2011年 12月 14日
ヒッグス粒子 |
CERNのLHC実験の2つのグループによるヒッグス粒子探索の経過発表がありました。公開セミナーは、カリフォルニア時間では午前5時だったので、ライブで見ることはできませんでした。幸い、午後1時にCaltechでもセミナーがあり、以前CMSグループの米国の代表者もしていたハーベイ・ニューマンさんが講演者でした。最初は私たちのフロアーの会議室で行う予定でしたが、とても聴衆が入りきらなかったので、下の階の大講義室に場所を移しました。
発表の内容自身は、数週間前からうわさになっていたので驚くことはありませんでした。予想通り、両グループとも124-126GeVぐらいのところにヒッグス粒子らしい兆候を見つけたという発表でした。ただし、統計精度は、CMSグループで標準偏差の2.6倍。さらに、"look elsewhere"効果を考えに入れた評価では、標準偏差の1.9倍だそうです。ヒッグス粒子の質量がわかっていないので、質量の考えられる領域をスキャンする必要があります。そうすると、その領域のどこかで統計的なゆらぎが起きて、そのために粒子が見つかったようなシグナルが出るということも考えられます。これを"look elsewhere"効果というわけですが、これを考えに入れると統計の評価が厳しくなるわけです。
素粒子実験の場合に、シグナルがどのくらい誤差より大きければ発見とみなされるかという基準があって、それは標準偏差の5倍とされています。なぜそう決まっているかと言うと、素粒子実験では非常にたくさんのデータを採ります。たくさんのデータを採れば、めったに起きないはずのことが簡単に起きてしまうことがあります。たとえば、100回に1回しか起きないことが起きれば、私たちは普通なら驚くわけですが、データを100個採っていれば、そのうちのひとつぐらいにはそういったことが起きても不思議ではないわけです。素粒子実験では、もっともっとたくさんのデータを採ります。誤差の5倍のことが起きる可能性は、170万回に1回で、そのくらいの精度があれば発見だと考えるのが、素粒子実験の基準なのです。
ちなみに、CMSグループの統計で標準偏差の2.6倍というのはおよそ100回に1回、"look elsewhere"効果もいれた1.9倍と言うのはおよそ20回に1回という確率に当たります。
一方、日本の高エネルギー物理学者が参加しているATLASグループの結果では、ヒッグス粒子のシグナルは標準偏差の3.6倍、これはおよそ5000回に1回。日本の新聞に、「99.98%の確率で見つけたと発表した」と書かれていたのはこのことでですね。また、"look elsewhere"効果もいれると標準偏差の2.3倍、およそ100回に1回の確率です。これが新聞に、「今回は、物理的な重要性を考慮してあえて厳しく見積もることも試み、その結果は98.9%だった」と書かれていたことにの意味だと思います。新聞によって99.98%と書いてあったり、98.9%と書いてあったりしたのは、誤差に"look elsewhere"効果を含めたものを引用したかどうかの違いです。
また、数ヶ月前に話題になったOPERA実験によるニュートリノの速さの測定では、標準偏差の6倍で光速より速いと発表されました。これは5億回に1回という高精度にあたります。
と言うわけで、ヒッグス粒子の発見ではありませんが、着実に進歩しているのは間違いありません。
私には、ヒッグス粒子の兆候とともに、ヒッグス粒子の可能性が排除された質量領域が広がっているのが印象的でした。右の写真で黄色い部分がCMSグループが排除した領域です。
新粒子の発見には標準偏差の5倍の精度が必要なのですが、逆に新粒子の可能性を否定するには標準偏差の2倍で十分とされます。CMSグループの結果は、129GeV以上の可能性を排除しているそうです。ヒッグス粒子の兆候のあるのが124-126GeVぐらいなので、そのすぐ先が排除されてしまっているのですね。
前回の発表では、排除された領域が141GeV以上だったので、129GeVまで下がってきて、ヒッグス粒子探索も終盤に迫っているという印象です。
素粒子の標準模型を超える新たな模型を作るうえでは、124-126GeVというのはかなり微妙な領域のようです。
