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2012年 05月 25日
ディッチ・デイ

Caltechでは、春学期のある日が、突然「ディッチ・デイ」になります。

今年卒業する4年生が、「今日はディッチ・デイだ!」と宣言して、どこかに遊びに行ってしまうとディッチ・デイになります。教授も知らされておらず、生徒に「今年のディッチ・デイはいつだ」と聞いても、「さあ、明日でしょうか」と答えるのが習慣になっています。知らずに大学に来て授業をしようとしたら、休講になっていたということもあります。

4年生は、どこかに行ってしまう前に、学生寮やら校庭やらに、さまざまなパズルや迷路、宝探しを仕掛けておきます。もともとは、4年生がいない間に、下級生が寮の部屋に入って悪さをしないようにするためだったそうです。

左の写真は、回廊の天井から何千もの鍵がぶら下がっているところ。回廊の横に小箱が置いてあって、正しい鍵を見つけないと鍵が開かないようになっていました。天井にいろいろなヒントを書いたテープが貼り付けてあるようでした。

Caltechでは、もう90年以上続いている行事です。

Caltechのプランク(学生のいたずら)の規則にのっとって、すべて「現状復帰可能」になっているようです。

卒業間近の4年生が、期末試験の前に気晴らしをするのにちょうどよい行事のようです。

ディッチ・デイがあって、アセネアム(教員会館)の前でビア・ガーデンが始まると、夏が来たなと思います(下の写真)。


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# by planckscale | 2012-05-25 12:32 | Trackback | Comments(0)
2012年 05月 21日
TEDxUTokyo
土曜日の早朝に東京について、日曜日には東京大学本郷キャンパスの伊藤謝恩ホールで開かれたTEDxUTokyoで講演をしました。

TEDの講演の目的は、「広める価値のあるアイデア(Ideas worth spreading)を語る」ということだそうです。私の講演では、2つのアイデアを語りました。

ひとつは、「究極理論は存在する」というアイデア。私たち人間は細胞からできていて、細胞は原子から、原子は電子と原子核から、原子核は陽子と中性子から、陽子と中性子はクォークからできているとされていますが、ではこの連鎖(自然界の階層構造)はいつまでも続くのか、それともどこかに終わりがあるのか。講演では、この連鎖はあるところ打ち止めになり、そこに究極理論が存在すると考える根拠を述べ、その候補である「超弦理論」について語りました。

しかし、今回のTEDxUTokyoは「10年後のイノベーションを共に描こう」というテーマでしたので、純粋に学問的な話題だけでなく、このような「役に立たない研究」にどのような意義があるのかについても語りたいと思いました。

私たちが日々手にふれるもののほとんどすべては、科学の成果によって開発されたり改善されたりしたものです。その科学の進歩のためには基礎から応用につながる幅広いポートフォリオが必要です。しかしそれだけでなく、イノベーションには、純粋な好奇心による基礎研究から生まれてきたものが数多くあります。

私の講演の次には、Yahooの事業戦略統括本部長をされている安宅和人さんが登壇されることになっていたので、インターネット産業の基礎となっているウェブブラウザーは、CERNにおける素粒子物理学の研究のために発明されたという話をしました。

また、Caltechの学長が最近行った講演から、次の部分を引用しました:

「科学の研究が何につながるかをあらかじめ予測することはできないが、真のイノベーションは、自由な心と集中力を持って夢を見ることができる環境から生まれる。」

「一見役に立たない知識の追求や好奇心を応援することは、わが国(米国)の利益になることであり、これは守り育てていかなければいけない。」

イノベーションがやせ細らないように、基礎的な研究も大切にしていただきたいと思います。

TEDxUTokyoの動画は、USTREAMで見ることができます。⇒ 私の講演は01:04:35のあたりから始まります

また、登壇者ごとの動画も、そのうちYouTubeにTEDxUTokyoチャンネルを作って配信されるそうです。

私の講演のスライドもこちらにおいておきます。⇒ TEDxUTokyoのスライド

普段の講演では原稿は作らないのですが、今回は同時通訳に必要ということで、原稿を用意してそれに沿って話をしました。講演の後で、「スライドに用意してあることから外れて話をした部分が特に印象に残った」、また「講演の後のQ&Aでの受け答えがよかった」とのご意見をいただきましたので、会場からの反応を見ながらの即興の部分も大切なのだなと思いました。

私は午後の部から参加しましたが、すばらしい講演をお聞きすることができました。

たとえば、東京大学地震研究所の大木聖子さんは、ご自身の経験を踏まえて、地震による「理不尽な死」を防ぐためのアウトリーチ活動の重要性について語られました。

その内容も感動的でしたが、美しい英語にも感銘を受けました。こうした場所でのプレゼンテーションのお手本のような講演で、私の日本語なまりの英語とは大きなコントラストでした。

東京大学生産技術研究所の沖大幹さんは、地球上での水の循環システムというスケールの大きな話で、観測されている海面の上昇率が、地球温暖化による氷の溶解や海水膨張だけでは説明できない。地球温暖化とは直接関係のない、地下水のくみ上げなどの人間の活動が海面の上昇に大きな影響を与えているという話をされました。翌日に『ネイチャージオサイエンス』誌に発表される予定の「解禁破り」の新鮮な内容でした。

沖さんは、語り口といい間のとり方といい絶妙で、会場を沸かせていました。ふと思って、講演の後に「関西のご出身ですか」とおききしたら、その通り。「関西の学校では、いくら勉強ができても、笑いが取れないと尊敬されない」のだそうです。子どものころから鍛えられているのですね。

今回のTEDxUTokyoは、企画から運営まですべて東京大学の学生が行ったものでした。皆さん情熱を持って取り組まれて、すばらしいイベントになったと思います。

私の講演の準備でも、講演の概要から原稿の作成、スライドのデザインにいたるまでお世話になりました。講演は普段一人で準備するのですが、他の人に見ていただいて意見をいただき、「そういう見方もあるのか」と参考になることもありました。私の受け持ちとなって下さった工学部の入矢達秋さん、ありがとうございました。

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# by planckscale | 2012-05-21 19:13 | Trackback | Comments(0)
2012年 05月 18日
『重力とは何か』
昨年の5月から準備してきた科学解説書

『重力とは何か ― アインシュタインから超弦理論へ、宇宙の謎に迫る』

が、5月30日に幻冬舎新書から出版されます。

昨年のノーベル物理学賞が、「遠方の超新星爆発の観測による宇宙の加速膨張の発見」に与えられたことに象徴されるように、宇宙物理学の発展は、これまで私たちの知らなかった宇宙の姿を明らかにしつつあります。

これにより、これまですべての物質の元であると考えられてきた原子は、実は宇宙のたった4パーセントに過ぎない。宇宙の大部分は「暗黒物質」や「暗黒エネルギー」など、まだ正体のわかっていないものでできていることが明らかになりました。

このような発見の基礎となっている物理学は、「物質」とそこの間に働く「力」によって自然を理解する学問です。

宇宙を理解するためには、それがどのような「物質」からできているかを知るだけでなく、それらの間に働く「力」を解明しなければなりません。そして、宇宙を理解するために一番大切な力が「重力」なのです。

なぜいまさら重力なのかと思われるかもしれません。しかし、実は重力の働きはまだ完全に解明されておらず、重力の謎は、宇宙そのものの謎と深く関わっているのです。

本書では、重力の理解に革命をもたらしたアインシュタインの相対論から始まり、ブラックホールやビッグバン、ホーキングのパラドックス、さらには究極の統一理論とされる超弦理論にいたる、過去百年間の物理学者たちの冒険をたどります。

「重力って当たり前にある力のようだけど、何がふしぎだというのだろうか」、
「ホーキングという名前は聞いたことがあるが、あの人はなぜ偉いのだろうか」、
「超弦理論って、なにやら難しそうな理論だけど、いったい何のことだろう」

などと思われたら、手にとって見てください。

「やさしくても本格的」を心がけて、新しい説明の方法を工夫し、予備知識がなくてもきちんと理解できるように書きました。

物理の勉強をしたことのない高校生や、高校を卒業してから何十年も理科にふれたことのない方から、これまで宇宙や素粒子の一般向け解説書を読んできてさらに深く理解したい方まで、どのような読者にも「読んで新しい発見があった」と思っていただける本になったと自負しています。

本書のイラストは、一部専門家にトレースしていただいたものを除き、すべて私が描きました。

幻冬舎の編集局が「重力のホログラフィー原理」のイラストを気に入って下さり、帯に採用して下さったのはうれしかったです。

右がその帯の写真です。

本書の企画は、重力の七不思議から説き起こし、相対性理論と量子力学の大切なところをきちんと押さえ、さらに超弦理論の最新の発展やホログラフィー原理までを解説するという野心的なものでした。そのため、幻冬舎新書の小木田順子編集長と何度もお会いして、予備知識なしでわかるかどうか、すみからすみまでチェックをしていただきました。

何度目かのミーティングのときに、文系出身の小木田さんが、

「特殊相対論はもうわかったので、今日は一般相対論をきちんとわかろうと思います」

と切り出されたのには驚きました。しっかり「素人チェック」が入っています。

発売は今月末ですが、アマゾンではすでに予約販売が始まっています。
⇒ アマゾンでの予約はこちらから

お読みいただけるとうれしいです。

以下に、本書の「はじめに」から、本書のプランの部分を転載しました。「本書のプラン」と書いてあるところをクリックしていただくと開きます。

本書のプラン
# by planckscale | 2012-05-18 08:52 | Trackback | Comments(0)
2012年 05月 16日
ニューヨーク出張とTEDx
日曜日の夕方の飛行機に乗って、ニューヨークに行きました。深夜には到着するはずが、飛行機のコンピュータの異常で、2時間遅れ。飛行機がコンピュータのようにリブートするのは気持ちよいものではありません。

