2016年 10月 05日
映画 『奇跡がくれた数式』 |
先週は、カブリIPMUに行っていました。
火曜日には、カブリIPMUで 「統計、量子情報、重力」 と題したシンポジウムを開きました。
最近の研究によって、量子エンタングルメントの概念が、ホログラフィー原理の理解において重要であることが明らかになってきました。重力理論の状態は特別なエンタングルメントを持ち、これは量子情報理論においても興味深いもののようです。そこで、量子情報理論や統計物理学の基礎を含む数理物理の諸分野の研究者をお呼びして、これらの分野との対話を始めるためのシンポジウムにしました。
カブリIPMUでは、これまで物性物理学者との合同国際会議を2回開いて、これから新しい共同研究も生まれました。
⇒ 2010年の物性物理学との合同会議
⇒ 2015年の物性物理学との合同会議
今回のシンポジウムからも、統計や量子情報との新しい連携が生まれることを期待します。
物性物理学といえば、今年度のノーベル物理学賞は 「物質のトポロジカルな相転移の理論的発見」に対し授賞されるとの発表がありました。私は、朝日新聞のWEBRONZAで、今年は「重力波の直接観測」が授賞対象になると予想していたので、外しました。
2014年には「トポロジカルな絶縁体」か「青色発光ダイオード」と予想して、この年には「青色発光ダイオード」が授賞対象になりました。今回の授賞は、「トポロジカルな絶縁体」のような最近の発展の基礎となった重要な概念の発見にあたえられたもので、素晴らしい選択だと思いました。
おめでとうございます。
さて、インドの天才数学者ラマヌジャンの生涯を描いた映画 『奇跡がくれた数式』 が日本でも10月22日から公開になるそうです。
私は、今年の春にサバティカル休暇でハーバード大学に滞在しているときに、ボストンの映画館で観ました。
ラマヌジャンをケンブリッジ大学に呼び寄せたハーディとの間の「直観」と「証明」の対立、ラマヌジャンの提案した素数の個数公式は間違っていたが、分割数を求める公式ではマクマホーンを説得できたことなど、数学の研究の場面を丁寧に描いていたと思います。
映画の最後には、「ラマヌジャンの最後のノート」が登場します。
このノートは、昨年ケンブリッジ大学のトリニティカレッジの図書館で拝見していました。右の写真は、このときの写真です。
映画では箱に入れられて飾ってありましたが、私たちが行ったときには直接手に取って読ませていただくことができました。
映画は、「一世紀後、ラマヌジャンの研究は、ブラックホールの研究にも役立っている」 という言葉で終わっています。
これは、超弦理論で登場するブラックホールの状態数の数え上げに、ラマヌジャンのモック・モジュラー形式が使われることを指しているのだと思います。
モック・モジュラー形式が物理の研究に初めて登場したのは、おそらく1987年の江口徹さんとアン・タオルミナさんのN=4超共形代数の指標公式でしょう。これは1989年の私の博士論文にも使われ、2010年に私が江口徹さんと立川裕二さんと発表した 「マチュー・ムーンシャイン(月影)」 でも重要な役割をしています。
今回の映画 『奇跡がくれた数式』 の監修をされている数学者のケン・オノさんは、最近この 「マチュー・ムーンシャイン」 の研究をなさっているので、「ブラックホールの研究にも役立っている」 という言葉も、それを反映しているのだと思います。
数学的な内容もしっかりしている、よい映画だと思います。
火曜日には、カブリIPMUで 「統計、量子情報、重力」 と題したシンポジウムを開きました。
最近の研究によって、量子エンタングルメントの概念が、ホログラフィー原理の理解において重要であることが明らかになってきました。重力理論の状態は特別なエンタングルメントを持ち、これは量子情報理論においても興味深いもののようです。そこで、量子情報理論や統計物理学の基礎を含む数理物理の諸分野の研究者をお呼びして、これらの分野との対話を始めるためのシンポジウムにしました。
カブリIPMUでは、これまで物性物理学者との合同国際会議を2回開いて、これから新しい共同研究も生まれました。
⇒ 2010年の物性物理学との合同会議
⇒ 2015年の物性物理学との合同会議
今回のシンポジウムからも、統計や量子情報との新しい連携が生まれることを期待します。
物性物理学といえば、今年度のノーベル物理学賞は 「物質のトポロジカルな相転移の理論的発見」に対し授賞されるとの発表がありました。私は、朝日新聞のWEBRONZAで、今年は「重力波の直接観測」が授賞対象になると予想していたので、外しました。
2014年には「トポロジカルな絶縁体」か「青色発光ダイオード」と予想して、この年には「青色発光ダイオード」が授賞対象になりました。今回の授賞は、「トポロジカルな絶縁体」のような最近の発展の基礎となった重要な概念の発見にあたえられたもので、素晴らしい選択だと思いました。
おめでとうございます。
さて、インドの天才数学者ラマヌジャンの生涯を描いた映画 『奇跡がくれた数式』 が日本でも10月22日から公開になるそうです。
私は、今年の春にサバティカル休暇でハーバード大学に滞在しているときに、ボストンの映画館で観ました。
ラマヌジャンをケンブリッジ大学に呼び寄せたハーディとの間の「直観」と「証明」の対立、ラマヌジャンの提案した素数の個数公式は間違っていたが、分割数を求める公式ではマクマホーンを説得できたことなど、数学の研究の場面を丁寧に描いていたと思います。
映画の最後には、「ラマヌジャンの最後のノート」が登場します。
このノートは、昨年ケンブリッジ大学のトリニティカレッジの図書館で拝見していました。右の写真は、このときの写真です。
映画では箱に入れられて飾ってありましたが、私たちが行ったときには直接手に取って読ませていただくことができました。
映画は、「一世紀後、ラマヌジャンの研究は、ブラックホールの研究にも役立っている」 という言葉で終わっています。
これは、超弦理論で登場するブラックホールの状態数の数え上げに、ラマヌジャンのモック・モジュラー形式が使われることを指しているのだと思います。
モック・モジュラー形式が物理の研究に初めて登場したのは、おそらく1987年の江口徹さんとアン・タオルミナさんのN=4超共形代数の指標公式でしょう。これは1989年の私の博士論文にも使われ、2010年に私が江口徹さんと立川裕二さんと発表した 「マチュー・ムーンシャイン(月影)」 でも重要な役割をしています。
今回の映画 『奇跡がくれた数式』 の監修をされている数学者のケン・オノさんは、最近この 「マチュー・ムーンシャイン」 の研究をなさっているので、「ブラックホールの研究にも役立っている」 という言葉も、それを反映しているのだと思います。
数学的な内容もしっかりしている、よい映画だと思います。
by PlanckScale
| 2016-10-05 09:26