2013年 01月 14日
チャタム・ハウス・ルール |
昨日と今日は、Caltech主催で素粒子と宇宙についてのシンポジウムがありました。
2010年と2011年にも同様のシンポジウムを開いていて、そのときの記録はこちら ⇒ 2010年、 2011年
昨日の会場は、宇宙輸送の商業化を目指すSpaceXの本社。
SpaceXは昨年、自社開発のロケットで国際宇宙ステーションに貨物を送ることに成功しました。創業者のイーオン・マスクさんの夢は、有人宇宙飛行を商業化して、火星を数万人規模で植民し、引退後の生活を火星で送ることなのだそうです。
連邦政府との正式契約が始まったからかもしれませんが、前回訪問したときよりも社内の警備が厳しくなっているようで、お手洗いに行くのにも警備員が付いてくるのには驚きました。
このシンポジウムでは、英国の王立国際問題研究所(チャタム・ハウス)での会議のやり方にならって、
「会議で得られた情報を利用するのはかまわないが、発言者や参加者の名前や所属を明かしてはいけない」
ことになっています。
昨日のシンポジウムの話題は宇宙物理学で、午前中はインフレーション理論についての賛否両論。否定派の人からは、インフレーション理論が本当に宇宙論の諸問題を解決しているのかという疑問が呈せられました。
現在私たちから見える範囲の宇宙全体の情報量は、エントロピーに換算して10の100乗程度と見積もられます。その大部分は、ブラックホールが担っているとされています。一方、加速膨張をしている宇宙は原理的に10の120乗程度の情報を担うことができます。つまり、宇宙がランダムに発生したとすると、現在の私たちが経験しているような宇宙は非常に希な存在であることになります。
インフレーション理論が解決したとされる宇宙の平坦性の問題 ― なぜ観測されている宇宙は空間方向にほとんど平坦であるのかという問題 ― も、私たちの宇宙が希な構造を持っているのはなぜかという問題の、特別な場合であるといえます。
では、インフレーション理論は本当に「宇宙が希な存在であること」を説明できているのかという議論になりました。
また、インフレーション理論では素粒子の標準模型には含まれていない新しい素粒子の存在を仮定しますが、このような素粒子の存在を地球上の実験で検証できるのかという問題も議論されました。
SpaceXの工場見学をはさんで、午後は暗黒物質の探索の話題。素粒子論や超弦理論の立場から自然に期待されるパラメータ領域での探索がなされているかという議論にもなりました。また、ライバルの研究グループの測定精度の信頼性に疑義が唱えられるといった、きわどい場面もありました。
今日はCaltechに会場を移し、昨年のヒッグス粒子の発見を受けて、素粒子物理学の将来が議論されました。
素粒子の標準模型がプランクスケールまで変更を受けないで成り立つとすると、ヒッグス粒子の質量が126GeVの場合には、宇宙は安定な状態にない。よりエネルギーが低い状態があって、いつかは宇宙はそのような状態に崩壊してしまうことが予言されます。
このような計算から予想される宇宙の寿命は十分に長いために心配する必要はないのですが、126GeVという質量の値が興味深いものであることは確かです。
今日のシンポジウムの最後には、日本が名乗りをあげている国際線系加速器(ILC)の計画や、プラズマ加速などの新しい技術についての議論もありました。
チャタム・ハウス・ルールのおかげで、忌憚のない議論ができました。
2010年と2011年にも同様のシンポジウムを開いていて、そのときの記録はこちら ⇒ 2010年、 2011年
昨日の会場は、宇宙輸送の商業化を目指すSpaceXの本社。
SpaceXは昨年、自社開発のロケットで国際宇宙ステーションに貨物を送ることに成功しました。創業者のイーオン・マスクさんの夢は、有人宇宙飛行を商業化して、火星を数万人規模で植民し、引退後の生活を火星で送ることなのだそうです。
連邦政府との正式契約が始まったからかもしれませんが、前回訪問したときよりも社内の警備が厳しくなっているようで、お手洗いに行くのにも警備員が付いてくるのには驚きました。
このシンポジウムでは、英国の王立国際問題研究所(チャタム・ハウス)での会議のやり方にならって、
「会議で得られた情報を利用するのはかまわないが、発言者や参加者の名前や所属を明かしてはいけない」
ことになっています。
昨日のシンポジウムの話題は宇宙物理学で、午前中はインフレーション理論についての賛否両論。否定派の人からは、インフレーション理論が本当に宇宙論の諸問題を解決しているのかという疑問が呈せられました。
現在私たちから見える範囲の宇宙全体の情報量は、エントロピーに換算して10の100乗程度と見積もられます。その大部分は、ブラックホールが担っているとされています。一方、加速膨張をしている宇宙は原理的に10の120乗程度の情報を担うことができます。つまり、宇宙がランダムに発生したとすると、現在の私たちが経験しているような宇宙は非常に希な存在であることになります。
インフレーション理論が解決したとされる宇宙の平坦性の問題 ― なぜ観測されている宇宙は空間方向にほとんど平坦であるのかという問題 ― も、私たちの宇宙が希な構造を持っているのはなぜかという問題の、特別な場合であるといえます。
では、インフレーション理論は本当に「宇宙が希な存在であること」を説明できているのかという議論になりました。
また、インフレーション理論では素粒子の標準模型には含まれていない新しい素粒子の存在を仮定しますが、このような素粒子の存在を地球上の実験で検証できるのかという問題も議論されました。
SpaceXの工場見学をはさんで、午後は暗黒物質の探索の話題。素粒子論や超弦理論の立場から自然に期待されるパラメータ領域での探索がなされているかという議論にもなりました。また、ライバルの研究グループの測定精度の信頼性に疑義が唱えられるといった、きわどい場面もありました。
今日はCaltechに会場を移し、昨年のヒッグス粒子の発見を受けて、素粒子物理学の将来が議論されました。
素粒子の標準模型がプランクスケールまで変更を受けないで成り立つとすると、ヒッグス粒子の質量が126GeVの場合には、宇宙は安定な状態にない。よりエネルギーが低い状態があって、いつかは宇宙はそのような状態に崩壊してしまうことが予言されます。
このような計算から予想される宇宙の寿命は十分に長いために心配する必要はないのですが、126GeVという質量の値が興味深いものであることは確かです。
今日のシンポジウムの最後には、日本が名乗りをあげている国際線系加速器(ILC)の計画や、プラズマ加速などの新しい技術についての議論もありました。
チャタム・ハウス・ルールのおかげで、忌憚のない議論ができました。
by planckscale
| 2013-01-14 13:38