ホテルにチェックインしたのは午前3時過ぎでした。

月曜日は、朝の8時半から一日会議。そのあと夕食会があって、ホテルに戻ったのは午後10時過ぎでした。

今日は、ロサンゼルスに戻る飛行機の中でこのブログ記事を書いています。

ロサンゼルス⇔ニューヨーク直行便の中では、インターネットサービスがあるので、便利なのかどうなのか。

ところで、この日曜日に東京大学の本郷キャンパスで開かれるTEDxUTokyoには、700名以上の参加希望者があったそうです。

私の講演は、日本語ですべきか英語ですべきか迷ったのですが、「こんな日本語なまりの英語でも米国の大学で教授ができる」例として、英語でお話をすることにしました。

当日のプログラムでは、日本語での講演者が10名、英語での講演者が8名だそうなので、どちらでしてもよいということなのでしょう。

当日、会場に入れない人のために、「ニコニコ生放送」と「Ustream」で生中継が行われるそうです。

⇒ ニコニコ生放送、Ustream、Ustream 英語版

生中継には同時通訳が付くそうです。

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# by planckscale | 2012-05-16 07:29 | Trackback | Comments(0)
2012年 05月 11日
超弦理論で世界の成り立ちを探る
科学雑誌『日経サイエンス』の6月号に、私の研究を紹介して下さる記事が掲載されました。

タイトルは「超弦理論で世界の成り立ちを探る」 

「フロントラナー:挑む」というシリーズで、今回で16回目だそうです。

『日経サイエンス』の中島林彦編集長とカメラマンがカブリIPMUまでいらっしゃり、私のオフィスでインタビューをされました。中島さんはとても和やかな方で、楽しく話をさせていただきました。

「素粒子論を志したのはいつか」というご質問に、「小学校の時に湯川秀樹の伝記を読んで、思考の力で自然界の最も深くゆるぎない真実に到達したという話に感動した」というお話をしたら、「なんともベタな話ですね。本当なら仕方ないですが」といわれてしまいました。

確かに月並みな動機なので、それを職業にできたことはなんとも幸運なことだと思います。

超弦理論の発見から、1984年の第一次超弦理論革命、トポロジカルな弦理論、ホーキングの情報問題とその解決まで、超弦理論の過去40年間の発展の歴史を、私の経歴も織り交ぜながら、4ページにまとめられたのはさすがだと思いました。

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# by planckscale | 2012-05-11 12:48 | Trackback | Comments(0)
2012年 05月 09日
量子エンタングルメント
前々回のブログで広報した『素粒子論のランドスケープ』をお読みいただいた平田康隆さんから、「ホーキング放射で放射される粒子1と事象の地平線に落ち込む粒子2」との間の「量子もつれ」について、コメント欄に質問がありました。

ちょうど今日、Caltechの大学院生から「量子エンタングルメント(もつれ)」について話を聞いたばかりだったので、書いてみます。

量子力学の世界では不思議なことがいろいろ起きますが、その中でも「エンタングルメント」は直感に反したものの代表でしょう。二つの粒子を考えて、その「波動関数」がもつれた状態にあるときに、量子状態を保ったまま二つの粒子を離していくと、「もつれ」がそのまま続いて行きます。そうすると、一方の粒子の観測を行うと、もう一方の粒子の状態も影響を受けることになります。

この影響は、光より速く瞬時に伝わる。そうすると、特殊相対論に矛盾するように思えます。

この不思議な事実を最初に指摘したのは、アインシュタイン、ポドルスキーとローゼンで、3人の頭文字を取ってEPRのパラドックスと呼ばれています。アインシュタインはこれを「spooky action at a distance(不気味な遠隔作用)」と呼んで、このために量子力学のコペンハーゲン解釈は間違っていると考えました。

実は、このような量子エンタングルメントを使っても、光より速く情報を伝えることはできないので、特殊相対論とは矛盾しません。それどころかこのような効果は、実際に実験室で検証されています。これは、最近注目されている「量子コンピュータ」の基本概念でもあります。

この量子エンタングルメントについての講演を聞く機会がありました。

Caltechで私が所属する数学・物理学・天文学部門では、半年に一回、外部のアドバイザーのグループがいらして、相談にのってくださる会があります。今日はその会のプログラムの一部で、3人の大学院生が自分の研究の発表をしました。

その一人が、ジェフ・キンブルさんの学生の碁盤晃久さん。キンブルさんの研究室は、まさしく、量子エンタングルメント実験のメッカです。

出張中のキンブルさんに代わって碁盤さんの紹介をしたジョン・プレスキルさんが、量子エンタングルメントのうまいたとえ話をしていたので、引用します。

「沢山のパーツからなる量子力学系、たとえば100ページの『量子本』を考えて見よう。もしこの本が古典力学に従うのなら、最初の10ページを読めば、本に書いてあることのおよそ10パーセントはわかる。しかし『量子本』では、10ページ読んでも、本に何が書いてあるのかはさっぱりわからない。それは、情報が個々のページに印刷してあるわけではないからである。本の情報は、いろいろなページの間の相関関係に書き込まれているのだ。そして、この相関関係はとても複雑なので、『量子本』に書かれている情報を、まるごと『古典本』に記録しようとすると、天文学的な大きさになって、とても書ききれるものではない。」

「量子コンピュータ」の概念を実験室で実現するためには、二つの粒子の間だけでなく、「沢山のパーツからなる量子力学系」のエンタングルメントが必要になります。これが碁盤さんの目標で、講演のタイトルも、「スケーラブルな量子ネットワークを目指して」でした。

講演の後は、実験室のツアーもあって、上の写真はそのときのものです。

他の二人の大学院生の講演者は、デバリーナ・ナンディさんとクリス・ローガンさん。

ナンディさんは、インドの大学院でカーボン・ナノチューブの研究をしていたのですが、たまたま学会でインドを訪れたCaltechのジム・アイゼンシュタインさんの講演に引きつけられて、何のつてもないのに、その年の夏休みにアイゼンシュタインさんの研究室に飛び込んできてインターン。その後、Caltechの大学院を受けなおして、トップで合格してミリカン・フェローになったとうやる気満々の学生です。

最後のクリス・ローガンさんは、CERNのLHC実験に参加しています。LHC実験では膨大なデータの中から新粒子のヒントを見つける必要があります。ローガンさんたちは、「レーザー変数」と呼ぶ新しい方法を開発して、データ解析に新境地を開いたのだそうです。米国の『フォーブス』誌の「30歳以下の30人のリーダー」の科学部門に選ばれました。

三人とも、研究をするのが楽しいという気持ちが素直に伝わってくるすばらしい講演でした。

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# by planckscale | 2012-05-09 16:22 | Trackback | Comments(4)
2012年 05月 06日
TEDx とマヨラナ・フェルミオン
昨年はCaltechでTEDxCaltechがありましたが、今年の5月20日(日)には東京大学の本郷キャンパスでTEDxUTokyoが開かれます。

私にも登壇のご依頼があり、ちょうど機会よく東京に行く予定があったので、参加することにしました。私の講演のタイトルは、「究極理論の夢」。なぜ究極理論が存在すると信じるのか、その候補である超弦理論は何を目指しているのか。私自身の研究動機を交えつつ、自然界の最も奥深い真実である究極理論への旅を語りたいと思います。

参加申し仕込みは5月12日締め切りで 、こちらから。⇒ TEDxUTokyo参加申し込み

Caltechでも、来年の1月にまたTEDxCaltechが開かれます。今回のお題は「脳」だそうです。

話は変わりますが、今週のコロキウム(物理教室談話会)は、カリフォルニア大学アーバイン校のジェイソン・アリシアさんが、物性物理学におけるマヨラナ・フェルミオンについてお話になりました。

電子には反粒子があって、質量は電子と同じですが、電荷が逆符号の粒子です。陽電子と呼ばれていて、ディラックが予言し、アンダーソンが宇宙線の中に発見しました。一般に、粒子と反粒子が出合うと、対消滅して、光などのエネルギーになります。逆に真空にエネルギーを与えると、粒子と反粒子を対生成することができます。

電子の場合には、その反粒子である陽電子は電子と逆符号の電荷を持つ別種の粒子ですが、自分自身が反粒子になる粒子もあります。たとえば、光の量子である光子もその例です。

電子のようなフェルミ型粒子(フェルミオン)でも、自分自身が反粒子になる場合があり、これがマヨラナ・フェルミオンです。

イタリアの物理学者エットーレ・マヨラナが1937年に予言しました。しかしマヨラナは翌年、シチリア島のパレルモからナポリに向かう船に乗った後で失踪してしまいました。事故、自殺、誘拐、暗殺、亡命など様々な説がありますが、マヨラナの行方は謎のままです。

マヨラナ・フェルミオンは、素粒子の模型でしばしば考えられ、たとえば、ニュートリノがマヨラナ・フェルミオンかどうかというのは素粒子物理学の大きな問題です。ニュートリノがマヨラナ・フェルミオンなら、ニュートリノを含まない二重ベータ崩壊が起きるはずなので、それを確かめようとする実験も盛んに行われています。

これとは別に、物性物理学の分野でも、マヨラナ・フェルミオンの存在が予言されていました。たとえば、超伝導状態では、電子数が保存していないので、超伝導状態から粒子を生成する作用と、反粒子を生成する作用が混ざることになります。このような特殊な量子状態を考えると、電子の集団現象として、マヨラナ・フェルミオンが現れることがあるというのです。

そこで、世界中の研究所が物性現象の中にマヨラナ・フェルミオンを見つける競争をしていたのですが、オランダのデルフト大学のカブリ・ナノサイエンス研究所のグループがついにこれを発見しました。東京大学のカブリIPMUと同じカブリ財団による支援を受けている研究所です。先月の『サイエンス』誌に発表になりました。

量子力学の原理を使って計算を行う量子コンピュータの理論は盛んに研究されていますが、これを実際に行うためには、量子情報を保つ方法が必要になります。その一つの方法として、マヨラナ・フェルミオンを使うことが考えられています。マヨラナ・フェルミオンが現れるような状況では、量子情報を、波動関数のトポロジカルな性質に保存することができるからです。

