました)を使って、インフラトン場が大きく変化できる模型を作りました。私は、彼らの模型に疑問があったので、とてもよい機会でした。セミナーを聞いていくつかの疑問は解消しましたが、まだ完全に納得できていないので、もう少し考えたいと思います。

ブログ・ランキングの使用についてのご指摘をありがとうございました。
これからもご協力をお願いします。

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Tags:コヨーテ インフレーション理論 アウトリーチ 
# by planckscale | 2009-10-31 14:51 | Trackback | Comments(2)
2009年 10月 30日
その後のニュートン
今日は、日本の学術振興会で科学研究費補助金を担当されている方々が研究室を訪問されました。日米の研究環境の違いなどについて調査されていらっしゃるそうで、1時間ほどお話しました。熱心な質問を受け、時間が足りなくなるほどでした。調査の成果が生かされるとよいと思います。

今日のコロキウムでは、『プリンキピア』を出版した後、ケンブリッジ大学のルーカス教授職を辞めて、ロンドンで造幣局長官となったアイザック・ニュートンの活躍について、MITの教授で著述家のトーマス・レベンソンさんが話されました。当時はフランスとの戦争で英国の財政が疲弊していたうえに、英国の金と銀の換算比が大陸のそれと異なっていたために銀が大量に流出するという問題が起きて、英国は深刻な金融危機に直面していました。そこで、ニュートンは金と銀の新しい換算比を勧告したり、貨幣の改鋳に取り組んだりしたそうです。また、当時は贋金作りが横行していて、英国の貨幣が信頼されない原因にもなったいたので、贋金作りの取り締まりもしたそうです。物理学のコロキウムとしては異色でしたが、興味深いエピソードが満載の話でした。

そういえば、理論物理学の大学院を出てから、ウォール・ストリートに転進して金融工学で働く人はよくいます。Quantitative Financeを縮めてQuantと呼ばれたりすることもあるそうです。

しばらく前に、エマニュエル・ダーマンさんの"My Life as a Quant"という体験談を読んだことがあります。日本語にも翻訳されているようですね。理論物理学で鍛えた数理的能力や、物事を最も基礎のところまで突き詰めて考えるという姿勢が金融工学でも有用だと聞いています。

ニュートンはQuantの元祖といえるかもしれません。

今日と明日は、奈良の西大和学園の中学3年生がCaltechを訪問しています。理科系の生徒なので、米国で研究している人に会いたいという要望でしたが、今日は私の授業と重なったので、大学院生の山崎さんに代わりに講演をしてもらいました。私も授業が終わってから少しだけ顔を出したら、山崎さんが学生の熱心な質問に次々と答えているところでした。

山崎さんありがとう。明日は私が講演をします。

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Tags:科学史 ニュートン アウトリーチ 
# by planckscale | 2009-10-30 12:40 | Trackback | Comments(0)
2009年 10月 29日
ルビンの壺
昨日は強い風が吹いていたので、今朝起きたら道のあちらこちらにヤシの木の葉がたくさん落ちていました。短いものでも人の背の高さぐらいあるので、これが10メートルぐらい上から落ちてくるとかなり危険です。昨晩は、フランスからのお客さんとパサデナの繁華街におすしを食べに行きましたが、強風のためか、それとも不景気のためか、人通りがすくないようでした。おすし屋さんのネタの種類も寂しかったような気がしましたが、これは最近日本に行く機会が増えて、日本食に不自由しなくなったからかもしれません。

今日のニューヨーク・タイムズ紙の「ダイニング&ワイン」のセクションには、ナパ・バレーの有名なレストラン「フレンチ・ランドリー」の経営者のトーマス・ケラーさんが、お父さんの最後の晩餐をしてあげた記事が載っていました。ケラーさんは、ご両親の離婚から長い間お父さんと疎遠だったそうですが、最近和解してナパ・バレーに一緒にお住まいだったそうです。お父さんを看取ることで、自分が人生で何がしたかったのかを考える機会になったとのことです。「ダイニング&ワイン」のセクションにしては、しんみりとした話でした。