来年の夏までにはデータがたまって、ヒッグス粒子探索についてははっきりしたことがいえるだろうと思われます。どのような素粒子模型が生き残るのか、わくわくする時代になってきました。
発表の内容自身は、数週間前からうわさになっていたので驚くことはありませんでした。予想通り、両グループとも124-126GeVぐらいのところにヒッグス粒子らしい兆候を見つけたという発表でした。ただし、統計精度は、CMSグループで標準偏差の2.6倍。さらに、"look elsewhere"効果を考えに入れた評価では、標準偏差の1.9倍だそうです。ヒッグス粒子の質量がわかっていないので、質量の考えられる領域をスキャンする必要があります。そうすると、その領域のどこかで統計的なゆらぎが起きて、そのために粒子が見つかったようなシグナルが出るということも考えられます。これを"look elsewhere"効果というわけですが、これを考えに入れると統計の評価が厳しくなるわけです。
素粒子実験の場合に、シグナルがどのくらい誤差より大きければ発見とみなされるかという基準があって、それは標準偏差の5倍とされています。なぜそう決まっているかと言うと、素粒子実験では非常にたくさんのデータを採ります。たくさんのデータを採れば、めったに起きないはずのことが簡単に起きてしまうことがあります。たとえば、100回に1回しか起きないことが起きれば、私たちは普通なら驚くわけですが、データを100個採っていれば、そのうちのひとつぐらいにはそういったことが起きても不思議ではないわけです。素粒子実験では、もっともっとたくさんのデータを採ります。誤差の5倍のことが起きる可能性は、170万回に1回で、そのくらいの精度があれば発見だと考えるのが、素粒子実験の基準なのです。
ちなみに、CMSグループの統計で標準偏差の2.6倍というのはおよそ100回に1回、"look elsewhere"効果もいれた1.9倍と言うのはおよそ20回に1回という確率に当たります。
一方、日本の高エネルギー物理学者が参加しているATLASグループの結果では、ヒッグス粒子のシグナルは標準偏差の3.6倍、これはおよそ5000回に1回。日本の新聞に、「99.98%の確率で見つけたと発表した」と書かれていたのはこのことでですね。また、"look elsewhere"効果もいれると標準偏差の2.3倍、およそ100回に1回の確率です。これが新聞に、「今回は、物理的な重要性を考慮してあえて厳しく見積もることも試み、その結果は98.9%だった」と書かれていたことにの意味だと思います。新聞によって99.98%と書いてあったり、98.9%と書いてあったりしたのは、誤差に"look elsewhere"効果を含めたものを引用したかどうかの違いです。
また、数ヶ月前に話題になったOPERA実験によるニュートリノの速さの測定では、標準偏差の6倍で光速より速いと発表されました。これは5億回に1回という高精度にあたります。
と言うわけで、ヒッグス粒子の発見ではありませんが、着実に進歩しているのは間違いありません。
私には、ヒッグス粒子の兆候とともに、ヒッグス粒子の可能性が排除された質量領域が広がっているのが印象的でした。右の写真で黄色い部分がCMSグループが排除した領域です。
新粒子の発見には標準偏差の5倍の精度が必要なのですが、逆に新粒子の可能性を否定するには標準偏差の2倍で十分とされます。CMSグループの結果は、129GeV以上の可能性を排除しているそうです。ヒッグス粒子の兆候のあるのが124-126GeVぐらいなので、そのすぐ先が排除されてしまっているのですね。
前回の発表では、排除された領域が141GeV以上だったので、129GeVまで下がってきて、ヒッグス粒子探索も終盤に迫っているという印象です。
素粒子の標準模型を超える新たな模型を作るうえでは、124-126GeVというのはかなり微妙な領域のようです。
来年の夏までにはデータがたまって、ヒッグス粒子探索についてははっきりしたことがいえるだろうと思われます。どのような素粒子模型が生き残るのか、わくわくする時代になってきました。
by planckscale
| 2011-12-14 10:16