ここ数年話題になっているトポロジカルな絶縁体といい(先日カブリIPMUからプレスリリースを出していただいた押川さんと私の研究も関係する話題です)、今回のマヨラナ・フェルミオンといい、場の量子論を高度に使った理論的予言が物性実験で実証されるのは楽しいことだと思います。

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# by planckscale | 2012-05-06 14:39 | Trackback | Comments(0)
2012年 05月 01日
『素粒子論のランドスケープ』出版
サイモンズ・シンポジウムから帰ってきたら、数学書房が私の解説記事を一冊にまとめて下さった本『素粒子論のランドスケープ』の見本がとどいていました。

数学書房の横山伸さんから

「岩波科学、パリティ、数理科学、などなどにお書きになったお原稿を、纏めて1冊の本として出版させていただく御願いをさせていただきます」

というメールをいただいたのは、2010年1月のことでした。それから、2年以上たってしまいました。

科学アウトリーチ活動の一環として解説記事の執筆を積極的に引き受けてきました。すでに手に入りにくくなっているものもあるので,まとめておくことにも意義があるかと思い,お願いすることにしました。

18年前に高校生向けの数学雑誌『大学への数学』のために書いた記事や、『丸善数理科学事典第2版』の「超弦理論」の項目、また単行本の1章として書いた「くりこみ理論」の解説も再録されています。

いろいろな場所に発表した記事を集めたので、読者の案内のためにも、各々の記事のはじめに,その記事を書いた背景を想い出して書いた紹介文をつけました。

また,本書の末尾には、59項目の専門用語について短い解説を書きました。

掲載された解説記事のリストは、掲載順に以下のようになっています(〈〉内は初出):

[1] 素粒子論のランドスケープ
〈『現代思想』、2010年9月〉

[2] 素粒子物理学の50年 ―「対称性の破れ」を中心に
〈『科学」、2009年1月〉

[3] 一般相対論と量子力学の統合に向けて ― 素粒子物理学と現代数学の新しい関係
〈『大学への数学』、1994年7月〉

[4] 幾何学から物理学へ、物理学から幾何学へ
〈『数理科学』、2009年4月〉

[5] 場の量子論と数学 ― くりこみ可能性の判定条件
〈『この定理が美しい』、2009年6月〉

[6]力は統一されるべきか
〈『数理科学』、2010年8月〉

[7] 多様性と統一 ― 2つの世界像についての対話
〈『固体物理』、2007年8月〉

[8] IPMUシンポジウム「素粒子と物性との出会い」の報告
〈『日本物理学会誌』、2010年8月〉

[9]素粒子論ことはじめ ー『湯川秀樹日記』書評
〈『数学セミナー』、2008年6月〉

[10] 超弦をめぐる冒険
〈『パリティ』、2010年11月〉

[11] 素粒子の統一理論としての超弦理論
〈『別冊数理科学:量子重力理論』、2009年10月〉

[12] 超弦理論
〈『丸善数理科学事典第2版』、2009年12月〉

[13] 数理物理学、この10年(1991年-2001年)― 超弦理論からの展望
〈『数学セミナー』、2002年3月〉

[14] 超弦理論、その後の10年(2001年-2011年)
〈本書のために書き下ろし〉

[15] トポロジカルな弦理論とその応用
〈『日本物理学会誌』、2005年11月〉

[16] ディビット・グロス教授に聞く
〈『IPMUニュース』、2010年1月〉

[17] 宇宙の数学とは何か
〈『科学』、2009年7月〉

[18] 重力のホログラフィー
〈『IPMUニュース』、2009年9月〉

[19] 量子ブラックホールと創発する時空間
〈『パリティ』、2009年6月〉

[20] 素粒子論と宇宙論の現在 ― リサ・ランドール教授、村山斉教授との鼎談
〈『パリティ』、2009年6月〉

よろしければ、ご覧ください。

amazonや数学書房のウェブサイトから、購入することもできます。
⇒ amazonウェブサイト
⇒ 数学書房ウェブサイト


本書の「はじめに」の文章を転載します:

私は,カリフォルニアの大学で教鞭をとるようになってから 18 年になります。カリフォルニアに引越してから最初の10 年ほどの間は,日本には 1 年に 1 回帰る程度でした。しかし, 2004 年からは日米国際交流プログラムのおかげで東京大学の素粒子論研究室を定期的に訪問するようになり,このプログラムの締めくくりの 2007 年の春には本郷に 2 ヵ月滞在して研究をしました。この年には,文部科学省から「世界トップレベル研究拠点プログラム」の公募があり,東京大学からの「数物連携宇宙研究機構(IPMU (注1))」の提案をするお手伝いをすることもできました。その秋に設立された IPMU には,私も主任研究員として参加することになり,超弦理論を中心とする理論物理学と数学の研究に取り組んでいます。ロサンゼルスと東京の往復のため,昨年は1 年間で 10 万マイル以上飛行機に乗りました。

日本に定期的に戻るようになってから,科学解説記事の執筆を依頼される機会が増え,またIPMU が設立されてからは,科学アウトリーチの一環として記事の執筆を積極的に引き受けてきました。これらの記事をご覧になった数学書房の横山さんから,単行本として出版したいとのご提案をいただきました。すでに手に入りにくくなっているものもあるので,まとめておくことにも意義があるかと思い,お願いすることにしました。

いろいろな場所に書いた記事を集めたので,読者の便宜のために,☆の数で難易度を表すことにしました。

☆ : 高校生や文科系の学部学生程度を念頭において書いた読み物。
☆☆ : 理科系の学部学生が気楽に読める読み物。
☆☆☆: 数式が遠慮なく出てくる解説記事。

各々の記事のはじめには,記事の背景についての解説をつけました。また,本書の末尾に専門用語の解説を書きましたので,よろしければご参考になさってください。

記事の執筆の際に有益なコメントをいただいた皆さん,ここに全員の名前をあげることはできませんが,ありがとうございます。また,第7 章の対談や第8 章の記事の共著者の青木秀夫さんは,本書への転載を快く了承してくださいました。本書への記事の転載を許可してくださった出版社の皆さんにも感謝します。IPMU の広報誌『IPMU News 』に掲載された記事については,印税の相当額をIPMU に寄付し,IPMU の活動に役立てていただきます。

本書第10 章の「超弦をめぐる冒険」にも書きましたが,研究室の帰りに夜空の星をながめながら,この答を知っているのは世界に自分しかいないという感動を覚えるというようなことは,研究者なら誰しも経験することです。しかし,その後には,その感動をできるだけ多くの人に伝えたくなる。その意味で,アウトリーチというのは,研究者にとって自然な活動だと思います。自分の発見した真実を知ってもらうことは楽しい。

また,このような活動を通じて,自分の研究の意義を反省することも大切なことだと思います。日本には普通の書店で手軽に購入できる科学雑誌が数多くあり,アウトリーチ活動を支えていることは,社会の科学への関心の高さを表しています。

最後になりましたが、本書のご提案をいただき、丁寧に編集をしてくださった横山伸さん、ありがとうございました。

2011 年8 月柏キャンパスにて
大栗博司

注.1 米国のカブリ財団による寄付基金の設立に伴い,2012 年4 月より「カブリIPMU」と改称になりました。

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# by planckscale | 2012-05-01 16:01 | Trackback | Comments(7)
2012年 04月 28日
サイモンズ・シンポジウム 5日目、6日目
楽しかったサイモンズ・シンポジウムも昨日で終わりました。セント・トーマス島に行くフェリーを待つ間に、ブログ記事を書いています。

今回のシンポジウムでは、将来に向けてのいろいろな研究の種をいただきました。研究室に帰って、大切に育てたいと思います。

フェリーの時間になったので、これで終わりにします。

このような活動を支えて下さっているサイモンズ財団に感謝します。

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# by planckscale | 2012-04-28 22:16 | Trackback | Comments(0)
2012年 04月 27日
サイモンズ・シンポジウム 3日目、4日目
今回のシンポジウムは、2つの別々な企画提案があったのを、サイモンズ財団の指示で1つに組み合わせたのだそうです。

そのため、このような分野の数理物理の会議で普段お会いしたことのない数学の方々のお話を聞くことができ、とても新鮮です。

論文などでお名前は知っている人でも、直接あってお話を聞くと、これまでわからなかったこともつながるような気がします。講演も、学生に戻ったような気分でノートを取りながら聴いています。

ところで、前回のブログ記事で、このシンポジウムでは日本のチョークを使用していると書きましたら、それを読んだ親戚が日本理化学工業株式会社のことを教えてくれました。こちらの数学者に人気が高いということをお伝えしたところ、経営企画室から丁寧なご連絡をいただきました。

ご承諾をいただいたので、転載します。

「従業員70名程の内70%以上が知的障がいを持った社員という本当に小さな会社の商品を大変に立派な方々に使って頂いていると思うと本当にうれしくなります。品質についても好意をもって頂いていることは我々にとってこれ以上ないことでございます。

現在すこしづつでも弊社商品を海外に向けて販路を広げていくことができればと思っております。今後も弊社商品を身近に感じて頂けるよう頑張っていこうと思います。

励ましのお言葉、弊社にとって本当に励みになります。ご厚意感謝致します。今後ともよろしくお願い申し上げます。ありがとうございました。」

このような立派な志を持った会社だとは知りませんでした。これからも世界中で愛されるよい製品を作り続けてください。ご連絡ありがとうございました。

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# by planckscale | 2012-04-27 10:12 | Trackback | Comments(4)
2012年 04月 25日
サイモンズ・シンポジウム 1日目、2日目
昨日の最初の講演者は、結び目のホモロジーを導入されたコバノフさんで、今回のシンポジウムのテーマを数学者の立場から概説されました。

コバノフさんのお話を直接聞いたのは初めてですが、わかりやすい解説で私にはとても勉強になりました。「トポロジカルな場の量子論」の道具が、数学で自然に使われている様子に感心しました。

ところで、数学者はいまでも黒板を使った講演をする人が多く、コバノフさんの講演もそうでした。リゾート・ホテルには黒板は常備されていなので、ニューヨークのサイモンズ財団本部から大きな黒板を3つ運んで、チョークも持ってきたのだそうです。

