2015年 03月 18日
『数学の言葉で世界を見たら』 特設ウェブ・ページ |
「量子エンタングルメント」のシンポジウムでの講演も無事に終わって、くつろいでいます。講演の後で、何人もの人が、とても面白かったと言ってくださったので、嬉しかったです。また、有益なコメントもたくさんいただいたので、今後の研究に生かしていきたいと思います。
拙著 『数学の言葉で世界を見たら』 が刊行されました。店頭にも並びだしているそうです。
榎戸誠さんが、早速書評を書いてくださいました。
⇒ 「数学が好きな人はより好きに、そうでない人はそれなりに数学が好きになる本」
本書の出版をご報告した2週間前のブログ記事では、「娘の小学校卒業謝恩会での私のスピーチの原稿を、幻冬舎の小木田順子さんがご覧になったのが、本書執筆のきっかけだった」 という話を書きました。
小木田さんのご提案で、2013年11月から2014年7月までの9ヶ月間、幻冬舎のウェブマガジンに数学コラムを書くことになりました。
数学コラム連載中には、娘は高校受験をしていました。幸い、第―志望だったニューイングランドの寄宿学校に合格し、昨年の秋から寮生活をしています。
そのようなわけで、本書は、巣立つ娘に伝え残したことはないかと考えながら書きました。
(この受験は、親の私たちにとっても得がたい経験だったので、妻のブログに記録されています。 ⇒ 米国寄宿学校受験記)
本書を読んでくださる方々のために、特設のウェブ・ページを作りました。
⇒ 『数学の言葉で世界を見たら』 特設ページ
こうしておくと、新しい発展があったときに補遺を追加したり、新しい参考文献を付け加えることができるからです。
索引についても、編集担当の小木田さんと何度も相談して、使いやすいものにしました。ただし、索引は本と一緒になっていたほうが便利なので、事項索引と人名索引は出版された本書の末尾に掲載されています。
この特設ウェブ・ページには、
☆ 本書で紹介する定理たち
☆ 本書に登場する数学者たち
のご紹介に続いて、
☆ 参考文献リスト
を掲載しました。
また、本文で説明しない証明や、さらに進んだ話題をまとめた補遺を、各章に分けて掲載しました。
補遺の記事の中には、本書の内容よりも難易度が高いものもあります。
各章の補遺:
第1話 不確実な情報から判断する
第2話 基本原理に立ち戻ってみる
第3話 大きな数だって怖くない
第4話 素数はふしぎ
第5話 無限世界と不完全性定理
第6話 宇宙のかたちを測る
第7話 微分は積分から
第8話 本当にあった「空想の数」
第9話 「難しさ」「美しさ」を測る
補遺には数式も出てくるので、原稿をLaTeX構文で書き、JavaScriptライブラリーのMathJaxを使って、ウェブブラウザー上に数式が表示されるようにしました。
Kindle版も明日から配信されます。ウェブマガジンの連載のときに、MathJaxの設定などでお世話になった技術担当の柳生真一さんは、Kindle版の製作でも奮闘されました。ありがとうございます。
⇒ 単行本版@アマゾン
⇒ Kindle版@アマゾン
以下に、本書の「あとがき」を転載しました。「あとがき」と書いてあるところをクリックしていただくと開きます。
あとがき
私の娘は、カリフォルニアで生まれ育ち、現地校で義務教育を受けてきましたが、日本語補習授業校で日本の学校生活も体験しました。彼女が補習校小学部を卒業したときに、謝恩会で保護者のひとりとしてスピーチをさせていただきました。ご指導いただいた先生方に感謝し、日本語と英語のバイリンガルとして育つことで、物事をより幅広くより深く考えることができるという話をしました。そして、数学も言葉のひとつであるとして、「日本語と英語の2つの言葉を身につけられた皆さんが、数学も身につけて、トライリンガルとしてご活躍されることを期待しています」と結びました。このスピーチの原稿を私のブログでご覧になった幻冬舎の小木田順子さんから、「この話の続きになるような数学の本」のご提案を受けたのが、本書執筆のきっかけでした。
ちょうど、幻冬舎がウェブマガジン「幻冬舎plus」を立ち上げるところでしたので、9ヶ月間、隔週で数学コラムを連載しました。私の連載のほかには軟らかめの記事が多く、ファッショナブルなパーティーに詰襟の制服で来てしまったように感じましたが、記事を配信すると毎回「人気記事ランキング」のトップになり、その年の「最も反響の大きかった記事」のひとつに選ばれるなど、多くの方々に読んでいただくことができました。トレンディなウェブマガジンの読者に、数学の楽しさ、素晴らしさを伝えようとしたことで、記事の内容も鍛えられました。
連載では、原稿をLaTeX構文で書き、JavaScriptライブラリーのMathJaxを使って、読者のウェブブラウザー上に数式を表示しました。その際には、幻冬舎の技術担当の柳生真一さんに、お世話になりました。
この連載を単行本として出版するために、全体のストーリーを考え直し、話題を取捨選択し、説明の仕方もすべて見直しました。また、数学の各分野の気鋭の研究者に原稿を読んでいただき、ご批判をいただきました。特に、大阪大学の大山陽介さん、ロシア国立経済高等学院の武部尚志さん、神戸大学の谷口隆さん、東北大学の長谷川浩司さんからは、数多くの貴重なコメントをいただきました。
また、第5話「無限世界と不完全性定理」を配信したときには、数理論理学の専門家の方々から、いくつかのご指摘を受けました。特に、奈良女子大学の鴨浩靖さんからは、懇切なアドバイスをいただきました。
こうしたご意見のおかげで、よりよい原稿にできました。ありがとうございました。もちろん、本書の内容については、私が全責任を負います。用語については、原則として中学や高校の教科書に準拠しましたので、専門分野の学術用語の使い方とは異なる場合があるかもしれません。
小木田さんは、幻冬舎新書の『重力とは何か』と『強い力と弱い力』の編集を担当してくださった、科学アウトリーチのコーチです。本書でも、数学の内容もきちんとフォローしてくださり、話題の選択や難易度の調節にも、有益なアドバイスをいただきました。
私が数学コラムを連載していたときに、娘は高校受験をしていました。幸い、第―志望だったニューイングランドの寄宿学校に合格し、昨年の秋から寮生活をしています。本書は、巣立つ娘に伝え残したことはないかと考えながら書きました。
数学と民主主義は、どちらも古代ギリシアで誕生しました。数学は、宗教や権威に頼らず、万人に受け入れられた論理だけを使って、真実を見出す方法です。上から押しつけられた結論を受け入れるのではなく、一人ひとりが自分の頭で自由に考え判断する。このような姿勢は、民主主義が健全に機能するためにも必要です。数学と民主主義が、ほぼ同時代に同じ場所で現れたのは、偶然ではないと思います。
経済協力開発機構(OECD)参加各国が行っている15歳児の学習到達度調査(PISA)でも、「数学リテラシー」とは、「個人が世界において数学が果たす役割を認識し、建設的で積極的、思慮深い市民に必要な確固たる基礎に基づく判断と決定を下す助けとなるもの」として定義されています。
インターネットによって、世界中の知識が瞬時に手に入るようになりました。情報の洪水に押し流されず、本質を捉え、新しい価値を創造するためには、自分で考える力がこれまで以上に大切になります。本書で紹介した数学の言葉が、そのためのヒントになれば幸いです。
by PlanckScale
| 2015-03-18 10:11