2009年 01月 18日
結晶の融解 |
先週と今週は、プリンストン大学数学教室のアンドレ・オクンコフさんがウルフ記念レクチャーのためにCaltechに来ています。先週の講義は3次元結晶の融解模型の数学的解析でした。結晶融解の理論的研究は19世紀のギブスに始まります。私はこの分野については全くの素人ですが、最近になって超弦理論やブラックホールの量子力学の研究と、結晶の融解問題との意外な関係があきらかになりました。結晶の専門家には当たり前のことでしょうが、勉強して感心したことを書いてみます。結晶の表面には表面張力があるので、結晶はできるだけ表面積を小さくしようとします。もし表面張力が表面の向きによらない定数なら、体積を一定にしながら表面張力によるエネルギーを最小にする形が球面であることはよく知られています。しかし、結晶には格子の向きがあるので、表面張力は一般に方向よります。そこで、表面張力が表面の向きによっているときに、表面張力によるエネルギーを最小にする形は何かということが問題になります。この問題には次のような美しい答があります。
結晶の表面をグラフとして表わすために、結晶を机の上に置いて、机から表面までの高さを測ってみます。この「高さ関数」は机の上の関数です。結晶の表面の形はこの高さ関数で決まります。特に、表面の向きは、高さ関数の机に沿った微分で決まります。ですから、表面張力は高さ関数の微分の関数になります。問題は、結晶の体積を一定に保ったまま、表面張力によるエネルギーを最小にする高さ関数は何であるかということです。そして、その答は
「表面張力をルジャンドル変換したもの」
です。ルジャンドル変換をご存じなければ、何のことかわからないかもしれませんが、私は答の簡明な美しさに打たれました。この答の本質は、1901年のウルフの仕事に遡ります。(Georg Wulff; ウルフ記念レクチャーのThomas Wolffさんとは別人です。)
微視的な格子模型から出発して, 巨視的な結晶の表面張力を導出することは一般には容易ではありません。しかし、私が現在興味のある結晶模型については、結晶が有限の大きさの場合にはオランダのピエト・カステレインが1960年代に行列式を使って解いています。そして、この結晶を無限に大きくする極限を取ることで表面張力の厳密な形を求めたのが、ケニヨン、オクンコフ、シェフィールドです。この業績は、オクンコフさんの2006年度フィールズ賞の授賞理由の一部にもなっています。
by planckscale
| 2009-01-18 00:00