右の写真が会場に運ばれたチョーク。日本の理化学工業の製品です。米国の数学者の間では、日本のチョークの品質の評判が高く、日本に旅行した帰りにスーツケースに沢山お土産に持ち帰る人もいるそうです。「京大の数理研で使われているチョークを使うと、間違った定理を書くことはできない」とも伝えられているらしい(真偽不詳ですが)。

今朝は、私が物理学者の立場からシンポジウムのテーマを概説するようにと依頼されて、最初の講演をしました。

午前の最後のバッファさんの講演には驚きました。一つのカラビ・ヤウ多様体には、そのミラー多様体が一つ決まると思っていたのですが、実は無限個のミラーがあるというのです。

ストロミンジャー・ヤウ・ザスロウ(SYZ)予想というのがあって、複素3次元のカラビ・ヤウ多様体の中に実3次元のトーラスを考えて、その上に置いたDブレーンの配意空間を考えると、それがミラー多様体になるというものです。

ところが、このトーラスのとり方に実はいろいろな選択肢がある。たとえば、一昨日のブログで、「BPS状態」が結び目の情報を持っているという話をしましたが、このときに使うDブレーンの配意もトーラスのある極限と考えることができます。そうすると、一つの結び目に対して、対応するDブレーンを考えて、その配意空間から新しいミラー多様体ができるというわけです。

午後に少し時間があったので浜辺に行ったら、バッファさんとお会いしたので、近くのさんご礁のまで一緒に泳いでみました。途中でダイグラーフさんと合流して、1時間ほど水泳。帰りには海がめを2頭見ました。

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# by planckscale | 2012-04-25 10:51 | Trackback | Comments(0)
2012年 04月 23日
サイモンズ・シンポジウム 0日目
カリブ海に浮かぶ米領バージン諸島の一つであるセント・ジョン島に来ています。明日からここで、サイモンズ財団によるシンポジウムに参加するためです。シンポジウムのタイトルは「結び目のホモロジーとBPS状態」。

サイモンズ財団は、著名なヘッジファンドの会社『ルネッサンス・テクノロジー』の経営を最近退かれたジム・サイモンズさんが出資された財団で、ストーニーブルック大学にある「サイモンズ幾何学物理学研究所」を創立されるほか、様々な形で数理科学の研究を支援して下さっています。

結び目を作ったときに、ひもを切ったりつなぎなおしたりしなくても、連続的な変形だけでほどけるかというのは、数学の大きな問題でした。右の図のような結び目なら、ほどけないことはすぐにわかりますが、複雑に絡み合っているひもについても見ただけでほどけるかどうかをどう判定したらよいかという問題です。

1990年のフィールズ賞の対象の一つとなった「ジョーンズ多項式」は、強力な方法ですが、この問題を解くだけの力があるかどうかはわかっていません。

1999年に、私とバッファさんは、「トポロジカルな弦理論」を使うと、この「ジョーンズ多項式」とその一般化が計算できることを示しましたが、そのときに、弦理論の計算がもう少し詳しい情報を持っていることにも気が付きました。これが、今回のシンポジウムのタイトルにもある「BPS状態」です。

私たちは当時は知らなかったのですが、このほぼおなじころに、数学者のコバノフさんが、結び目に対して「ホモロジー」という数学的概念を対応させることができることを発見しました。

その数年後になって、トポロジカルな弦理論とコバノフのホモロジーが実は同じものであることが明らかになりました。これが、今回のシンポジウムのタイトルのいわれです。

さらに今から2年前に、クロンハイマーさんとムロウカさんが、コバノフ・ホモロジーを計算すれば結び目が解けるかどうかが判定できることを証明して、この方法の重要性が明らかになりました。今回の会議が、初年度のサイモンズ・シンポジウムの一つに選ばれたのもそのような理由です。

昨日の夜にロサンゼルスを発って、夜行便でニューヨークに。そこで乗り換えてバージン諸島のセント・トーマス島。されにそこからボートに30分ぐらい揺られてようやくセント・ジョン島につきました。今日はゆっくり休んで、明日からのシンポジウムに備えます。

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# by planckscale | 2012-04-23 05:13 | Trackback | Comments(2)
2012年 04月 18日
『数学セミナー』50周年
『数学セミナー』は、数学に関係したエッセイや入門記事から、最新の研究の話題までカバーする雑誌で、私も定期購読して毎月楽しみにしています。

このような雑誌が一般の書店で手に入り広く読まれているのは世界でも希なことで、日本の数学の層の厚さを感じます。

1962年4月の創刊で、今年は50周年になりました。5月号はその記念のために「未来への宿題」と題した特集が組まれ、私も寄稿しました。

編集部からのご依頼のメールには、

「これから50年先(中長期的なスパン)を見据えた数学に対する宿題・課題を若い読者に向けて,誌面にて語っていただければと考えております」

とありました。

「50年先への宿題」とは大層なお題ですし(私自身の宿題もできていないのに)、また執筆者のリストを拝見すると錚々たる先生方ばかりなので躊躇しましたが、多様な分野の話題があったほうがよいかと思い、締め切り直前になってお受けしました。編集部で担当の方にはぎりぎりまでご心配をおかけして申し訳ありませんでした。

特集の記事は:

藤田宏:これからの数理科学のロマンと使命
森田茂之:低次元トポロジーにおけるいくつかの宿題
甘利俊一:数学,数理科学,数理工学の展望
小野孝:フィボナッチ数列覚え書
竹内郁雄:コンピュータは数学の応援を求む
黒川信重:素数の問題----一歩先へ
砂田利一:数学の「罪」
高橋陽一郎:生物を記述する数学は可能か
大栗博司:場の量子論

具体的な「宿題」を提出する記事から、数理科学政策についての記事まで、いろいろなスタイルの文章があります。後者としては、たとえば藤田宏さんと甘利俊一さんが京都大学の数理解析研究所設立の経緯についても書かれており、私も研究者として重要な時期にお世話になった研究所なので、興味深く読みました。

私の記事は「場の量子論の数学的基礎付け」に関するものです。これについては、以前に数学書房から出版された『この定理が美しい』にも書きましたが(⇒そのときのブログ記事)、今回の記事では場の量子論の数学的問題点について、さらに掘り下げて書きました。

場の量子論の典型例だとされる量子電磁気学の摂動展開がなぜ収束しないのか、なぜ連続極限が存在しないと考えられているのか。また、「存在しないはずの理論」を使ってなぜ計算ができて実験結果とうまく合うのかなどを、できるだけわかりやすく説明するように努力しました。

ところで、私事ですが ― と言っても、ブログなので私事ばかりなのですが ー 私は先月50歳になりました。『数学セミナー』とは1ヶ月違いの同い年です。お互いに、次の50年もがんばりましょう。

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# by planckscale | 2012-04-18 13:20 | Trackback | Comments(6)
2012年 04月 05日
桜100周年

月曜日からボストンに行っていましたが、火曜日の午後にワシントンDCに移動しました。

上野公園でもそろそろ桜が満開になったころだと聞きましたが、ワシントンの桜は残念ながら先週末の雨でほとんど散ってしまっていました。八重桜が少し残っているくらいでした。今年は東海岸は暖冬で、DCでは3月の半ばぐらいから桜が咲き始めたようです。

今年は、高峰譲吉の尽力で東京都からワシントンDCに数千本の桜の木が贈られてから100周年になるので、様々な記念行事が行われていました。

米国の郵政公社は上のような記念切手を発行しました。デザインはパサデナ在住の画家ポール・ロジャーによるものだそうです。明るいデザインで、素敵だと思います。

日本郵便も「米国への桜寄贈100周年」の特殊切手を発行しました。

ワシントンDCの桜が日本からの寄贈であることはよく知られているようです。

私は米国に住んでいるとはいえ、大学という狭い社会のことしかわかりませんが、その中では、日本人は誠実で信頼できる人たちだという評価があるように思います。このような評価を築いた先人の努力を大切にしたいと思います。

左の写真はおまけ。ナショナル・モールに面した米国科学アカデミーの建物の前にある、アルベルト・アインシュタインの銅像です。

手に持っている「紙」には、一般相対論の重力方程式、ノーベル賞の授賞対象となった光量子仮説による光電効果の説明、そして質量とエネルギーの等価を表す「E=mc²」が刻まれています。

重力方程式には宇宙項が入っていませんね。アインシュタイン生誕100周年の1979年に設置されたそうですが、当時は暗黒エネルギーの存在も知られておらず、宇宙項はゼロだと思われていたのでしょう。

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# by planckscale | 2012-04-05 22:11 | Trackback | Comments(0)
2012年 04月 04日
プレスリリース
東京大学の物性研究所の押川正毅さんと書いた論文が、Physical Review Lettersに掲載していただけることになったので、東京大学の本部とカブリIPMUからプレスリリースが出されました。

⇒ カブリIPMUからのプレスリリース:「アクシオン場を持つ磁性体における新現象の予言〜素粒子アクシオン検出手法の研究が物性分野の研究に貢献〜」

素粒子のアクシオン模型は、強い相互作用によってCPの破れが起き過ぎないようにするために考え出されました。アクシオン粒子は宇宙の暗黒物質の候補でもあり、その検出には様々な方法が試みられてきました。

私は、AdS/CFT対応の研究から、強電場をかけたときにアクシオン場が真空の相転移を起こすことに気がつき、これを使った新しい検出方法があるのではないかと考えて見ました。しかし、これまでの実験や観測から知られているアクシオンの質量や電磁場との相互作用についての制限を使って見積もると、必要とされる電場が大きすぎて、この方法でアクシオンを検出するのは難しいという結論になりました。

ところが、物性研の押川さんとの議論の中で、転機が生まれました。

最近物性の分野で注目されているトポロジカルな絶縁体では、磁気秩序の振動から素粒子のアクシオン場と似た振る舞いをする自由度が現れます。さらによいことには、自然によってパラメータが決定されているはずの素粒子のアクシオンと異なり、物性の系では 不純物のドーピングを調節するなどの方法でパラメータを調整することができるのです。

