2012年 05月 01日
『素粒子論のランドスケープ』出版 |
サイモンズ・シンポジウムから帰ってきたら、数学書房が私の解説記事を一冊にまとめて下さった本『素粒子論のランドスケープ』の見本がとどいていました。
数学書房の横山伸さんから
「岩波科学、パリティ、数理科学、などなどにお書きになったお原稿を、纏めて1冊の本として出版させていただく御願いをさせていただきます」
というメールをいただいたのは、2010年1月のことでした。それから、2年以上たってしまいました。
科学アウトリーチ活動の一環として解説記事の執筆を積極的に引き受けてきました。すでに手に入りにくくなっているものもあるので,まとめておくことにも意義があるかと思い,お願いすることにしました。
18年前に高校生向けの数学雑誌『大学への数学』のために書いた記事や、『丸善数理科学事典第2版』の「超弦理論」の項目、また単行本の1章として書いた「くりこみ理論」の解説も再録されています。
いろいろな場所に発表した記事を集めたので、読者の案内のためにも、各々の記事のはじめに,その記事を書いた背景を想い出して書いた紹介文をつけました。
また,本書の末尾には、59項目の専門用語について短い解説を書きました。
掲載された解説記事のリストは、掲載順に以下のようになっています(〈〉内は初出):
[1] 素粒子論のランドスケープ
〈『現代思想』、2010年9月〉
[2] 素粒子物理学の50年 ―「対称性の破れ」を中心に
〈『科学」、2009年1月〉
[3] 一般相対論と量子力学の統合に向けて ― 素粒子物理学と現代数学の新しい関係
〈『大学への数学』、1994年7月〉
[4] 幾何学から物理学へ、物理学から幾何学へ
〈『数理科学』、2009年4月〉
[5] 場の量子論と数学 ― くりこみ可能性の判定条件
〈『この定理が美しい』、2009年6月〉
[6]力は統一されるべきか
〈『数理科学』、2010年8月〉
[7] 多様性と統一 ― 2つの世界像についての対話
〈『固体物理』、2007年8月〉
[8] IPMUシンポジウム「素粒子と物性との出会い」の報告
〈『日本物理学会誌』、2010年8月〉
[9]素粒子論ことはじめ ー『湯川秀樹日記』書評
〈『数学セミナー』、2008年6月〉
[10] 超弦をめぐる冒険
〈『パリティ』、2010年11月〉
[11] 素粒子の統一理論としての超弦理論
〈『別冊数理科学:量子重力理論』、2009年10月〉
[12] 超弦理論
〈『丸善数理科学事典第2版』、2009年12月〉
[13] 数理物理学、この10年(1991年-2001年)― 超弦理論からの展望
〈『数学セミナー』、2002年3月〉
[14] 超弦理論、その後の10年(2001年-2011年)
〈本書のために書き下ろし〉
[15] トポロジカルな弦理論とその応用
〈『日本物理学会誌』、2005年11月〉
[16] ディビット・グロス教授に聞く
〈『IPMUニュース』、2010年1月〉
[17] 宇宙の数学とは何か
〈『科学』、2009年7月〉
[18] 重力のホログラフィー
〈『IPMUニュース』、2009年9月〉
[19] 量子ブラックホールと創発する時空間
〈『パリティ』、2009年6月〉
[20] 素粒子論と宇宙論の現在 ― リサ・ランドール教授、村山斉教授との鼎談
〈『パリティ』、2009年6月〉
よろしければ、ご覧ください。
amazonや数学書房のウェブサイトから、購入することもできます。
⇒ amazonウェブサイト
⇒ 数学書房ウェブサイト
本書の「はじめに」の文章を転載します:
私は,カリフォルニアの大学で教鞭をとるようになってから 18 年になります。カリフォルニアに引越してから最初の10 年ほどの間は,日本には 1 年に 1 回帰る程度でした。しかし, 2004 年からは日米国際交流プログラムのおかげで東京大学の素粒子論研究室を定期的に訪問するようになり,このプログラムの締めくくりの 2007 年の春には本郷に 2 ヵ月滞在して研究をしました。この年には,文部科学省から「世界トップレベル研究拠点プログラム」の公募があり,東京大学からの「数物連携宇宙研究機構(IPMU (注1))」の提案をするお手伝いをすることもできました。その秋に設立された IPMU には,私も主任研究員として参加することになり,超弦理論を中心とする理論物理学と数学の研究に取り組んでいます。ロサンゼルスと東京の往復のため,昨年は1 年間で 10 万マイル以上飛行機に乗りました。