IPMUは2年前に、文部科学省の世界トップレベル研究拠点の1つとして東京大学に設置されました。研究所の広報のために、年に4回、IPMU Newsを発行しています。私は今期号の、特集記事を担当しました。超弦理論の最新の研究について報告せよということなので、重力のホログラフィー理論(AdS/CFT対応)について書きました。ホログラフィーとは、レーザー光を使って立体像を平らな面に記録する方法を指しますが、超弦理論ではこの用語を借用して、量子重力の特別な性質を表現するのに使っています。

編集長からのご依頼には、「対象読者層は文科系の大学生程度をお考えください」とありましたので、式を使うことはもちろん、理科系の大学生なら常識になっている相対論や量子力学の知識もないものとして書かなければいけませんでした。

そこでたとえとして、ルービンの壺の絵を使いました。上の絵では、白いところに着目すると壺があるように、黒いところに着目すると2人が向かい合っているように見えますが、どちらの解釈が正しいということはありません。これを例として、重力のホログラフィー理論でも2つの一見矛盾したような解釈が両立しているということを説明しました。お読みいただけるとうれしいです。記事はこちらにあります。⇒ http://www.ipmu.jp/

原稿を書いてから、元文系大学生の人に読んでもらったところ、「えらい難しいこと、したはんのやね」といわれました。京都弁をごぞんじの方なら、ほめ言葉ではないことがわかると思います。orz

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Tags:IPMU 最後の晩餐 ヤシの木 
# by planckscale | 2009-10-29 12:35 | Trackback | Comments(4)
2009年 10月 28日
からみめ
子供の小学校では、今日はプール開きだったそうです。パサデナは気候が温暖なので、冬でも野外のプールで泳ぐことができます。学校のプールはたぶん温水だと思いますが。

私の学校では、今日は今学期最初の『物理学と幾何学のセミナー』がありました。私の素粒子論研究グループと数学教室の有志で共同で開いているセミナーです。セミナーを開くことで、Caltechの中の物理学者と数学者が集まる機会を持つのが本当の目的です。面白い話が聞ければ、さらに結構というわけです。皆さん忙しいので、月に1回のペースで開くのがちょうどよいようです。

今日は、数学教室の新任の助教授のイ・二さんに組み目や絡み目の分類について話していただきました。絡み目というのは上の左のようなもので、2つの輪が絡まっていて、どこかで切らないと2つに分けられないのはすぐにわかりますね。

では、右の図はどうでしょうか。線をたどると、2つの輪が絡まっていることが見て取れますが、この絡み目は解けるのでしょうか。すぐにはわかりませんね。絡み目が解けるかどうかを判定するアルゴリズムを作るというのが二さんの話でした。ボン・ジョーンズさんはこの問題に部分的な解答を与え、1990年にフィールズ賞を受賞されています。しかし、ジョーンズさんの方法では右の絡み目が解けるかどうかはわかりませんでした。

二さんは、この10年の間に開発されてきた、組みひものホモロジーという新しい方法を研究されています。この方法では、どのような絡み目でもそれが解けるかどうかを判定できるそうで、二さんはその証明の概略を説明してくださいました。この組みひものホモロジーの方法は、場の量子論や超弦理論のいろいろな側面とも関係しているので、私たちにも興味のある話題でした。

今日は、IPMUの文献紹介でダニエル・クレフルさんが話をしてくださることになっていたので、ビデオ会議で参加し始めたのですが、マイクの位置のためか声が聞きづらかったのであきらめました。後で係りの人に相談してみます。