そこで、二人で詳しく調べて見ると、トポロジカルな絶縁体や通常の絶縁体でも、ドーピングの仕方を調節して臨界点に近づけてやれば、アクシオン場の有効質量が小さくなって、電場による相転移現象が現在の物性実験の現在技術で観測できそうだということがわかりました。また、この研究の過程で、アクシオン場の引き起こす不安定性についての理論的理解も深まりました。

それをまとめたのがこの論文で、Physical Review Lettersに投稿したところ、素直にアクセプトされました。

押川さんとは以前から面識はありましたが、学問的な交流が始まったのは2009年にIPMUと物性研とで共同の国際会議を開催してからです。その後、私はIPMUにいくたびにしばしば物性研究所を訪問して、押川さんと議論を重ねてきました。そのように交流を続けてきたことが、今回の論文につながりました。

素粒子論と物性理論は、場の量子論という共通の言語を使うので、一方の分野で開発された方法が、もう一方でも使えるということがありますが、今回の研究もその例だと言えます。

プレスリリースでは、カブリIPMUの村山斉機構長と物性研究所の家泰弘所長がコメントをして下さいました。

カブリIPMU 村山斉機構長のコメント:

「アクシオンは素粒子物理学で長年あるに違いないと言われながら、未だ見つかっていない素粒子の代表格です。今後も実験的な探索には時間がかかりそうです。一方、今回の論文ではこのアクシオンと同じ様な素励起 が、トポロジカル絶縁体に顕われ、その相互作用を調べることができるかもしれない、ということで、今後のアクシオン研究に弾みがつく結果です。非常に面白い結果だと思います。そしてまた、素粒子物理学と物性物理学が『量子場の理論』という共通の数学的な言語を持つことで、互いに触発・連携できることを示した、大変素晴らしい例になっています。」

物性研究所 家泰弘所長のコメント:

「素粒子物理学と物性物理学では、その対象とする世界が、長さのスケールやエネルギースケールで大きく異なっていますが、数学的定式化や理論的概念における接点も少なくありません。本論文の内容は、素粒子物理学の分野で近年目覚しい発展を遂げているAdS/CFT対応の研究から、アクシオンと呼ばれる未知の素粒子に関して導かれた新しいアイデアを実験的に検証する場として、最近物性分野で注目されているトポロジカル絶縁体と呼ばれる物質が使えるのではないかという提案です。柏キャンパスでは2009年度に数物連携宇宙研究機構(IPMU)の建物が物性研究所の隣に完成したのを機に、IPMUと物性研とで共同の国際会議を開催しました。今回の論文は、そこから継続的に行われている両研究所の交流による成果の一つです。今後も、両分野間の相互啓発による新しい展開に大いに期待するところです。」

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# by planckscale | 2012-04-04 12:18 | Trackback | Comments(2)
2012年 04月 03日
ハーバードとMIT
N=4超対称性ゲージ理論の35周年記念国際会議が無事に終了したので、今朝からボストンに来ています。

日曜日の深夜にロサンゼルスをたって、夜行でボストンへ。Red Eye(赤目)便と呼ばれています。到着した人が赤い目をして降りてくるからでしょうか。

朝の7時にボストン空港に到着。ケンブリッジに向かうタクシーから見えた、チャールズ川沿いの桜がきれいです。

ホテルで一休みしてからハーバード大学へ。昼はファカルティ・クラブで友人と会食。数学者のヤウさんがグループをつれていらしたので、ご挨拶しました。

久しぶりだったので、食堂が開いてから閉まるまでお話をしていると、ハーバード大学の先生が入れ替わりで現れます。『ハーバード白熱教室』のマイケル・サンデルさんもお見かけしました。

その後はMITに行って、共同研究者と議論。長いプロジェクトでしたが、ようやくトンネルの先に光が見えてきたようです。

さすがに疲れたので、夕方には早くにホテルに戻りました。

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# by planckscale | 2012-04-03 11:38 | Trackback | Comments(0)
2012年 04月 01日
N=4 SYM, 3日目

今日は会議の最終日で午前中だけでしたが、とりわけすばらしい講演が続きました。

最初の講演者はCERNから駆けつけたマリア・スピロプルさん。LHCは8TeVにエネルギーを上げて運転が始まったばかりです。スポロプルさんは、前回の実験データの最新の解析の結果-特にヒッグス粒子や超対称粒子の探索の現状についてお話になりました。

ジョセフ・ポルチンスキーさんは、「スケール不変な場の量子論は共形不変であるか」という重要な問題が4次元の場合に解決したことをアナウンスされました。2次元の場の量子論については、1987年に、ポルチンスキーさん自身が、前年のザモロジコフの結果を使って、ローレンツ不変でユニタリーであれば、スケール不変性が共形不変性を含意することを証明しています。それ以来、同じ定理が高次元でも成り立つかどうかは積年の課題でした。一昨年には、CaltechとカブリIPMUの長期研究員の中山優さんが、AdS/CFT対応を使って、ホログラフィー原理が成り立つ場合には、ある種の仮定の下で同様の定理が4次元でも成り立つことを示しています。昨年の夏に、コモルゴフスキーさんとシュビマーさんが、ザモロジコフの結果を4次元に拡張してから、ポルチンスキーの定理も4次元で成り立つのではないかという機運が高まってきたのですが、ポルチンスキーさんは、マーカス・ルーティさんとリッカルド・ラタッヅィさんと共同で、その筋での証明に成功したようです。「ようです」と書いたのは、証明の詳細が講演だけではわからなかったから ― 論文が楽しみです。

フアン・マルダセナさんは、ベーテ仮設の方法を使って、N=4の超対称ゲージ理論でクォークと反クォークの間のポテンシャルを厳密に計算した話をされました。この量は、尖りのあるウィルソン・ループの期待値の計算と関係していて、後者は以前に私も、デイビッド・グロスさんとナダフ・ドルッカーさんと一緒に、AdS/CFT対応を使って計算したことがあったので、特に興味のある問題でした。

会議の最後を飾るエドワード・ウィッテンさんは、超弦理論の摂動計算について完全にわかっていなかった部分を解決される話をされました。98パーセントまでは1990年代のはじめまでにわかっていたのだが、残りの2パーセントを整理したのだと謙遜されていましたが、私には昔からもやもやしていたところがすっきりしてうれしかったです。

今回の会議には、雑誌『サイエンティフィック・アメリカン』の編集者が参加していたようで、早速会議のついていの記事が書かれていました。⇒ 『サイエンティフィック・アメリカン』の記事

記事はもっぱら6次元の(0,2)理論について書かれています。アルカニ‐ハメッドさんが1日目の講演で、4次元のN=4超対称ヤン‐ミルズ理論と6次元の(0,2)理論の関係を話すときに、映画『スター・ウォーズ』で、ダース・ベーダーが暗黒の支配者だと思っていたら、それを上回る銀河帝国皇帝パルパティーンがいたという話をたとえに使ったことに、編集者が興味を持ったようです。

私は、今日の座長を仰せつかったので、会議の最後に、N=4超対称ヤン‐ミルズ理論を提案され、このような数理物理学の隆盛の基礎を築かれたジョン・シュワルツさん、ラース・ブリンクさん、そして今はなきジョエル・シャークさんにお礼の言葉を述べました。

会議の後には、昼食用のサンドイッチの箱が配られました。近所のハンチントン植物園に散策にいらした人たちもいたようです。素粒子論研究室のフロアーに戻って、サンドイッチを食べながら議論に興じる人も多く、私もそのグループに参加しました。

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# by planckscale | 2012-04-01 14:46 | Trackback | Comments(2)
2012年 03月 31日
N=4 SYM, 2日目

米国の大学院では、受験に合格した学生を春休みのころにアゴアシ付きで招待して、勧誘する行事を開きます。

以前に、学部に合格した学生の勧誘については書いたことがあります。

Caltechでは昨日今日がそれにあたっていて、N=4超対称ヤン‐ミルズ理論の30周年記念会議と重なってしまいました。昨晩は学生との夕食会もあったのですが、会議のレセプションに出ていたので、今日はその埋め合わせに10人ぐらいを昼食に招待しました。超弦理論の研究に興味のある学生がたくさんいて、頼もしい限りです。

会議のほうは、アショク・センさんやグレゴリー・ムーアさんのBPS状態の数え上げや壁超え現象の話が私には勉強になりました。また、N=4超対称ヤン‐ミルズ理論を使って、超重力理論の摂動計算をするツビー・ベルンさんの講演は迫力がありました。

夕方のバンケットでは、ラース・ブリンクさんが35年前のCaltechの素粒子論研究室の様子(マレー・ゲルマンさん、リチャード・ファインマンさんの逸話)を話されました。

また、ダン・フリードマンさんが完成したばかりの『超重力』の教科書を披露され(出版社から送られてきた小包を演台で開けるパフォーマンス付き)、超重力理論発見の回顧談をされました。

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# by planckscale | 2012-03-31 15:25 | Trackback | Comments(0)
2012年 03月 30日
N=4 SYM, 1日目

超対称性を持つ場の量子論の性質は、1980年代のはじめごろから研究が始まり、多くの重要な結果が得られてきました。

そのなかでも、4次元で一番大きな超対称性をもつN=4超ヤン‐ミルズ理論(N=4 SYM)は、超弦理論の発展においても重要な役割を果たしてきました。たとえば、1990年代前半のS-双対性の研究は1995年の「第二次超弦理論革命」のまえぶれの一つでしたし、またAdS/CFT対応の最初の例も、N=4 SYMに関するものでした。

最近では、可積分系との関係、またツイスター空間やグラスマニアン空間を使った摂動計算の新しい方法など、様々な深い構造が明らかになっています。

今年は、ジョン・シュワルツさん、ラース・ブリンクさん、ジョエル・シャークさんがこのN=4SYMが発表されてから35周年になるので、今日からCaltechでこれを記念する国際会議が開かれています。

