2013年 08月 08日
『超弦理論入門』 |
8月20日にブルーバックスから『超弦理論入門』を上梓します。
左に掲載した表紙には、ブルーバックスのこれまでの表紙のスタイルと異なるところがあります。それは何でしょうか(答は、このブログ記事の後半にあります)。
超弦理論は、重力の理論と量子力学を統合する究極の統一理論の候補です。
この理論では、すべての物質が、大きさのない「点」のような粒子ではなく、1次元的に拡がった「ひも」のようなものでできていると考えます。本書では、なぜそのような奇妙な理論を考えなければならなくなったのかというところから、丁寧に説明しました。
この超弦理論の研究によって、重力はおろか、私たちの空間や時間についての考え方にも革命的な変化が起ころうとしています。
人類は古くから、「空間とは何か」、「時間とは何か」と問いかけてきました。
現代の私たちは、私たちは、縦・横・高さのある3次元の空間に住み、過去から未来に一様に流れる時間に沿って生きていると感じています。これは17世紀のニュートンの「絶対空間」や「絶対時間」の考え方を反映したものです。ニュートンの力学は、現代社会を支えている科学の基礎なので、「絶対空間」や「絶対時間」も、私たちの考え方に染み渡っているのです
この考え方は20世紀になって、アインシュタインによって覆されます。空間や時間は、絶対不変ではなく、観測の仕方によって伸び縮みする。また、物質の間に働く重力は、空間や時間の伸び縮みによって伝わることが明らかになったのです。
しかし、空間や時間の探求は、アインシュタインの理論では終わりませんでした。
古代ギリシアの哲学者デモクリトスは、物質の味や温度や色は基本的な性質ではなく、ミクロな世界のより根源的な法則から導かれるものであると考えて、
私たちは習慣によって、甘味があったり、苦味があったり、
熱かったり、冷たかったり、色があったりすると思うが、
現実に存在するのは原子と真空だけである
と語りました。
超弦理論の研究は、味や温度や色だけでなく、空間そのものも、何かより根源的なものから現れてくる性質であることを明らかにしつつあります。
色や温度が幻想であるのなら、私たちが生きているこの空間も単なる幻想であるともいえます。物理学者は、自然のもっと基本的な性質を探るうちに、「空間とは何か」を問い直さざる終えなくなってきたのです。
本書では、この分野の現場の活気をお伝えすることを目指しました。
私は小学校高学年の頃に、ブルーバックスを読んで物理学への興味を持つようになりました。そこで、物理学の研究を職業にするようになってからは、いつかはブルーバックスで自分の研究のことを書きたいと思っていました。
この1年の間に、重力の世界についての『重力とは何か』、素粒子の世界についての『強い力と弱い力』という2冊の解説書を幻冬舎新書から上梓しました。本書のテーマは、この2つの世界を統合する超弦理論であり、これをブルーバックスから出版できたことで、長年の望みがかないました。
ブルーバックスは、今年で創刊50周年です。そして、本書ではブルーバックスの創刊以来始めて、表紙のタイトルが縦書きになっています。
原稿をご覧になった編集部の方々が、
「日本語の力で、ここまで解説できるということを象徴したい」
おっしゃって、表紙が縦書きのデザインになりました。
私がブルーバックスを読んで科学への道を志したように、本書によって、若い世代の方々が科学への興味を高めてくださることを期待します。
発売は8月20日ですが、アマゾンではすでに予約販売が始まっています。
⇒ アマゾンでの予約はこちらから
お読みいただけるとうれしいです。
以下に、本書の「はじめに」から、本書のプランの部分を転載しました。「本書のプラン」と書いてあるところをクリックしていただくと開きます。
本書のプラン
私はこの本を、できるだけ少ない予備知識で超弦理論の最先端までご案内できるように書きました。そのための準備として、第1章と第2章では、量子力学や素粒子論についての基礎的な知識について解説をしています。
しかし、もっと手っとり早く超弦理論の話だけを知りたいと思われたり、あるいは、これらの章を読んでいてつまずきそうになったりした方は、超弦理論の話が本格的に始まる第3章から読みはじめてもさしつかえありません。いったん全体の様子がわかってから、もっと深く知りたいと思ったところを前の章で確認すればよいと思います。
第3章では、物質の基礎となる素粒子やその間に働く力を、超弦理論ではどのように考えるのかを説明します。また、もともとは「弦理論」という名前の理論だったのがなぜ「超弦理論」になったのか。二つの理論の違いと、そのように理論が発展する過程も丁寧に解説しています。
第4章では、超弦理論では「空間の次元が決まる」理由を明らかにします。超弦理論の大きな特徴は、空間とは何次元なのかが決まるところにあります。そこで本書では、なぜ次元が決まるのかの本格的な説明にチャレンジしてみました。ただし、最初は難しく考えずに「超弦理論では次元が決まるんだな」くらいの軽い気持ちで読んでも、その先を理解するのには困らないように書いてあります。