ところで、右側の絡み目はテネシー大学のモーウェン・ティスルスウェイトさんが考えたものだそうです。

そこで…、

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Tags:水泳 組みひも マイク 
# by planckscale | 2009-10-28 13:28 | Trackback | Comments(4)
2009年 10月 27日
猫とコヨーテ
となりの奥さんが、飼っていた猫が迷子になったので見かけませんかと聞いていましたが、週末に我が家の庭師さんが木の影で亡き骸になっているのを見つけました。コヨーテの仕業のようです。そういえば、子供が学校に行くときにオオカミみたいだけれどそれより背の高い動物を見たといっていました。先月のウイルソン山の火事で野生動物が焼け出されて、食べ物を求めてふもとの町に降りてきているようです。となりの奥さんには、この猫のことをどうやって教えてあげたらよいでしょうか。

今日は朝から昼過ぎまで、物理学のある分野の研究戦略についての会議がありました。長い会議が終わって大学院生と少し議論をしたら、もう帰宅する時間になってしまいました。段々日が短くなってきたので、そろそろ自転車に電灯をつけたほうがよさそうです。今週末には標準時(冬時間)に切り替わるので、日が暮れるのが一挙に1時間早くなります。

夕食後はビデオ会議でIPMUのセミナーに参加しました。今日は、ベルナルド・ドウィットさんが超重力理論の作り方について話してくださいました。ちょうど、超重力理論のラグランジアンの細かい部分が知りたかったので、ありがたかったです。どのような変数を使うとうまくいくかを見極めるのは、職人芸です。

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Tags:山火事 コヨーテ 冬時間 
# by planckscale | 2009-10-27 14:50 | Trackback | Comments(0)
2009年 10月 26日
シンガポール式数学
私の子供は、平日はパサデナの現地校に、土曜日は日本政府に認可された補習授業校に通っているので、日米の教育方法の違いがよくわかります。昔は日本は米国より理数系の教育が進んでいたので、親の海外勤務のために日本から転向してきた生徒は、英語はできなくても算数ができるので尊敬されたと聞いています。ところが、最近では日本のゆとり教育の影響でしょうか、日本から来た子供が必ずしも算数が得意というわけではないようです。

現地校で4年生になった最初の週の宿題が素因数分解でした。日本では中学前期の教材だったように思います。先週、父母の会のパーティでお会いしたお母さんから、算数の宿題がわからなかったら電話してもいいですかと聞かれました。

現地校では昨年からシンガポール式の算数教育を取り入れるようになりました。シンガポールは算数の国際学力試験でしばしば世界1位になるので、教育方法にブランド力があるようです。たしかに、教材を見てみると理にかなった教え方をしているようです。昨日宿題をやっているのを見たら、鶴亀算を図形を使ってさくさく解いているので驚きました。

シンガポール式の数学は、2007年からカリフォルニア州教育委員会によって正式に認められたので、急に普及し始めたようです。バークレイの数学者サーシャ・ギベンタルさんのウェブサイトにも、シンガポール式の数学の宣伝が貼ってありました。

上から押し付けられるのではなく、学校が自主的にいろいろな教育方法を試すことは、一般的によいことだと思います。新しい方法を導入したときには、先生は特に熱心になりますし、生徒は先生が熱心なほどよく勉強するからです。その方法が本当によいものであれば、それはさらに結構なことです。

今日は日曜日でしたが、午前中に学校に行って大学院生と議論をしました。微分方程式の解であるはずのないものが数値的に見つかったので困っていたのですが、はじめに課していた条件が強すぎたということがわかりました。やれやれ。これで先に進めます。

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Tags:小学校 算数 シンガポール 
# by planckscale | 2009-10-26 10:03 | Trackback | Comments(4)
2009年 10月 25日
オリーブとベイビー・アインシュタイン
今朝、ファーマーズ・マーケットでハラペーニョ(メキシコ原産の唐辛子)を見ていたら、となりでオリーブを選んでいるおじさんがいました。そこで、オリーブの漬け方を教えてもらって、買って帰ることにしました。おじさんの処方箋だと水酸化ナトリウムを使うそうですが、インターネットで調べてみると他にもいろいろ方法があるようなので、いくつかに分けて実験してみます。漬かるのに1ヶ月以上かかるそうなので、うまく漬かったらまた報告します。

