2009年 11月 20日
篤志家の支える科学 |

今回のシンポジウムは、KISS(Keck Institute for Space Studies)の主催でした。KISSは、ケック財団からCaltechへの24億円の寄付によって設立され、8年の間毎年3億円を使って宇宙科学探査の技術開発を行っています。ケック財団は、ハワイのマウナケアで、Caltechとカリフォルニア大学機構が共同運用しているケック天文台にも、多額の寄付をしてくださっています。
Caltechの科学研究の多くは、このような篤志家の寄付でなりたっています。私の関係する理論物理学でも、フェアチャイルド財団などからいただいたおよそ20億円の基金を運用して、15名ほどのポストドクトラル・フェローを雇用しています。昨年の株価下落によって基金が目減りしてしまいましたが、卒業生のディビット・リーさんやムーア財団が増資に協力してくださいました。また、今年からサイモンズ財団が数学と理論物理学のポストドクトラル・フェローシップをはじめられ、Caltechでも2名の新しいサイモンズ・フェローを雇用できるようになりました。
米国でも国からの科学研究資金はそのときの政府の政策に左右されますが、篤志家の寄付がショックを和らげる働きをしています。2001年の9月11日に米国で同時多発テロが起きて景気が冷え切ったときには、インテルの元会長だったゴードン・ムーアさんが、「このようなときにこそ見本を見せなければいけない」と、Caltechに600億円の寄付をしてくださいました。ムーアさんは、30メートル天体望遠鏡計画にも、これと別に200億円の寄付をしてくださっています。
これはCaltechの話ですが、ハーバード大学、イェール大学、プリンストン大学のようなアイビー・リーグの大学、MITやスタンフォード大学のような名門校にも同等かそれ以上の寄付があるはずです。
米国でこのように篤志家の層が厚いのは、アングロサクソンの伝統と税制上の優遇措置のおかげです。このために国の科学政策が急に変わっても、基礎研究の継続性が保たれるようになっています。このような篤志家の層の薄い日本では、国の科学政策は特に慎重に行う必要があると思います。ショック・アブソーバーがない社会で、科学政策を急激に変えると、基礎科学の底が抜けるかもしれません。
というわけで、文部科学省の意見募集に応えましょう。あなたの意見が、日本の基礎科学を救うことになるかもしれません。 ⇒ http://www.mext.go.jp


by planckscale
| 2009-11-20 13:38