第5章では超弦理論からいったん離れて、重力や電磁気力など、自然界のすべての力に共通する原理についてお話しします。これは「ゲージ原理」といわれるものです。素粒子についての現在の基本的な理論(標準模型)も、そのあとに登場した超弦理論も、その基本にはこの原理があるので、本書では、できるだけやさしく、しかしごまかしのない解説を試みました。ただ、やや抽象的な概念なので、話の筋を見失いそうになったら「ゲージ対称性」という言葉だけを憶えておいて、次の章に進んでも結構です。その先でこの言葉が出てきたら「第5章で説明していた話だな」くらいに気軽に考えていただき、さらに深く知りたくなったときだけ、この章に戻ってきてください。
そのあとの第6章から、いよいよ超弦理論が主役となります。
第6章の、超弦理論が素粒子の理論の花形に躍り出るまでの「第一次超弦理論革命」。
そして第8章の、超弦理論の完成度が飛躍的に高まった「第二次超弦理論革命」。
この二つの「事件」によって、超弦理論が劇的に進歩した過程を紹介していきます。
また、その間の第7章では、私自身が超弦理論に魅せられ、研究にのめりこんでいった経緯についてもお話しします。
そして第9章で、ついに空間は「幻想」になります。私は超弦理論の研究を通して、世界の見方が根底からくつがえるような経験をしました。みなさんにもぜひ、それを経験していただきたい。本書を執筆した動機はそこにあります。
空間が幻想であるならば、時間も幻想なのでしょうか。みなさんも気になることでしょう。過去と未来には、本当に区別があるのでしょうか。そもそも、時間とは何でしょうか。最後の第10章では、こうした時間にまつわる疑問について考えてみます。
各章のはじめには、その章の話題にまつわる文学作品や歴史的文書などを紹介しながら簡単な導入を書きました。また、各章の終わりには休めとして、軽いコラムを載せました。これらを拾い読みしながら行きつ戻りつするというのも、本書のひとつの読み方です。
幻冬舎新書から上梓した『重力とは何か』と『強い力と弱い力』では、本文中のイラストもほとんどは私が描きましたが、本書ではイラストというよりダイアグラム(図式)が主であり、また数も多くなったので専門の方に依頼しました。しかし、科学者の似顔絵だけは前の二冊と同様に、自分で描きました。彼らの研究の内容を知っている私が描いたほうが、より内面を反映した絵になると思ったからです。
みなさんの興味に応じて、いろいろな読み方で本書を楽しんでいただければと思います。
では、物理学者が「空間は幻想である」と考えるにいたった理由を説明していきましょう。
左に掲載した表紙には、ブルーバックスのこれまでの表紙のスタイルと異なるところがあります。それは何でしょうか(答は、このブログ記事の後半にあります)。
超弦理論は、重力の理論と量子力学を統合する究極の統一理論の候補です。
この理論では、すべての物質が、大きさのない「点」のような粒子ではなく、1次元的に拡がった「ひも」のようなものでできていると考えます。本書では、なぜそのような奇妙な理論を考えなければならなくなったのかというところから、丁寧に説明しました。
この超弦理論の研究によって、重力はおろか、私たちの空間や時間についての考え方にも革命的な変化が起ころうとしています。
人類は古くから、「空間とは何か」、「時間とは何か」と問いかけてきました。
現代の私たちは、私たちは、縦・横・高さのある3次元の空間に住み、過去から未来に一様に流れる時間に沿って生きていると感じています。これは17世紀のニュートンの「絶対空間」や「絶対時間」の考え方を反映したものです。ニュートンの力学は、現代社会を支えている科学の基礎なので、「絶対空間」や「絶対時間」も、私たちの考え方に染み渡っているのです
この考え方は20世紀になって、アインシュタインによって覆されます。空間や時間は、絶対不変ではなく、観測の仕方によって伸び縮みする。また、物質の間に働く重力は、空間や時間の伸び縮みによって伝わることが明らかになったのです。
しかし、空間や時間の探求は、アインシュタインの理論では終わりませんでした。
古代ギリシアの哲学者デモクリトスは、物質の味や温度や色は基本的な性質ではなく、ミクロな世界のより根源的な法則から導かれるものであると考えて、
私たちは習慣によって、甘味があったり、苦味があったり、
熱かったり、冷たかったり、色があったりすると思うが、
現実に存在するのは原子と真空だけである
と語りました。
超弦理論の研究は、味や温度や色だけでなく、空間そのものも、何かより根源的なものから現れてくる性質であることを明らかにしつつあります。
色や温度が幻想であるのなら、私たちが生きているこの空間も単なる幻想であるともいえます。物理学者は、自然のもっと基本的な性質を探るうちに、「空間とは何か」を問い直さざる終えなくなってきたのです。
本書では、この分野の現場の活気をお伝えすることを目指しました。
私は小学校高学年の頃に、ブルーバックスを読んで物理学への興味を持つようになりました。そこで、物理学の研究を職業にするようになってからは、いつかはブルーバックスで自分の研究のことを書きたいと思っていました。