今日は、ブリンクさんによるN=4 SYM発見の歴史的経緯についての講演の後、クリフォード・チュンさんとリサ・ランダルさん(日本ではランドールさんと呼ばれています)によるLHC実験、とくにヒッグス粒子の質量が125GeV程度だった場合に標準模型を超える物理に何が期待できるかの話。その後は、N=4 SYMの摂動計算の新しい方法についての話が続きました。

講演者の写真を上に載せましたが、最後の講演者のネーサン・ベルコビッツさんの写真を撮り忘れていました。

夕方には、昨夏に改装した素粒子論研究室のお披露目もかねて、レセプションが開かれました。

私は、エドワード・ウィッテンさんに、最近研究されている超弦理論の摂動計算についてじっくり説明していただきました。いたるところに黒板があるので、立ち話をしていてもすぐに式を書いて話ができるので便利です。超リーマン面のモジュライ空間の構造や摂動計算の有限性について、1980年代以来懸案になっていたことが、明快に説明されてとてもすっきりしました。



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# by planckscale | 2012-03-30 14:04 | Trackback | Comments(0)
2012年 03月 23日
東京往復 0泊2日
羽田空港に国際線が飛ぶようになって、東京との往復が便利になりました。

左は、国際線ターミナルの写真です。

今週は、火曜日の午前1時にロサンゼルス空港を発って、火曜日の午前5時に羽田着。

飛び立ってすぐに寝て、8時間ぐらいして起きると日本時間の午前2時。映画を1本観ると朝食の時間になって、もうすぐ着陸です。12時間の飛行なので、ゆっくり寝ていくことができます。

都内の喫茶店でコーヒーをいただいて、そのままIPMUへ(4月からはカブリIPMUです)。

まずはインタビューが一件。

IPMUのポストドクトラル・フェローのバタチャリアさんが先週発表された論文について議論した後、本郷から来てくれた学生さんと相談します。その後は、もう一人の主任研究員とお話。

つくばエクスプレスの柏の葉キャンパス駅で遅めの昼食を取って、都内へ。

サイエンス・アウトリーチの相談。

その後は、夕食をいただきながら日米協力のご相談。ゆっくりお話をしたので、東京駅を出たのは午後10時ごろになりましたが、それでも羽田空港の午前0時発の飛行機に間に合います。

起きたのが日本時間の午前1時なので、飛行機が飛び立つころには24時間起きていたことになります。すぐに寝て、5時間ぐらいして起きるとカリフォルニア時間の午後2時。遅い昼食をいただいて、原稿を書いていると着陸の時間になります。帰宅したのは午後7時。

0泊2日、自宅から空港への往復の時間も入れると47時間の出張でした。

東京では24時間続けて起きていましたが、時差ぼけにはならないので、この方が楽なように思います。一晩夜更かししたような感じです。

昨晩はぐっすり寝て、今朝は朝一番でCaltechの副学長と面談1時間。その後は、物理・数学・天門部門の将来計画の会議が2時間。

午後になってようやく研究の時間が取れました。やれやれ。

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# by planckscale | 2012-03-23 12:34 | Trackback | Comments(0)
2012年 03月 13日
ホーキングさんの70歳誕生日パーティ
Caltechの3月の行事といえば、機械工学のコースME72のロボットコンテストです。

毎年課題が与えられて、学生たちが半年間かけて作ったロボットを競わせます。2009年は水陸両用ロボット、2010年は飛行船(ヒンデンブルグの逆襲)でした。

メカ好きの私にはこたえられない行事です。

昨年はこの時期に日本に行っていましたが、今年の3月はCaltechにいるので、研究の合間に観戦に行きました。

先週の木曜日に行われた競技のお題は「ミリカン諸島の征服」。電子の電荷の測定でノーベル賞を受賞したロバート・ミリカンにちなんだ「ミリカン池」に島を浮かべて、その上に置いたピンポン玉を集めるのが課題でした。

池の横で観戦していると、スティーブン・ホーキングさんが現れて、一緒に応援しました。ホーキングさんは毎年冬にCaltechにいらっしゃいます。

今日は、ホーキングさんの70歳の誕生日パーティがあり、そのあとCaltechの学生向けに講演が行われました。本当の誕生日は1月8日だそうですが、70歳になれば2ヶ月ぐらいの誤差は問題ではないでしょう。

講演は"Out of a Black Hole"というタイトルで、ブラックホールの情報問題の解説でした。一般講演のお手本のようなわかりやすい話で、独特のユーモアで1200名聴衆を沸かせていました。

私には、その後の質疑応答が興味深いものでした。

ホーキングさんはお体が不自由なので、1分間に2単語ぐらいの速さでしか文章を作ることができません。そこで、あらかじめ学生から質問を募って、その中から4つについてお答えになりました。

学生が交代で壇上に上がって質問をします。

科学政策の問題から、自然界の基本法則と人間原理、また地球外生命体の可能性についてなど、様々な角度からの質問がありましたが、その各々について月並みでない考え深い回答をされていました。

これからもお元気でご活躍されることでしょう。

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# by planckscale | 2012-03-13 14:53 | Trackback | Comments(0)
2012年 03月 11日
一年たちました
東日本大震災から一年がたちました。

先週、子どもの通っているロサンゼルスの日本語補習校の卒業式がありました。補習校中学卒業生の答辞に、大きな被害を受けた気仙沼市立階上中学校卒業式の昨年度の答辞が引用されていたのに、感銘を受けました。

平成22年度文部科学白書にも引用されています。⇒ こちらの9ページです。

科学者と社会の関係についても考えさせられることが多い一年でした。

英国の科学誌「ネイチャー」の今週号の社説は、地震や津波に対する準備や原子力発電所の安全管理に問題があった一方で、建築基準の改善や早期警報システムによって多くの人命が救われたことを指摘しています。社説に続く特集記事ではその各々の是非ついて分析がなされています。

しかし、「ネイチャー」の社説が一番問題にしていたのは、情報の開示や報道のありかたでした。

情報を受ける側の立場からすると、政府が信頼できる情報を提供するとともに、様々なチャンネルから情報を得て、自分自身で判断する権利が確保されることが大切だと思います。

原発の状況と放射能物質の飛散状況についてツイッターで情報を発信され、また最近は食品を通じた内部被ばくの検査(給食まるごと検査)にも取り組まれている東京大学の早野龍五さんは、毎日新聞の「論点」に、

「勤務する大学の本部からは、放射線関係の情報を勝手に発信しないように、との指導を受けたが、学問の自由という観点からも、それには同意出来なかった。情報の公開が重要であるという信念のもと、発信を続けている。」

と書かれています。

「真理はあなたたちを自由にする」という言葉があります。非常時であっても、伝えること、知ることの自由を守りたいと思います。

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# by planckscale | 2012-03-11 13:02 | Trackback | Comments(0)
2012年 03月 03日
ファインマンの壁

雑誌『アエラ』の記事に、私の研究室の「ファインマンの壁」の写真が掲載されていたので、補足説明をします。

私たちの研究室は、建物の最上階にあります。エレベーターを出ると、すぐ前にファインマン図を描いた壁が広がっています。

研究室の改装工事をしたときに、設計を担当して下さったフレデリック・フィッシャーさんが、Caltechの素粒子論に関係するデザインを取り入れたいとおっしゃるので、ファインマン図を使うことを提案しました。

描かれたファインマン図のいくつかを説明しましょう。

ファインマンさんは、1948年の会議でファインマン図による計算方法を始めて発表しました。左は最も基本的な図で、二つの電子が電磁相互作用をしている様子を表しています。ファインマンさんに題材をとった劇『QED』でも、黒板に描かれていたのはこの図でした。

この図は、上の図と同じように見えますが、右側の矢印が逆転しています(クリックして、拡大して見て下さい)。すべての粒子には、質量が同じで電荷が逆の値を持つ「反粒子」というものがあります。ファインマンさんは、粒子が過去に向かうと反粒子になると指摘し、ファインマン図でも、逆向きの矢印によって反粒子を表しています。

この図は、電子とその反粒子である陽電子が相互作用をしている様子を表しています。陽電子はケンブリッジ大学のポール・ディラックさんによって理論的に予言され、Caltechのカール・アンダーソンさんによって宇宙線の中に発見されました。

ファインマン図の方法は、水素原子のエネルギー準位がずれる現象 ー ラム・シフト ― を説明するために開発されました。日本でも、朝永振一郎さんは、占領軍の図書館で読んだ『ニューズ・ウィーク』の記事でラム・シフトのことを知って、直ちにご自身のくりこみ理論を応用されたそうです。

左のファインマン図は、ラム・シフトの説明のために使われたもののひとつです。

ファインマンさんは、アインシュタインの一般相対論を量子化しようとすると、物理的には観測できない仮想的な粒子の効果を計算に入れる必要に気がつきました。

今日ではこのような仮想的な粒子は、「ファデーフ‐ポポフのおばけ」として知られ、ゲージ理論の量子化にもなくてはならないものです。

陽子や中性子などのいわゆるハドロン粒子が、クォークと呼ばれる粒子からできていることを提唱したのは、Caltechのマレー・ゲルマンさんでした。同じくCaltechにいたジョージ・ツバイクさんも、独立に同様の模型を提唱しました。

彼らの模型は、この図に描かれたような、ハドロン粒子と電子の衝突実験によって直接検証されました。

Caltechのディビット・ポリツァーさんと、現在カリフォルニア大学サンタバーバラ校のデイビット・グロスさん、MITのフランク・ウィルチェックさんは、ゲージ理論の漸近自由性を発見して、場の量子論が素粒子の模型の基本言語であることを確立しました。

左の図は、この発見に使われたもののひとつです。

左の六角形の図形は、Caltechのジョン・シュワルツさんとケンブリッジ大学のマイケル・グリーンさんが超弦理論のアノマリー相殺機構の発見に使ったものです。彼らの発見は、1984年の[第一次超弦理論革命」の発端になりました。