日本に定期的に戻るようになってから,科学解説記事の執筆を依頼される機会が増え,またIPMU が設立されてからは,科学アウトリーチの一環として記事の執筆を積極的に引き受けてきました。これらの記事をご覧になった数学書房の横山さんから,単行本として出版したいとのご提案をいただきました。すでに手に入りにくくなっているものもあるので,まとめておくことにも意義があるかと思い,お願いすることにしました。
いろいろな場所に書いた記事を集めたので,読者の便宜のために,☆の数で難易度を表すことにしました。
☆ : 高校生や文科系の学部学生程度を念頭において書いた読み物。
☆☆ : 理科系の学部学生が気楽に読める読み物。
☆☆☆: 数式が遠慮なく出てくる解説記事。
各々の記事のはじめには,記事の背景についての解説をつけました。また,本書の末尾に専門用語の解説を書きましたので,よろしければご参考になさってください。
記事の執筆の際に有益なコメントをいただいた皆さん,ここに全員の名前をあげることはできませんが,ありがとうございます。また,第7 章の対談や第8 章の記事の共著者の青木秀夫さんは,本書への転載を快く了承してくださいました。本書への記事の転載を許可してくださった出版社の皆さんにも感謝します。IPMU の広報誌『IPMU News 』に掲載された記事については,印税の相当額をIPMU に寄付し,IPMU の活動に役立てていただきます。
本書第10 章の「超弦をめぐる冒険」にも書きましたが,研究室の帰りに夜空の星をながめながら,この答を知っているのは世界に自分しかいないという感動を覚えるというようなことは,研究者なら誰しも経験することです。しかし,その後には,その感動をできるだけ多くの人に伝えたくなる。その意味で,アウトリーチというのは,研究者にとって自然な活動だと思います。自分の発見した真実を知ってもらうことは楽しい。
また,このような活動を通じて,自分の研究の意義を反省することも大切なことだと思います。日本には普通の書店で手軽に購入できる科学雑誌が数多くあり,アウトリーチ活動を支えていることは,社会の科学への関心の高さを表しています。
最後になりましたが、本書のご提案をいただき、丁寧に編集をしてくださった横山伸さん、ありがとうございました。
2011 年8 月柏キャンパスにて
大栗博司
注.1 米国のカブリ財団による寄付基金の設立に伴い,2012 年4 月より「カブリIPMU」と改称になりました。
数学書房の横山伸さんから
「岩波科学、パリティ、数理科学、などなどにお書きになったお原稿を、纏めて1冊の本として出版させていただく御願いをさせていただきます」
というメールをいただいたのは、2010年1月のことでした。それから、2年以上たってしまいました。
科学アウトリーチ活動の一環として解説記事の執筆を積極的に引き受けてきました。すでに手に入りにくくなっているものもあるので,まとめておくことにも意義があるかと思い,お願いすることにしました。
18年前に高校生向けの数学雑誌『大学への数学』のために書いた記事や、『丸善数理科学事典第2版』の「超弦理論」の項目、また単行本の1章として書いた「くりこみ理論」の解説も再録されています。
いろいろな場所に発表した記事を集めたので、読者の案内のためにも、各々の記事のはじめに,その記事を書いた背景を想い出して書いた紹介文をつけました。
また,本書の末尾には、59項目の専門用語について短い解説を書きました。
掲載された解説記事のリストは、掲載順に以下のようになっています(〈〉内は初出):
[1] 素粒子論のランドスケープ
〈『現代思想』、2010年9月〉
[2] 素粒子物理学の50年 ―「対称性の破れ」を中心に
〈『科学」、2009年1月〉
[3] 一般相対論と量子力学の統合に向けて ― 素粒子物理学と現代数学の新しい関係
〈『大学への数学』、1994年7月〉
[4] 幾何学から物理学へ、物理学から幾何学へ
〈『数理科学』、2009年4月〉
[5] 場の量子論と数学 ― くりこみ可能性の判定条件
〈『この定理が美しい』、2009年6月〉
[6]力は統一されるべきか
〈『数理科学』、2010年8月〉
[7] 多様性と統一 ― 2つの世界像についての対話
〈『固体物理』、2007年8月〉
[8] IPMUシンポジウム「素粒子と物性との出会い」の報告
〈『日本物理学会誌』、2010年8月〉
[9]素粒子論ことはじめ ー『湯川秀樹日記』書評
〈『数学セミナー』、2008年6月〉
[10] 超弦をめぐる冒険
〈『パリティ』、2010年11月〉
[11] 素粒子の統一理論としての超弦理論
〈『別冊数理科学:量子重力理論』、2009年10月〉