ニューヨーク・タイムズ紙に、『ベイビー・アインシュタイン』シリーズの教育ビデオを2004年以降に購入した人には、ディズニー社が購入金額を返金するという記事がありました。これを見せると赤ちゃんの頭がよくなるという売り込みで、私の子供が生まれたころには米国では評判でした。2003年には全米で赤ちゃんの3人に1人は『ベイビー・アインシュタイン』のビデオを持っていたそうです。私たちがパサデナに家を買ったときにお世話になった不動産屋さんも、赤ちゃんのためにぜひこれを買いなさいと勧めてくれました。我が家では結局買いませんでしたが、商品のネーミングとしては絶妙だと思いました。子供の相手をする時間がなくてビデオを見せてごまかしているときにも、罪の意識を感じなくてもすむという効果があったのだと思います。

ケンブリッジ大学の教授で超弦理論の発展に重要な役割を果たされたマイケル・グリーンさんが、スティーブン・ホーキングさんの後を継いでルーカス冠教授になられるそうです。アイザック・ニュートンをはじめ、バベッジやディラックも就いていた名誉ある職で、おめでたいことです。ロンドン・タイムズ紙には、グリーンさんは弦理論を開発した「弦楽四重奏団」の1人であるとの記事がありますが、これは間違いです。弦理論で「弦楽四重奏団」とは、ヘテロティック弦理論を構成したプリンストン大学の4人組のことを指します。ロンドン・タイムズ紙にしてはずさんな記事でしたね。これに対しガーディアン紙には、きちんと調べられた記事が掲載されていました。

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Tags:オリーブ 新生児教育 ケンブリッジ大学 
# by planckscale | 2009-10-25 12:56 | Trackback | Comments(0)
2009年 10月 24日
竜とブラックホール
今日は子供の学校の父母のパーティがありました。ハロウィーンにはまだ1週間ありますが、凝った仮装で来るカップルがいたり、占い師やライブバンドが登場したり、父母の会で校長先生もいらしているのに、アメリカ人の乗りのよさには圧倒されます。私は仮装をしていかなかったので、竜のフェイス・ペイントをされました。

今日の午後は、大学の新入生のために現代物理学の入門講義をしました。毎週、先生が交代で自分の分野の話をわかりやすく説明することになっています。私は、昨年東京大学の物理学教室でさせていただいたコロキウムと、春に多摩六都未来館のサイエンスカフェでのスライドを組み合わせて、ブラックホールの量子論について話しました。

講義の後で、学部の間にこのような分野で何か研究できないかと相談されました。Caltechでは、実験分野では学部学生でも研究に参加して、論文を書く人もいますが、理論物理学、特に素粒子論でオリジナルな仕事をするのには準備が必要です。以前に、高校のときに場の量子論を勉強したという学生がいて、そのときにはDブレーンの勉強をさせて論文も書かせたら、それに対して学内のファインマン賞が授賞されたことがあります。しかしこれは例外的で、普通は「場の量子論を勉強してからまた来てね。」といって追い返してしまうことが多いので、何かもっと気の聞いた対応ができないものかと思います。

今日の超弦理論セミナーでは、プリンストンの高等研究所のアナトリー・ディマルスキーさんがN=4超対称ゲージ理論のウィルソン・ループについて話してくれました。まだ論文になっていないので詳しいことは書けませんが、純粋スピノルを使ってウィルソン・ループへをきれいに分類してくれました。これで、経路積分の局在化の現象がうまくわかるともっとよいのですが。

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Tags:ハロウィーン ブラックホール ファインマン 
# by planckscale | 2009-10-24 14:24 | Trackback | Comments(0)
2009年 10月 23日
ジップ と ドット
今日学校に行ったら、学内の道にジップ・カーが置いてありました。⇒ http://www.zipcar.com