私は、1984年に大学院に入学しました。その年の夏にグリーンさんとシュワルツさんの発見があって、「超弦理論革命」のさなかに放り込まれたので、この六角形の図形はとりわけ思い出深いものです。

この「ファインマンの壁」の背景は、黒板の色と同じにして、エレベーターを出ると、すでに研究室の中にいるような雰囲気になるようにしました。

建築家のフレデリック・フィッシャーさんも、ファインマン図を使うアイデアを気に入って、よいデザインに仕上げて下さいました。

先日、研究室を訪問されたある先生は、「この壁のデザインは、研究者の相互作用を促進したいという気持ちを表しているね」とおっしゃっていました。

デザインに負けない研究をしていきたいと思います。

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# by planckscale | 2012-03-03 16:24 | Trackback | Comments(4)
2012年 02月 20日
財政政策の変分原理
月曜日発売の雑誌『アエラ』に「世界一の大学の大胆さに学べ」というタイトルで、Caltechについての4ページの記事が掲載されていました。

昨年、英国の高等教育専門誌『タイムズ・ハイヤー・エデュケーション』の世界大学ランキングでCaltechが一位になったので、どんな大学なのかと取材にいらっしゃったようです。

私もインタビューを受けて、Caltechは小さい大学なので、限られた資源をどのように戦略的に使って成果を挙げてきたのかというお話をしました。

というわけで(すこし飛躍しますが)、素粒子論研究室の同僚のマーク・ワイズさんが最近発表された、数理物理の方法の財政政策への応用について書きます。

国にしても、会社にしても、年金生活者にしても、社会のさまざまな状況によって収入が変化するときに、どのような原理で予算を組めば、リスクを抑えることができて、長期的に大きな赤字を出さずにすむかを理解することは大切です。

たとえば、私の所属するCaltechの収入の大きな部分は大学の基金の運用益なので、株式や債券市場の状況によって変化します。赤字が出ないようにするには、毎年の運用益だけを使うようにするというのが一つの方法ですが、それでは歳入が年毎に大きく変動することになるので、長期的な研究や教育をするためには不都合です。かといって、毎年決まった額を使うことにすると、不況で運用益が少ない時期に負債を抱えることになります。そこでCaltechでは、過去数年の運用益の平均を目安に、基金からの支出を決めています。しかし、これが一番合理的な方法化は明らかではありません。

同じような問題は、国家レベルでも、たとえば年金の支給額の決定にも現れます。最近話題になっている「社会保障と税の一体改革」の問題も、長期的に持続可能な政策はなんだろうかという問いだと思います。

予算を組むには、その年の収入や支出を予測しなくてはいけません。基金の運用益の場合には株式や債券市場、また年金の問題では経済成長率や高齢者人口が重要な変数になります。問題は、このような変数の予測が難しいことです。

長期的に持続可能な財政政策は、このような変数のゆらぎに大きく影響されないようになっている必要があります。

その年のキャッシュ・フロー(収入と支出の差)を決めるためのデータは、このような変数のこれまでの値しかありません。つまり、キャッシュ・フローは、これまでの変数の値の関数です。このデータから、一番合理的にその年の支出額を決めるにはどうしたらよいでしょうか。

マーク・ワイズさんと彼の学生だったマーティン・グレムさんは、遠い将来のあるX年に、赤字が出ていないようになっているために、キャッシュ・フローが満たすべき関数等式を導きました。⇒ ワイズさんとグレムさんの論文

たとえば、ある年のキャッシュ・フローが、上に上げたような変数のその年の値と、その年に計った変化率(つまり、変数の時間微分)だけによっているとしましょう。そうすると、変数の値が予想からずれた時に、赤字が出ないための条件は、古典力学で使われる変分原理を使って導くことができます。

古典力学では、物体の運動を記述するラグランジアンというものがあって、これは物体の位置と速度(位置の時間微分)の関数です。ラグランジアンを時間に沿って積分したものが、いわゆる「作用関数」。物体の位置をずらしたときに、作用関数の値が変わらないことを要請すると、物体の運動方程式を導くことができます。これを変分原理、そしてそれによって導かれた方程式をオイラー‐ラグランジュの方程式と呼びます。

そこで、財政政策に影響を与える変数を物体の位置、将来のX年における負債額を作用関数の値と見立てます。そうすると、変数が変化しても将来のX年に赤字が出ないためには、毎年のキャッシュ・フローがオイラー‐ラグランジュ方程式を満たしていればよいことがわかります。

この、ワイズさんたちの論文の面白いところは、通常使われている財政政策がこの条件を満たしていないことが簡単にわかるところです。社会保障財政が破綻してしまうのも無理はありません。私の年金運用計画も、オイラー‐ラグランジュ方程式を使って見直してみようと思いました。

ワイズさんの専門は素粒子論で、クォーク模型での計算方法の開発や、余剰次元を使った素粒子模型の構築で有名ですが、週に1日だけ物理学の方法を数理ファイナンスに応用する研究をされています。これまでカンや経験で判断していたことを、基本原理から理解できるようになるのは面白いと思います。

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# by planckscale | 2012-02-20 15:36 | Trackback | Comments(2)
2012年 02月 12日
重力のふしぎ
金曜日の夕方には、新宿の住友ビルにある朝日カルチャーセンターで「重力のふしぎ」と題した講座を担当しました。

重力は私たちにとって身近な力ですが、実は、いろいろと不思議な性質を持っている。しかも、それが、自然界の基本法則を探求する物理学の最先端の問題と結びついています。

今回の講義は、私の選んだ重力の七不思議から始めて、アインシュタインの特殊相対性理論、一般相対性理論、ブラックホールとビッグバンという、オーソドックな流れでした。大学では一年間かけて教える内容を1時間30分でカバーするので、説明の仕方を工夫しました。

新宿教室の会場に行くと、一番大きな部屋がほぼ満員。参加者の皆さんから「楽しもう」という気分が伝わってきて、最初から盛り上がりました。スライドは204枚用意しておきましたが、ピッタリ1時間30分で終わり、そのあと1時間質疑応答がありました。

参加者の皆さんとても熱心で、質問のレベルもとても高く、2時間30分があっという間にたちました。

よい質問をされる方がいらっしゃると思ったら、このブログに時々コメントをしてくださるとねさんでした。とねさんの科学ブログ仲間の271828さん、rikunoraさんもいらっしゃり、その後にはオフ会をなさったそうです。

とねさんとrikunoraさんは、早速ブログに参加報告を書いてくださいました。
⇒ とねさんの参加報告、
⇒ rikunoraさんの参加報告

また、271828さんには手作りのジャムをいただきました。とてもおいしくいただきました。ありがとうございます。⇒ 271828さんのジャム作りの記事

同じようによい質問をたくさんしてくださった、三鷹ネットワーク大学アストロノミーパブのたけのやさんも、参加報告を書いてくださいました。
⇒ たけのやさんの参加報告

たけのやさんは、宇宙膨張の1次元模型をお持ち帰りになったのですね。あれは、浅草橋のシモジマで買ったゴムひもでした。

今回の講義は現代重力理論の入門編で、1960年代の後半のホーキングとペンローズによる「ビッグバンの証明」で終わりました。

次回、6月2日(土曜日)には、「重力をめぐる冒険」と題した講義を行います。今回は1時間30分でしたが、次回は午後3時30分から7時30分までなので、4時間たっぷりとお話できます。

今回の復習からはじめて、究極の統一理論とされる超ひも理論にいたる、過去百年間の物理学者たちの冒険をたどる予定です。

申し込み受付は2月21日開始だそうです。

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# by planckscale | 2012-02-12 14:18 | Trackback | Comments(7)
2012年 02月 11日
理化学研究所 総会
木曜日には、理化学研究所(RIKEN、理研)の研究員会議の年次総会で講演をしました。

研究員会議には1000人以上の会員がいらっしゃるそうで、今回の講演も、和光市の「本所」のほかに、つくばや播磨などの研究拠点にもビデオ中継され、そのほかにも所内から200名を超えるアクセスがあったそうです。

講演会では毎年テーマを決めているそうで、今年度いただいたテーマは「科学者の矜持」でした。

「矜持」という言葉を和英辞典で引くと、英語では pride となっていて、たしかに左のポスターでも英語版のテーマは、"Taking Pride in Science" となっています。しかし、日本語で「矜持」というときには、単にプライドというだけでなく、誇りに伴う責任という意味も含まれているように思います。

研究員会議代表幹事の渡邊康さんのご説明にも、

「ここ1年間に起きた様々な事柄を思い返すと,それらは私たち科学者の役割について考えさせられることばかりであることに思いいたり,その意味合いをもたせたテーマと致しました。」

とありました。

「ここ1年間に起きた様々な事柄」と言えば、もちろん東日本大震災とそれにともなう福島第一原子力発電所の事故が思い出されます。正月の記事にも書きましたが、震災の後には、素粒子論や超弦理論のように浮世離れした研究をしている意味があるのだろうかと思うこともありました。

その一方で、自然をより深く知りたいという探究心に駆られて、10億×10億×10億メートル先の宇宙の姿から、10億×10億分の1メートルのミクロの世界まで理解しようとする人間の営みには、それ自身すばらしい価値があると思います。

また、このような基礎研究も、いつかきっと役に立つときが来る。数学者の森重文さんも、ご自身の研究について、「今すぐは無理だが,50年先か100年先かわからないが役に立つ.そのためには今のところ数学者の学術的探究心が研究の方角を示す最高のコンパスだ」とおっしゃっています。

講演の本編では、超弦理論の研究の歴史から、私の「トポロジカルな弦理論」の研究、ブラックホールの情報問題と、それに触発されたホログラフィー原理の応用についてお話しました。

ホログラフィー原理をめぐる最近の発展は、「科学の基本的な問題に触発された美しい理論は思いがけない応用を持つことがある」ことの例だと思います。

研究員会議総会では、理研理事長の野依良治さんが、ご自身の研究を振り返る講演をお聞きすることもできました。野依さんが発見された「キラル触媒による不斉反応」は、基本的な反応であり、なおかつ医薬、農薬、香料を始めさまざまな分野に応用されています。「科学は役に立たなければいけない」というお言葉にも説得力があります。(「大栗さんの研究も、人生観を変えるという意味で役に立っている」とフォローしてくださいましたが…)

