2009年 07月 17日
ユニタリー性 |

先月出版された『この定理が美しい』で、「くりこみ可能性の判定条件」について解説しました。この解説記事について、ユニタリー性について触れるべきであったとのご指摘を受けました。場の量子論でユニタリー性というときには、物理的状態のヒルベルト空間が正定値であること、つまり物理的状態の確率が正の値を持つことを意味します。ユニタリー性を持たない模型では、負の確率を持つ状態が現れ、量子力学のコペンハーゲン解釈が成り立たなくなるので、ユニタリー性は大切な性質です。
この解説記事は、数学専攻の大学生レベルの読者を想定して書きました。そこで、物理学の知識がなくても読めるように、ユニタリー性を満たしているスカラー場の理論についてくりこみ可能性を定義し、この場合に限って「くりこみ可能性の判定条件」を数学の定理として解説しました。このように制限した形で定式化した定理は、それ自身では正しいものだと思います。
一方、一般の場の量子論では、ユニタリー性を要請しないと、くりこみ可能性の条件がゆるくなります。紫外発散を、負の確率を持つ粒子の効果で相殺することとができるからです。ご指摘のように、この点について注意をしておいたほうがよかったかもしれません。
ところで、今回の解説記事では経路積分を使いましたが、物理学の学生向けに場の量子論の講義をするときには、私は正準量子化からはじめます。経路積分は計算には便利ですが、無限次元の積分を操作するので、気をつけないと怪我をします。困ったときには、正準量子化に戻って考えると安全です。たとえば、量子異常項(アノマリー)を議論するときに大切な経路積分の測度の選び方は、正準量子化をつかうとはっきりします。
相対論的不変性も重要ですね。ペトロ・ホジャバさんは、最近、4+1次元の非可換ゲージ理論でも、相対論的不変性を要請しなければ、くりこみ可能で漸近的自由性を持つものがあると主張しています。(私は証明をチェックしていませんが。) ⇒ http://arxiv.org/
ご指摘をありがとうございました。
by planckscale
| 2009-07-17 12:11