2017年 05月 24日
サイモンズ・シンポジウム 2017 |
先々週は、サイモンズ財団のシンポジウム「量子エンタングルメント」で講演をするために、ドイツに行っていました。
5年前に、私と、ハーバード大学のスビール・サチデブさんと、スタンフォード大学のシャミット・カチュルさんの3人で、サイモンズ財団に提案して実現しました。第1回は米領バージン諸島のセント・トーマス島で、第2回目はプエルトリコで開かれました。
今回は、趣向を変えて、ドイツのミュンヘンから車で1時間ほど南に向かったシュロス・エルマウで開かれました。2015年にG7サミットが開かれた場所で、オバマ米国大統領(当時)がドイツのメルケル首相と庭で語らっている写真が有名です(上の左)。せっかくの機会だったので同じベンチに座って写真を撮ってみました(上の右)。
このシンポジウムでは素粒子論と物性理論の接点を探ることを目的とします。2013年に第1回目を開催したときには、まだ主流の話題ではありませんでしたが、この4年の間に大きく進歩し、またシンポジウムの内容も変わってきました。
第1回のシンポジウムでは、ブラックホールの防火壁問題が話題になり、またホログラフィー原理の物性現象への応用もいくつか議論されました。第2回になると、量子エンタングルメントが中心的な話題になり、量子情報理論の専門家も何人も参加するようになりました。
第3回目の今回は、場の量子論の双対性の物性理論への応用が大きな話題になり、素粒子論と物性理論の研究者の間での交流が、いよいよ本格的になってきたことを感じました。
さて、Caltechのポストドクトラル・フェローのニン・バオさんと、昨年の秋から行ってきた研究が完成したので、論文を電子アーカイブに投稿しました。
⇒ "On Distinguishability of Black Hole Microstates"
昨年の6月に、京都大学の基礎物理学研究所で開催されていた「量子物質・時空・情報」と題した国際会議に参加したときに、京都から東京に移動する新幹線の中で、カリフォルニア大学サンタバーバラ校でポストドクトラル・フェローをしている宇賀神知紀さんから、ホレボ情報という概念を教えていただき、ホログラフィー原理への応用についても議論しました。
その後、東京工業大学の細谷暁夫さんから、ホレボの定理は、量子系から実験家が取り出せる知識の最大量をあたえるもので、量子情報科学の中の金字塔であるとご教示を受けて、これは真剣に考えてみないといけないと思いました。
ホレボの定理を応用できるように、量子重力の問題を設定するのにしばらく悩みました。バオさんと議論しているうちに、ブラックホールは微視的な量子状態の熱力学的な統計集団と考えられているので、ホレボ情報を使えば、どのような観測をすれば個々の量子状態が区別できるかの判定基準ができるのではないかと思いつき、研究の方向が定まりました。
簡潔にまとまった論文にできて嬉しいです。
by PlanckScale
| 2017-05-24 12:14