2017年 11月 05日
IPMU10周年、AdS/CFT20周年 |
この10年間の成果を振り返り、将来を展望するため、10月16-18日に設立10周年記念シンポジウムを開きました。
機構長の村山斉さんの講演の後、9年半前に開かれたIPMU創設記念シンポジウムにも来てくださったグロスさんやヤウさん、IPMUの主任研究員でもある昨年度ノーベル物理学賞受賞者の梶田さんをはじめとする著名研究者、IPMUでポストドクトラルフェローや大学院生として修業をし現在世界の主要研究所で活躍している方々、また現在IPMUで研究をしている教員の方々の講演がありました。
また、IPMUの拠点構想責任者で副機構長でもある鈴木洋一郎さん、IPMUの建物の計画に尽力された柳田勉さん、IPMUの初代事務長をされた中村健蔵さんによる、「IPMU創世記」の講演もありました。
私は組織委員長を仰せつかりました。IPMUの各分野を代表する委員の方々やIPMUのスタッフの努力で素晴らしいシンポジウムになりました。
シンポジウムの初日の深夜には、2つの中性子星が合体したときの重力波が、ガンマ線、可視光、赤外線などの電磁波と一緒に観測されたという大ニュースが発表されました。
中性子星は、太陽ほどの重さの星が山手線の内側に収まるほど押しつぶされているので、極端に密度が高くなっています。このような物質については、まだわかっていないことが多いのですが、今後、このような観測によって中性子星の性質が解明されていくことでしょう。
また、宇宙の歴史の中で、金やレアアースなどの重い元素が生成された仕組みの解明にもつながると期待されています。
IPMU10周年記念シンポジウムの講演のためにいらしていたロバート・クインビーさん(IPMUでポストドクトラルフェローをされて、現在はサンディエゴ州立大学のラグナ山天文台台長)が、ちょうど今回の中性子星合体の研究グループのメンバーだったので、急遽、この大発見に関する特別講演もしていただき、盛り上がりました。
10月のはじめには、重力波の初観測に対してノーベル物理学賞が授賞されるという発表があり、朝日新聞のWEBRONZAに寄稿していた予想が的中したこともあって、朝日新聞で、重力波に関する解説書を3冊推薦するようにとの依頼がありました。
中性子星合体の観測が発表されるというタイミングでもありましたので、その週末10月22日(日)の朝刊の読書欄1面の大型ブックガイド「ひもとく」で、キップ・ソーンさんの『ブラックホールと時空の歪み』(白揚社)、ジャンナ・レビンさんの『重力波は歌う』(ハヤカワ文庫)、川村静児さんの『重力波とは何か』(幻冬舎新書)をご紹介しました。
朝日新聞で担当してくださった記者の方からは、
「大好評でして、… 社内でも、「熱のこもった評だった」「どんな本かちょっと見たい」という社員が立ち寄っては、立ち読みしていったり。ネット書店でも品薄になったところがありまして、「ひもとく」欄が読まれた手応えを感じております。」
というご報告をいただきました。
朝日新聞のウェブサイトで読むこともできます。⇒ 重力波 宇宙の謎解明に新しい窓開く
超弦理論の重要な話題であるAdS/CFT対応は、20年前の1997年11月にファン・マルダセナさんが発表した論文に端を発します。そこで、プリンストン大学で、AdS/CFT対応20周年記念研究会が開かれました。
私は、10月31日の夜間飛行でプリンストンに行って、11月2日に講演をし、今年の5月にニン・バオさんと発表した論文について話をしました。
AdS/CFT対応20周年ということで、当時の研究の様子についても語りたいと思いました。
幸い、昨年アスペン物理学センターの所長になったときに、物理学センターの地下の倉庫に、設立以来半世紀以上の書類が保存されていることを見つけたので、1997年の夏のアスペンの記録を探しました。
1997年の夏には、アスペンで「超対称性と非摂動量子幾何」と題したワークショップが開かれ、マルダセナさんをはじめ、エドワード・ウィッテンさん、イゴール・クレバノフさんなど、AdS/CFT対応の発展に大きく貢献した研究者が数多く参加していました。
そこで、このワークショップの記録の入ったファイルキャビネットを開けてみると、参加者ひとり一人の「参加レポート」が見つかって、当時どのような議論が交わされていたかを再現することができました。私の手書きのレポートもありました。
また、資金援助を受けている米国科学財団への報告書には、マルダセナさんがどのような議論や研究をして、それがAdS/CFT対応の発見にどのようにつながったのかも書かれていました。
そこで、今回のAdS/CFT対応20周年記念研究会の講演の最初に、これらの記録を紹介したところ、「当時の研究の様子が生々しくよみがえってきた」、「アスペン物理学センターが果たした役割がよく分かった」、などと好評でした。
さて、『週刊ダイヤモンド』の連載「大人のための最先端理科」。11月11日号掲載の第29回記事では、10月16日に発表になったばかりの中性子星の合体からの重力波の観測について書きました。
編集部の付けてくださったタイトルは、「中性子星の合体による重力波初観測が大興奮を呼んだ理由」。
この『週刊ダイヤモンド』の記事は電子版でご覧いただくこともできます。
by PlanckScale
| 2017-11-05 00:11