2009年 11月 18日
リーマン予想 |
今日は日本時間で正午からIPMUで文献紹介がありました。米国は冬時間になったので、カリフォルニアでは午後7時。早めに夕食を済ませて参加しました。
先日NHKでリーマン予想についての特別番組があり、それについてこのブログのコメント欄に、「素粒子論との関係を取り上げていましたが、本当に関係があるのでしょうか」との質問がありました。コメント欄にご返事をしましたが、念のために番組を見てみました。
丁寧に作られたよい番組だったと思います。RSA公開鍵暗号との関係も、「リーマン予想が証明されると、暗号の解読が可能になるのでITビジネスが崩壊する」というありがちな誤解に陥らず、「素数の性質がすべて分かると、暗号の解読が可能になる」というように正確な説明をしていたのは、さすがにNHKだと思いました。
そういえば、Caltechの理論物理学の教授がFBI捜査員であるお兄さんを手伝って犯罪を解決するというテレビドラマ『Numb3rs』(番組ではCaltechではなく、CalSci)で、リーマン予想を証明した数学者のお嬢さんが誘拐されるという話がありました。最初のシナリオでは、犯人が「リーマン予想を使ってRSA暗号を解読しようとする」という設定だったそうでしたが、意見を聞かれたエドワード・ウィッテンさんがそれはおかしいとおっしゃって、「リーマン予想を証明するために開発した理論的手法が暗号の解読にも使える」というように直されたそうです。
さて、ご質問の「素粒子論との関係」ですが、リーマンのゼータ函数のゼロ点の分布と、ある種の行列模型の固有値の分布との関係のことを指しているようです。
原子核のような複雑な多体系のエネルギー準位を計算するのに、基本原理から求めることをあきらめて、あまりに複雑だからランダムに分布したエルミート作用素を原子核のハミルトニアンの模型として考えようという試みが、今から半世紀ぐらい前になされました。理論物理学者のフリーマン・ダイソンさんは、特にガウス分布をするユニタリー行列を考えて、行列のサイズが無限大になる極限で、固有値の分布の相関を計算しました。
一方で、数学者のヒュー・モントゴメリーさんは、リーマン予想に動機付けられて、リーマンのゼータ函数のゼロ点の分布の相関について予想をたてました。そして、この相関が、たまたまダイソンさんの計算したランダム行列の相関と一致した。NHKの番組では、この2つの相関の一致のことを「素粒子論との関係」と呼んでいたのです。
ダイソンさんの模型自身が原子核を極端に簡単化したものなので、これをもってしてリーマン予想が究極の素粒子理論の鍵を握るというのは大げさすぎるかなと思いました。ただし、ゼータ函数のゼロ点の分布のような整数論の基本的な問題と、物理学の問題から現れたランダム行列模型が関係しているということ自身は面白いことなので、それをできるだけ分かりやすく伝えようとする番組の努力は立派です。
ところで、番組ではリーマンのゼータ函数のゼロ点についてのモントゴメリーさんの予想が事実であるかのように述べていましたが、36年たった今でも、この予想には証明がついていないはずです。リーマン予想が証明できるかどうかが焦点の番組だったので、モントゴメリーさんの予想についても、証明されているかどうかを明確にされておいたほうがよかったのではないでしょうか。
ルイ・ド・ブランジェさんの「証明」を中心にすえた番組構成でしたが、もうすこし整数論の主流の研究者の意見を聴きたかったです。たとえば、番組の最初にドン・ザギエさんが一瞬だけ登場しますが、彼はド・ブランジェさんの証明やモントゴメリーさんの予想についてはどう考えているのでしょうか。
先日NHKでリーマン予想についての特別番組があり、それについてこのブログのコメント欄に、「素粒子論との関係を取り上げていましたが、本当に関係があるのでしょうか」との質問がありました。コメント欄にご返事をしましたが、念のために番組を見てみました。
丁寧に作られたよい番組だったと思います。RSA公開鍵暗号との関係も、「リーマン予想が証明されると、暗号の解読が可能になるのでITビジネスが崩壊する」というありがちな誤解に陥らず、「素数の性質がすべて分かると、暗号の解読が可能になる」というように正確な説明をしていたのは、さすがにNHKだと思いました。
そういえば、Caltechの理論物理学の教授がFBI捜査員であるお兄さんを手伝って犯罪を解決するというテレビドラマ『Numb3rs』(番組ではCaltechではなく、CalSci)で、リーマン予想を証明した数学者のお嬢さんが誘拐されるという話がありました。最初のシナリオでは、犯人が「リーマン予想を使ってRSA暗号を解読しようとする」という設定だったそうでしたが、意見を聞かれたエドワード・ウィッテンさんがそれはおかしいとおっしゃって、「リーマン予想を証明するために開発した理論的手法が暗号の解読にも使える」というように直されたそうです。
さて、ご質問の「素粒子論との関係」ですが、リーマンのゼータ函数のゼロ点の分布と、ある種の行列模型の固有値の分布との関係のことを指しているようです。
原子核のような複雑な多体系のエネルギー準位を計算するのに、基本原理から求めることをあきらめて、あまりに複雑だからランダムに分布したエルミート作用素を原子核のハミルトニアンの模型として考えようという試みが、今から半世紀ぐらい前になされました。理論物理学者のフリーマン・ダイソンさんは、特にガウス分布をするユニタリー行列を考えて、行列のサイズが無限大になる極限で、固有値の分布の相関を計算しました。
一方で、数学者のヒュー・モントゴメリーさんは、リーマン予想に動機付けられて、リーマンのゼータ函数のゼロ点の分布の相関について予想をたてました。そして、この相関が、たまたまダイソンさんの計算したランダム行列の相関と一致した。NHKの番組では、この2つの相関の一致のことを「素粒子論との関係」と呼んでいたのです。
ダイソンさんの模型自身が原子核を極端に簡単化したものなので、これをもってしてリーマン予想が究極の素粒子理論の鍵を握るというのは大げさすぎるかなと思いました。ただし、ゼータ函数のゼロ点の分布のような整数論の基本的な問題と、物理学の問題から現れたランダム行列模型が関係しているということ自身は面白いことなので、それをできるだけ分かりやすく伝えようとする番組の努力は立派です。
ところで、番組ではリーマンのゼータ函数のゼロ点についてのモントゴメリーさんの予想が事実であるかのように述べていましたが、36年たった今でも、この予想には証明がついていないはずです。リーマン予想が証明できるかどうかが焦点の番組だったので、モントゴメリーさんの予想についても、証明されているかどうかを明確にされておいたほうがよかったのではないでしょうか。
ルイ・ド・ブランジェさんの「証明」を中心にすえた番組構成でしたが、もうすこし整数論の主流の研究者の意見を聴きたかったです。たとえば、番組の最初にドン・ザギエさんが一瞬だけ登場しますが、彼はド・ブランジェさんの証明やモントゴメリーさんの予想についてはどう考えているのでしょうか。
by planckscale
| 2009-11-18 14:13