あらかじめ登録しておけば、通常のレンタカーより簡単に、ふらりと行って車が借りられるそうで、カーシェアリングと呼んだり、プチレンタルと呼んだりしています。平日は勉強に忙しく週末に短時間だけ車が必要な学生には、車を買うより簡単で安上がりだと思います。そういう意味では、レンタカー業界とではなく、「車の所有」と競合するビジネス・モデルでしょうか。

私は、米国に始めてきたときに、なれない英語で車を買って、故障に悩まされたので、その頃にこのようなサービスがあったらと思います。Caltechの教授は輸送部で車が借りられるので、今はいらないのですが。

今日のコロキウムは、イェール大学のシャンカーさんでした。アスペンでは毎年のようにお会いしていますが、Caltechにいらしたのは初めてだそうです。昨晩は学内の職員会館にお泊りになってその施設に感心されたようで、「君たちは金融危機があったことを知っているのかね。」と言われました。それなりに苦しんでいるのですが…。

コロキウムというのは物理学教室全体に向けた話なので、最近は派手な効果のパワーポイントを使った講演が多いのですが、シャンカーさんは黒板でメモも持たずに1時間お話になりました。電子が小さい領域に閉じ込められた量子ドットの理論についてで、ランダム行列理論やくりこみ群の考え方を絵を使ってわかりやすく解説されました。ジョークが満載で、笑いながらしっかり勉強にもなるという名講義でした。ランダム行列(行列積分)はちょうど大学院の講義で説明したところだったので、よいタイミングでした。

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Tags:カーシェアリング 黒板 量子ドット 
# by planckscale | 2009-10-23 10:52 | Trackback | Comments(0)
2009年 10月 23日
量子重力理論
今年は、日本語の解説記事を書く機会がたくさんありました。超弦理論の現状と展望について書いた記事が、サイエンス社から今月出版された『別冊・数理科学』の「量子重力理論」特集号に掲載されました。

雑誌『数理科学』に出版された記事の再録もありますが、量子重力理論の様々な側面を研究されている先生方による、新規の記事も多数掲載されています。

小玉英雄: 「量子重力理論」 ~検証に向けた新たな展開~
米谷民明: 「量子重力理論の起源」
川合光: 「素粒子論の現状と展望」 ~量子重力の立場から~
高柳匡: 「量子重力と共形場理論」
西村淳: 「超弦理論の数値シミュレーション」
向山信治: 「宇宙の暗黒成分と量子重力」

私の記事は、「素粒子の統一理論としての超弦理論」と題しています。超弦理論の研究から生み出された理論物理学の手法は物理学のさまざまな問題に応用されていますが、その本来の目的は素粒子の究極の統一理論の構成にあると思います。そこで今回の記事では、超弦理論の本来の目的に正面から向き合い、超弦理論から素粒子の究極の統一理論を構成しようとする試みの現状について解説しました。話題になっているストリングランドスケープについて考察し、また最近のF-理論を使った現象論的模型の構成についても解説しました。

先週末に、神保町の三省堂書店に行ったら、理工系のフロアーでエスカレータを降りた目の前に平積みになっていました。

私も含めて、7名の新規執筆者のうち3名がIPMU関係者です。お読みいただけるとうれしいです。

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Tags:解説記事 量子重力 超弦理論 
# by planckscale | 2009-10-23 00:07 | Trackback | Comments(2)
2009年 10月 21日
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# by planckscale | 2009-10-21 23:36 | Trackback | Comments(0)
2009年 10月 20日
講義再開
カリフォルニアに帰ってきました。先週は1週間留守にしていたので、ポストドクトラル・フェローのクリストフ・ケラーさんに代講してもらいました。今日はケラーさんと打ち合わせをして、明日からの講義の準備をしました。

カリフォルニア大学のバークレイ校にいたときには、学期中に出張する場合には、物理学科長に出張中の授業をどうするかを必ず書面で報告する必要がありました。Caltechはそれほど厳しくありませんが、やはり代講を立てるか、もしくは帰ってきてから補講をすることが期待されています。