研究者としての自分を語る論文を1篇出してみろ(10篇や20篇出してくるのではなく、1篇に絞って)というお話にも強い印象を受けました。

総会の後は、別室で懇親会。いろいろな分野のかたがたとお話をする機会があり、理研には熱い研究者が多いと思いました。

講演のご招待をしてくださった幹事会の皆様、ありがとうございました。

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# by planckscale | 2012-02-11 14:16 | Trackback | Comments(2)
2012年 02月 08日
カブリ IPMU

東京大学の数物連携宇宙研究機構(IPMU)が、カブリ研究所グループの一員として、カブリIPMUとなることが発表されました。

カブリ研究所グループには、カリフォルニア大学サンタバーバラ校のカブリ理論物理学研究所をはじめ、ケンブリッジ大学、スタンフォード大学、MIT、シカゴ大学、北京大学の宇宙物理学研究所、Caltech、ハーバード大学、コーネル大学、デルフト大学のナノ・サイエンス研究所、また、コロンビア大学、イエール大学、カリフォルニア大学サンディエゴ校、ノルウェー科学技術大学の神経科学研究所など、全世界に15の研究拠点があります。このように世界的な研究グループの一員に選ばれたことは、IPMUへの高い評価を反映しているものだと思います。

これに伴い、カブリ財団からの寄付により基金が設立され、基金からの年間支払配当によりIPMUの研究が助成されることになりました。カブリ財団は、ノルウェー出身の発明家・起業家のフレッド・カブリさんが、基礎科学振興のために作られた財団です。

英米の大学には、昔から寄付基金という制度があって、篤志家の寄付による基金を大学が運営して、その収益を研究や教育に充てる仕組みになっています。

「冠教授」というものもそれで、アイザック・ニュートンやスティーブン・ホーキングが就いていたことでも有名なケンブリッジ大学のルーカス教授職はその例です。ニュートンが二代目のルーカス教授ですから、もう350年ぐらい続いているわけです。

また私のカブリ教授職も、カブリ財団がCaltechに設立した寄付基金講座です。

IPMUは、このように機動的な研究資金を得たことで、新しいプロジェクトの機会を敏速に捕らえて、研究を戦略的に発展させることができるようになりました。また、350年続いているルーカス教授職のように、支援が恒久的に続くことも重要です。

関係者の努力によってカブリIPMUが実現したことはすばらしいと思います。昨年は、IPMUが東京大学の国際高等研究所の中の研究機構の第1号になり、恒久化への一歩を踏み出しました。今回の基金設立は、IPMUの恒久化へのさらなる一歩になるとともに、これによりIPMUの研究がさらに進むことを期待します。

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# by planckscale | 2012-02-08 14:20 | Trackback | Comments(0)
2012年 01月 29日
IPMUでの3年間

IPMUでは、春夏秋冬と年に4回、広報誌 IPMU News を発行していて、私も、解説記事を書かせていただいたり、対談記事を掲載していただいています。

昨日発行された第16号には、昨年の秋までIPMUでポストドクトラル・フェローをなさっていた、スザンヌ・レファートさんと私の対談が掲載されています。

⇒ 対談記事はこちら。

IPMUは2007年の秋に発足し、すぐに研究者を公募しました。レファートさんはその時に応募され、2008年の秋に着任されたたいわばIPMU一期生です。2008年当時はアムステルダム大学でポストドクトラル・フェローの任期途中でしたが、IPMUに移籍された理由については対談記事に書かれています。

ヨーロッパからシベリア横断鉄道で来日。IPMUでは、ホジャバ‐リフシッツ理論のくりこみ可能性を証明するなど業績をあげられて、2011年の秋からは、次の研究職のためにジュネーブのCERNに移られました。LHC 実験が始まったので、CERN は素粒子の研究者にとって最高の研究環境の一つです。IPMUで3年間の任期を成功裏に終えて、このような職を得られたことは、私たちにとっても誇らしいことです。

レファートさん以外にも、超弦理論の分野の一期生は、全員よい研究職に就いて転出していきました。

対談では、このほか、IPMUでのアウトリーチ活動やご自身のブログ、また東日本大震災での体験についても語りました。

よろしければご覧ください。

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# by planckscale | 2012-01-29 13:39 | Trackback | Comments(4)
2012年 01月 25日
朝日カルチャーセンター
2月10日(金曜日)に、朝日カルチャーセンターの新宿教室で、「重力のふしぎ」についてお話します。

私たちが普段当たり前のように思っている重力には、実は様々な「なぞ」があります。

今回の講演では、「重力の七不思議」の話からはじめて、アインシュタインの相対性理論、そして、ブラックホールや宇宙のビッグバン理論にいたるまでを解説します。

相対性理論は啓蒙書でもよく取り上げられていますが、今回は私が考案した新しい角度からの解説を試みます。

・なぜ E = M c2 なのか、
・なぜ「空間の曲がり」が重力を説明するか、
・ブラックホールに落ちるとどうなるのか、
・宇宙は膨張しているというがその外はどうなっているのか、
・ホーキング博士はビッグバン理論にどのような貢献をしているのか、

などなどについて、数式を使わなくても納得のいくように説明したいと思います。

重力は私たちに身近な力ですが、物理の基本法則の要でもあり、自然のもっとも深く揺るぎのない真実につながっています。重力を理解しようとする物理学者の冒険をお伝えしたい。

朝日カルチャーセンターでは、これからも講座を持たせていただくことになっています。今回はその入門編ということで、20世紀にわかった重力の基本的な性質についてご説明します。

時間は午後の6時30分から8時まで。場所は新宿の東京都庁の斜め向かいの新宿住友ビルです。金曜日の夕方、重力について考えてみませんか。

お申し込みはこちらからです。⇒ 朝日カルチャーセンター

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# by planckscale | 2012-01-25 15:22 | Trackback | Comments(4)
2012年 01月 24日
下條信輔さんとの対談
先週金曜日の夜行便でCaltechに戻ったところ、青土社の雑誌『現代思想』の2012年1月号が届いていました。『現代思想』というと、私が大学生のころにはいわゆるニュー・アカデミズムの舞台となっていましたが、最近は1年に1回ほど、科学関係の特集をされるようで、今回は「ニュートリノ/相対論:観測がひらく新世界」と題した特集でした。

Caltechの生物学の教授、下條信輔さんと私との対談が掲載されています。

昨年の10月後半に『現代思想』の「ニュートリノ」の特集への原稿を依頼されましたが、ちょうど岩波の『科学』に解説記事を書いたばかりだったので、ご辞退しました。しかし、対談ではということになって、それならとお引き受けしました。

下條信輔さんには、Caltechの数少ない日本人教授ということもあり、懇意にさせていただいています。9月に超光速ニュートリノの発表があったときに、メールで質問をいただいていたので、対談相手として思いつきました。

前半は、『科学』に書いた解説記事を膨らませたような内容になっていますが、後半になると「時間と因果律」、「エントロピーと時間の矢」、「素粒子論と心理学における現象論」、「自然界の階層構造」、「ランドスケープとマルチバース」など、ニュートリノをネタに、好きなことを語り合うというかたちになりました。下條さんがうまくリードしてくださったので、楽しい対談になりました。

対談はカリフォルニアで行ったので、私が録音したものをMP3にして、ドロップボックスで送りました。東京の編集者はスカイプで参加しました。

対談に添えられた写真は、私の子供が撮りました。ちゃんと掲載されたので、見せたところ、「私のクレジットがないじゃない」と怒られてしまいました。

この特集には、もう二つ対談が掲載されています。

一つは、「超光速ニュートリノ」を発表したOPERA実験グループの小松雅宏さんと哲学者の戸田山和久さん。実験グループの内部の事情まで踏み込んだお話で、興味深く拝見しました。

もう一つは、超新星爆発の理論やインフレーション理論で有名な佐藤勝彦さんと科学コミュニケーションを専門にされる横山広美さん。超新星1987Aからカミオカンデにニュートリノが届いたときの裏話がスリリングです。その当時は、私も東京大学理学部の助手をしていて、小柴さんの退官講演もお聞きしたのですが、ちょうどその日に、神岡からデータを入れたテープが届いていたのですね。

量子情報理論の小澤正直さんと科学哲学の北島雄一郎さんの論考も掲載されています。今月のはじめに、量子力学の「小澤の不等式」がウィーン工科大学の実験グループによって検証されたことが話題になったこともあり、よいタイミングの記事でした。

量子力学の授業では、粒子の位置の分散をΔX、運動量の分散をΔPとすると、どのような波動関数についても、これがh/4π(h はプランク定数)より大きいことを教えます。

ΔX ΔP > h/4π

これは、量子力学の基本原理から導くことのできる「定理」ですが、これと測定についての「ハイゼンベルクの不確定性原理」との関係には、微妙なところがあります。

この不等式において、 ΔX、ΔPは、位置や運動量の測定の不確定性を表すものと教えてしまいがちです。しかし、測定の不確定性だとすると、この不等式が必ずしも成り立たないことは、以前から知られていました。

CaltechがMITと共同で行っている重力波検出実験では、観測精度を上げる方法を探るうちに、不確定関係による「量子限界」が問題になりました。30年ほど前に「ハイゼンベルクの不確定性原理」に従わない測定法があることが指摘されたのです。そこで、どんな測定にも当てはまる関係式を見つけることが課題となり、これを解決したのが「小澤の不等式」でした。

このほか、科学ライターの竹内薫さん、量子重力から最近は量子情報理論を研究されている細谷暁夫さんの記事も掲載されています。

ツィッターなどでは、『現代思想』がこのような特集をすることへの批判もお聞きしましたが、私は、充実した内容の特集だったと思います。

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# by planckscale | 2012-01-24 15:03 | Trackback | Comments(2)
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