2014年 03月 18日
原始の重力波 その2 |
ところが、インターネットのアクセスが多すぎたようで、会場のウェブページに行けません。ツィッターやフェイスブックで見ると、他の場所から見ようとしている人たちも困っているようでした。幸い、CaltechにはBICEPチームの人たちがいるので、公開されたデータをもとに急遽説明をしてもらいました。
そうこうしているうちに、ハーバードの会場でスマートフォンでビデオを撮っている人が、非公式にUstreamでビデオを放映していることがわかって、そちらを見ました。
そのときの様子は、ハシュタグをつけてライブツィートをしました。
⇒ #BICEP発表
左の写真は、BICEPチームがCaltechのミリカン池にかかる橋の上で撮った集合写真です。
肝心の結果ですが、宇宙初期の量子ゆらぎでできた重力波の強さを表す r 比と呼ばれる量が約0.2であるとの発表でした。これは、予想されていた値よりも大きく、驚きでした。
ニュートンの万有引力では、重力の強さは質量に比例します。アインシュタインの理論では、エネルギーと質量は等価なので、重力の強さはエネルギーで決まるといってもよいわけです。ですから、原始の重力波がインフレーションの時期に起きたとすると、重力波の強さはインフレーションのエネルギーの大きさと関係があることになります。
r 比が0.2であったということは、インフレーションのエネルギーが、ヒッグス粒子の質量をエネルギーに換算したものより14桁も大きい。一方、一般相対論と量子力学を統合するプランク・スケールと比較すると、2桁下です。ですから、これまで素粒子物理学で実験されてきたエネルギーよりはるかに大きく、超弦理論のように一般相対論と量子力学を統合する理論のエネルギーには近いということになります。
また r 比は、インフレーションを引き起こすインフラトンと呼ばれる場の変動の大きさとも関係があります。r 比が0.2であったということは、インフラトンの変動幅がプランク・スケールよりも大きかったということです。超弦理論からインフレーション模型を導くときには、インフラトンの変動幅がこれほど大きいということは重要な制限になります。今回の結果は、超弦理論の理解にも重要な情報を与えることになりそうです。
BICEPチームは3年間をかけてデータを解析し、誤差をつぶしてきたそうで、r 比がゼロでない確率(つまり、原始の重力波が存在していた確率)は7シグマだそうです。
7シグマとは、誤差による間違いの確率が4000億分の1以下という意味で、実験結果が正しい確率が99.99999999974パーセントということもできます。これに対し、2012年にCERNのLHC実験で「ヒッグス粒子と思われる粒子が発見」されたとの発表があったときの精度は5シグマで、誤差の確率は174万分の1でした。BICEPチームの誤差の解析が正しければ、原始の重力波の存在が確認されたことになります。
原始の重力波の存在はインフレーション模型の重要な予言なので、BICEPの結果が確認されれば、インフレーション模型が検証されたことになります。
日本の新聞には、インフレーション模型の提唱者である佐藤勝彦さんの、
「大変ありがたい話だ。今後は直接、重力波を測定し、宇宙の生まれた瞬間の『写真』を出してほしい」
という言葉が掲載されていました。
また、CaltechのBICEPチームにポストドクトラル・フェローとして参加し、スタンフォード大学の助教授としてBICEPのCo-PIになっているチャオリン・クオさんが、インフレーション模型の発展に貢献されたアンドレイ・リンデさんに報告に行くビデオがありましたので、下に貼っておきます。
おめでとうございます。
by planckscale
| 2014-03-18 15:07