2009年 02月 25日
へラーマンさんの不等式 |
私は2次元の共形場の理論を25年ぐらい研究していますが、まだまだ知らないことがたくさんあります。先週発表された、IPMUのシメオン・へラーマンさんの論文には驚かされました。
2次元の共形場の理論は、その高い対称性のために許されるエネルギーの値に強い制限がつきます。23年ほど前に、当時サンタバーバラにいたジョン・カーディさんは、共形場の理論のモジュラー不変性とヒルベルト空間の正定値性だけを使って、エネルギーが高くなる極限で状態数がどのように増えていくかを解明しました。このカーディ公式は、ブラックホールのエントロピーを超弦理論から導出し、べケンシュタインとホーキングが予想したブラックホールの熱力学の微視的理解を与える際にも重要な役割を果たしました。
へラーマンさんが発見した不等式は、カーディ公式とは逆に、エネルギーが低い状態についてのものです。真空は一番エネルギーの低い状態ですが、その次に低いエネルギーが何かというのは、面白い問題で、たとえば超弦理論のコンパクト化への制限やAdS/CFT対応の理解にも重要だと考えられています。へラーマンさんは、カーディさんと同様に、モジュラー不変性とヒルベルト空間の正定値性だけを使って、真空のエネルギーとその次に低いエネルギーとのギャップがある値よりも大きくなれないことを示しています。
私は、以前にバッファさんと書いた沼地予想を発展させ、特にフラックスによるコンパクト化にどのような制限があるのかを理解する目的で、この問題に以前から興味を持っていました。昨年の5月には超対称性を持つ共形場の理論について、低いエネルギーの値に条件をつける論文を書きました。モジュラー不変性は整数論と深いつながりがあるので、この論文は、整数論と物理学の境界領域の専門誌に出版されました。また、チューリッヒのスイス連邦工科大学のガバディエルさんは、これと別な仮定の下で、やはり低いエネルギーに条件をつける論文を書いています。ウィッテンさんも関連する論文を書いています。
これらの結果は、いずれも技術的な仮定をつけているので、共形場の理論についてどのくらい一般に成り立つことなのかはわかりませんでした。へラーマンさんは、これらの論文の仮定をはずして、モジュラー不変性とヒルベルト空間の内積の正定値性だけから、ほぼ同程度に強い条件を明解に導いています。物理的な問題から生まれた一般的で厳密な結果は、思いもかけない応用を持つことが多いので、このへラーマンさんの論文からも超弦理論の新しい展開が現れるかもしれません。
2次元の共形場の理論は、その高い対称性のために許されるエネルギーの値に強い制限がつきます。23年ほど前に、当時サンタバーバラにいたジョン・カーディさんは、共形場の理論のモジュラー不変性とヒルベルト空間の正定値性だけを使って、エネルギーが高くなる極限で状態数がどのように増えていくかを解明しました。このカーディ公式は、ブラックホールのエントロピーを超弦理論から導出し、べケンシュタインとホーキングが予想したブラックホールの熱力学の微視的理解を与える際にも重要な役割を果たしました。
へラーマンさんが発見した不等式は、カーディ公式とは逆に、エネルギーが低い状態についてのものです。真空は一番エネルギーの低い状態ですが、その次に低いエネルギーが何かというのは、面白い問題で、たとえば超弦理論のコンパクト化への制限やAdS/CFT対応の理解にも重要だと考えられています。へラーマンさんは、カーディさんと同様に、モジュラー不変性とヒルベルト空間の正定値性だけを使って、真空のエネルギーとその次に低いエネルギーとのギャップがある値よりも大きくなれないことを示しています。
私は、以前にバッファさんと書いた沼地予想を発展させ、特にフラックスによるコンパクト化にどのような制限があるのかを理解する目的で、この問題に以前から興味を持っていました。昨年の5月には超対称性を持つ共形場の理論について、低いエネルギーの値に条件をつける論文を書きました。モジュラー不変性は整数論と深いつながりがあるので、この論文は、整数論と物理学の境界領域の専門誌に出版されました。また、チューリッヒのスイス連邦工科大学のガバディエルさんは、これと別な仮定の下で、やはり低いエネルギーに条件をつける論文を書いています。ウィッテンさんも関連する論文を書いています。
これらの結果は、いずれも技術的な仮定をつけているので、共形場の理論についてどのくらい一般に成り立つことなのかはわかりませんでした。へラーマンさんは、これらの論文の仮定をはずして、モジュラー不変性とヒルベルト空間の内積の正定値性だけから、ほぼ同程度に強い条件を明解に導いています。物理的な問題から生まれた一般的で厳密な結果は、思いもかけない応用を持つことが多いので、このへラーマンさんの論文からも超弦理論の新しい展開が現れるかもしれません。
by planckscale
| 2009-02-25 13:35