この1年の間に、重力の世界についての『重力とは何か』、素粒子の世界についての『強い力と弱い力』という2冊の解説書を幻冬舎新書から上梓しました。本書のテーマは、この2つの世界を統合する超弦理論であり、これをブルーバックスから出版できたことで、長年の望みがかないました。
ブルーバックスは、今年で創刊50周年です。そして、本書ではブルーバックスの創刊以来始めて、表紙のタイトルが縦書きになっています。
原稿をご覧になった編集部の方々が、
「日本語の力で、ここまで解説できるということを象徴したい」
おっしゃって、表紙が縦書きのデザインになりました。
私がブルーバックスを読んで科学への道を志したように、本書によって、若い世代の方々が科学への興味を高めてくださることを期待します。
発売は8月20日ですが、アマゾンではすでに予約販売が始まっています。
⇒ アマゾンでの予約はこちらから
お読みいただけるとうれしいです。
以下に、本書の「はじめに」から、本書のプランの部分を転載しました。「本書のプラン」と書いてあるところをクリックしていただくと開きます。
本書のプラン
私はこの本を、できるだけ少ない予備知識で超弦理論の最先端までご案内できるように書きました。そのための準備として、第1章と第2章では、量子力学や素粒子論についての基礎的な知識について解説をしています。
しかし、もっと手っとり早く超弦理論の話だけを知りたいと思われたり、あるいは、これらの章を読んでいてつまずきそうになったりした方は、超弦理論の話が本格的に始まる第3章から読みはじめてもさしつかえありません。いったん全体の様子がわかってから、もっと深く知りたいと思ったところを前の章で確認すればよいと思います。
第3章では、物質の基礎となる素粒子やその間に働く力を、超弦理論ではどのように考えるのかを説明します。また、もともとは「弦理論」という名前の理論だったのがなぜ「超弦理論」になったのか。二つの理論の違いと、そのように理論が発展する過程も丁寧に解説しています。
第4章では、超弦理論では「空間の次元が決まる」理由を明らかにします。超弦理論の大きな特徴は、空間とは何次元なのかが決まるところにあります。そこで本書では、なぜ次元が決まるのかの本格的な説明にチャレンジしてみました。ただし、最初は難しく考えずに「超弦理論では次元が決まるんだな」くらいの軽い気持ちで読んでも、その先を理解するのには困らないように書いてあります。
第5章では超弦理論からいったん離れて、重力や電磁気力など、自然界のすべての力に共通する原理についてお話しします。これは「ゲージ原理」といわれるものです。素粒子についての現在の基本的な理論(標準模型)も、そのあとに登場した超弦理論も、その基本にはこの原理があるので、本書では、できるだけやさしく、しかしごまかしのない解説を試みました。ただ、やや抽象的な概念なので、話の筋を見失いそうになったら「ゲージ対称性」という言葉だけを憶えておいて、次の章に進んでも結構です。その先でこの言葉が出てきたら「第5章で説明していた話だな」くらいに気軽に考えていただき、さらに深く知りたくなったときだけ、この章に戻ってきてください。
そのあとの第6章から、いよいよ超弦理論が主役となります。
第6章の、超弦理論が素粒子の理論の花形に躍り出るまでの「第一次超弦理論革命」。
そして第8章の、超弦理論の完成度が飛躍的に高まった「第二次超弦理論革命」。
この二つの「事件」によって、超弦理論が劇的に進歩した過程を紹介していきます。
また、その間の第7章では、私自身が超弦理論に魅せられ、研究にのめりこんでいった経緯についてもお話しします。
そして第9章で、ついに空間は「幻想」になります。私は超弦理論の研究を通して、世界の見方が根底からくつがえるような経験をしました。みなさんにもぜひ、それを経験していただきたい。本書を執筆した動機はそこにあります。
空間が幻想であるならば、時間も幻想なのでしょうか。みなさんも気になることでしょう。過去と未来には、本当に区別があるのでしょうか。そもそも、時間とは何でしょうか。最後の第10章では、こうした時間にまつわる疑問について考えてみます。
各章のはじめには、その章の話題にまつわる文学作品や歴史的文書などを紹介しながら簡単な導入を書きました。また、各章の終わりには休めとして、軽いコラムを載せました。これらを拾い読みしながら行きつ戻りつするというのも、本書のひとつの読み方です。
幻冬舎新書から上梓した『重力とは何か』と『強い力と弱い力』では、本文中のイラストもほとんどは私が描きましたが、本書ではイラストというよりダイアグラム(図式)が主であり、また数も多くなったので専門の方に依頼しました。しかし、科学者の似顔絵だけは前の二冊と同様に、自分で描きました。彼らの研究の内容を知っている私が描いたほうが、より内面を反映した絵になると思ったからです。
みなさんの興味に応じて、いろいろな読み方で本書を楽しんでいただければと思います。
では、物理学者が「空間は幻想である」と考えるにいたった理由を説明していきましょう。
by planckscale
| 2013-08-08 07:24