私が京都大学の学生の時には、1つのコースは1週間に1時間半から2時間だったと憶えていますが、米国の大学では、1週間に3時間(1時間の講義が3つか、1時間半の講義が2つ)が標準です。また、オフィス・アワーといって、週に1時間か2時間必ず自分の居室で待機していて、質問を受け付ける時間を設けることが望ましいとされています(バークレイでは義務でしたが)。オフィス・アワーを設けておくと、学生が気後れせずに質問に来れるという配慮だそうです。この他に、宿題を作ったり採点をしたり(採点はティーチング・アシスタントがしてくれるのが普通ですが)することを考えると、1つのコースにかなりの時間を使うことになります。

日本の大学と比べると、米国の大学は学生を手取り足取り教えているという印象を受けます。米国では1950年代~60年代の高等教育の大衆化にともなう大学・大学院改革で、このようなスタイルになったのだと聞いています。日本式か米国式かどちらがよいかは学生によると思います。私は、京都大学で同級生と自主ゼミで勉強したことが後々に役に立ちましたが、米国式にみっちり教えてもらってもよかったかなと思うこともあります。


Tags:Caltech 講義 米国式 
# by planckscale | 2009-10-20 11:28 | Trackback | Comments(0)
2009年 10月 19日
『グルメ』廃刊
コンデ・ナスト社出版の雑誌『グルメ』が廃刊になったそうです。1941年創刊の伝統ある料理雑誌で、ニューヨーク・タイムズ誌の扱いは著名人の追悼記事のようです。また論説欄には、調理法を科学的に分析する雑誌『クック』の編集長のクリストファー・キンバルさんが『グルメ』廃刊について長文の論説を寄稿していらっしゃいます。

コンデ・ナスト社は料理関係の雑誌として『グルメ』誌と『ボナペティ』誌を持っていて、出版不況のためそのうち一誌は廃刊になるのではないかといわれていましたが、『グルメ』誌が廃刊になるとは驚きました。『ボナペティ』誌の方が簡単な料理を載せていたので、購読者数は多かったようです。

今週のニューヨークタイムズ誌日曜版では、デボラ・ソロモンさんが、解雇されたルース・レイシュル編集長をインタビューしています。『グルメ』誌には、『ニューヨーカー』誌と同じぐらいの購読者数があったそうです。『ニューヨーカー』誌もコンデ・ナスト社の出版ですが、まさかこれまで廃刊になるということはないでしょうね。

『グルメ』誌は、かつてはM. F. K. フィッシャーが記事を書き、サミュエル・チェンバレンの「クレメンタインの台所」が最初に掲載されたのもこの雑誌です。最近でも、旅行記など読み応えのある記事があって楽しみにしていたのに残念なことです。

先日お亡くなりになった海老沢泰久さんによる辻静雄さんの伝記『美味礼賛』によると、辻さんがフランス料理の海外武者修行に出かけたときに最初にお会いになったのがフィシャーとチェンバレンだったそうです。この本は、18年ぐらい前に出版されたとき読んだのですが、文庫本になっていたのでまた眺めてみました。特に辻さんが本場のフランス料理を発見される前半の部分は、『坂の上の雲』のような勢いがあります。単行本では丸谷才一さんの名文が解説として掲載されていたように憶えていますが、あれはどうなったのでしょうか。

『グルメ』誌の廃刊に戻ると、キンバルさんの論説はインターネットの発達のために、深い考察や高い技量が軽んじられる傾向を嘆いています。私の専門の理論物理学でも、電子プレプリントのアーカイブが始まってから、論文の書き方のみならず、研究のスタイルも様変わりしました。これについては、別な機会に書きたいと思います。


Tags:雑誌 辻静雄 出版 
# by planckscale | 2009-10-19 07:40 | Trackback | Comments(0)
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