2016年 11月 11日
笠-高柳公式とその展開 |
今年度の仁科記念賞が、「ホログラフィ原理を用いたエンタングルメント・エントロピー公式の発見と展開」に対し、京都大学基礎物理学研究所の高柳匡さんに授賞されることが発表されました。
「笠-高柳公式」として知られるエンタングルメント・エントロピーの公式が発見されてから、今年でちょうど10年目になります。左の図は、その論文から転載しました。
高柳さんは、この公式の発見とともに、これを使ったホログラフィ原理の仕組みの解明とその応用に数々の重要な貢献をなさってきました。
おめでとうございます。
以下に、仁科記念財団が発表した授賞理由を添付します。
重力を含む素粒子の統一理論の構成を目指す超弦理論の主要な研究対象のひとつに「ホログラフィ原理」がある。量子重力理論の基本的自由度は、対象とする領域全体に広がっているのではなく、領域の境界面に局在しているというこの原理は、1997 年の J.Maldacena 氏による AdS/CFT対応の発見によって、超弦理論の中で理論的に実現していることが示された。
高柳氏が笠真生氏と 2006 年に発表した「エンタングルメント・エントロピーのホログラフィック公式」[1]は、AdS/CFT 対応の展開において最も画期的かつ重要な発見のひとつである。 エンタングルメント(量子もつれ)は、量子力学の基礎や量子情報理論、また最近は物性物理学でも重要な役割をしている概念であり、エンタングルメント・エントロピーはその大きさを測る指標である。高柳氏が笠氏と提案した公式は、ホログラフィ原理に基づいて、エンタングルメントを重力理論の幾何学的性質に結び付けるものであり、「笠-高柳公式」という名で知られている。この公式は、A.Lewkowycz 氏と J.Maldacena 氏によって理解が深められ、理論物理学における重要な公式として確立している。
高柳氏は、過去 10 年間にわたって、この笠-高柳公式を発展させ、ホログラフィ原理の仕組みの解明とその応用に主導的な貢献をしてきた。笠‐高柳公式に基づいて計算されたエントロピーが、劣強加法性と呼ばれる不等式を満たしていることを示した高柳氏と M.Headrick 氏の論文[2]は、この公式の正しさを示す重要な証拠を提供するとともに、重力理論における状態がエンタングルメントに関して特別な性質を持つことを明らかにする契機を作った。また、笠-高柳公式を時間に依存した状態に拡張した高柳氏と V.Hubeny 氏、M.Rangamani 氏の論文[3]も高く評価されている。
ホログラフィ原理に関する高柳氏の一連の研究は、量子重力理論や超弦理論の基礎となる重要な成果である。
参考文献:
[1] “Holographic derivation of entanglement entropy from AdS/CFT,” S. Ryu, T. Takayanagi, Phys.Rev.Lett. 96 (2006) 181602.
[2] “A holographic proof of the strong subadditivity of entanglement entropy,” M. Headrick, T. Takayanagi, Phys.Rev. D76 (2007) 106013.
[3] “A covariant holographic entanglement entropy proposal,” V. E. Hubeny, M. Rangamani, T. Takayanagi, JHEP 0707 (2007) 062.
「笠-高柳公式」として知られるエンタングルメント・エントロピーの公式が発見されてから、今年でちょうど10年目になります。左の図は、その論文から転載しました。
高柳さんは、この公式の発見とともに、これを使ったホログラフィ原理の仕組みの解明とその応用に数々の重要な貢献をなさってきました。
おめでとうございます。
以下に、仁科記念財団が発表した授賞理由を添付します。
重力を含む素粒子の統一理論の構成を目指す超弦理論の主要な研究対象のひとつに「ホログラフィ原理」がある。量子重力理論の基本的自由度は、対象とする領域全体に広がっているのではなく、領域の境界面に局在しているというこの原理は、1997 年の J.Maldacena 氏による AdS/CFT対応の発見によって、超弦理論の中で理論的に実現していることが示された。
高柳氏が笠真生氏と 2006 年に発表した「エンタングルメント・エントロピーのホログラフィック公式」[1]は、AdS/CFT 対応の展開において最も画期的かつ重要な発見のひとつである。 エンタングルメント(量子もつれ)は、量子力学の基礎や量子情報理論、また最近は物性物理学でも重要な役割をしている概念であり、エンタングルメント・エントロピーはその大きさを測る指標である。高柳氏が笠氏と提案した公式は、ホログラフィ原理に基づいて、エンタングルメントを重力理論の幾何学的性質に結び付けるものであり、「笠-高柳公式」という名で知られている。この公式は、A.Lewkowycz 氏と J.Maldacena 氏によって理解が深められ、理論物理学における重要な公式として確立している。
高柳氏は、過去 10 年間にわたって、この笠-高柳公式を発展させ、ホログラフィ原理の仕組みの解明とその応用に主導的な貢献をしてきた。笠‐高柳公式に基づいて計算されたエントロピーが、劣強加法性と呼ばれる不等式を満たしていることを示した高柳氏と M.Headrick 氏の論文[2]は、この公式の正しさを示す重要な証拠を提供するとともに、重力理論における状態がエンタングルメントに関して特別な性質を持つことを明らかにする契機を作った。また、笠-高柳公式を時間に依存した状態に拡張した高柳氏と V.Hubeny 氏、M.Rangamani 氏の論文[3]も高く評価されている。
ホログラフィ原理に関する高柳氏の一連の研究は、量子重力理論や超弦理論の基礎となる重要な成果である。
参考文献:
[1] “Holographic derivation of entanglement entropy from AdS/CFT,” S. Ryu, T. Takayanagi, Phys.Rev.Lett. 96 (2006) 181602.
[2] “A holographic proof of the strong subadditivity of entanglement entropy,” M. Headrick, T. Takayanagi, Phys.Rev. D76 (2007) 106013.
[3] “A covariant holographic entanglement entropy proposal,” V. E. Hubeny, M. Rangamani, T. Takayanagi, JHEP 0707 (2007) 062.
by PlanckScale
| 2016-11-11 01:47