[12] 超弦理論
〈『丸善数理科学事典第2版』、2009年12月〉
[13] 数理物理学、この10年(1991年-2001年)― 超弦理論からの展望
〈『数学セミナー』、2002年3月〉
[14] 超弦理論、その後の10年(2001年-2011年)
〈本書のために書き下ろし〉
[15] トポロジカルな弦理論とその応用
〈『日本物理学会誌』、2005年11月〉
[16] ディビット・グロス教授に聞く
〈『IPMUニュース』、2010年1月〉
[17] 宇宙の数学とは何か
〈『科学』、2009年7月〉
[18] 重力のホログラフィー
〈『IPMUニュース』、2009年9月〉
[19] 量子ブラックホールと創発する時空間
〈『パリティ』、2009年6月〉
[20] 素粒子論と宇宙論の現在 ― リサ・ランドール教授、村山斉教授との鼎談
〈『パリティ』、2009年6月〉
よろしければ、ご覧ください。
amazonや数学書房のウェブサイトから、購入することもできます。
⇒ amazonウェブサイト
⇒ 数学書房ウェブサイト
本書の「はじめに」の文章を転載します:
私は,カリフォルニアの大学で教鞭をとるようになってから 18 年になります。カリフォルニアに引越してから最初の10 年ほどの間は,日本には 1 年に 1 回帰る程度でした。しかし, 2004 年からは日米国際交流プログラムのおかげで東京大学の素粒子論研究室を定期的に訪問するようになり,このプログラムの締めくくりの 2007 年の春には本郷に 2 ヵ月滞在して研究をしました。この年には,文部科学省から「世界トップレベル研究拠点プログラム」の公募があり,東京大学からの「数物連携宇宙研究機構(IPMU (注1))」の提案をするお手伝いをすることもできました。その秋に設立された IPMU には,私も主任研究員として参加することになり,超弦理論を中心とする理論物理学と数学の研究に取り組んでいます。ロサンゼルスと東京の往復のため,昨年は1 年間で 10 万マイル以上飛行機に乗りました。
日本に定期的に戻るようになってから,科学解説記事の執筆を依頼される機会が増え,またIPMU が設立されてからは,科学アウトリーチの一環として記事の執筆を積極的に引き受けてきました。これらの記事をご覧になった数学書房の横山さんから,単行本として出版したいとのご提案をいただきました。すでに手に入りにくくなっているものもあるので,まとめておくことにも意義があるかと思い,お願いすることにしました。
いろいろな場所に書いた記事を集めたので,読者の便宜のために,☆の数で難易度を表すことにしました。
☆ : 高校生や文科系の学部学生程度を念頭において書いた読み物。
☆☆ : 理科系の学部学生が気楽に読める読み物。
☆☆☆: 数式が遠慮なく出てくる解説記事。
各々の記事のはじめには,記事の背景についての解説をつけました。また,本書の末尾に専門用語の解説を書きましたので,よろしければご参考になさってください。
記事の執筆の際に有益なコメントをいただいた皆さん,ここに全員の名前をあげることはできませんが,ありがとうございます。また,第7 章の対談や第8 章の記事の共著者の青木秀夫さんは,本書への転載を快く了承してくださいました。本書への記事の転載を許可してくださった出版社の皆さんにも感謝します。IPMU の広報誌『IPMU News 』に掲載された記事については,印税の相当額をIPMU に寄付し,IPMU の活動に役立てていただきます。
本書第10 章の「超弦をめぐる冒険」にも書きましたが,研究室の帰りに夜空の星をながめながら,この答を知っているのは世界に自分しかいないという感動を覚えるというようなことは,研究者なら誰しも経験することです。しかし,その後には,その感動をできるだけ多くの人に伝えたくなる。その意味で,アウトリーチというのは,研究者にとって自然な活動だと思います。自分の発見した真実を知ってもらうことは楽しい。
また,このような活動を通じて,自分の研究の意義を反省することも大切なことだと思います。日本には普通の書店で手軽に購入できる科学雑誌が数多くあり,アウトリーチ活動を支えていることは,社会の科学への関心の高さを表しています。
最後になりましたが、本書のご提案をいただき、丁寧に編集をしてくださった横山伸さん、ありがとうございました。
2011 年8 月柏キャンパスにて
大栗博司
注.1 米国のカブリ財団による寄付基金の設立に伴い,2012 年4 月より「カブリIPMU」と改称になりました。
by planckscale
| 2012-05-01 16:01