2009年 11月 21日
外国人研究者とエントロピー |

スザンナ・レファートさん(上の写真で前列左から3人目)はドイツのミュンヘン大学で博士号を取った後、理論物理学では世界の中心地のひとつであるアムステルダム大学でポストドクトラル・フェローとして活躍をしていました。しかしIPMUでの新しい研究の可能性に引かれて、アムステルダム大学の任期半ばで昨年IPMUに移籍しました。素粒子の究極の統一理論の候補である超弦理論の最先端の研究者です。この1年の間に3本の論文を発表し、5月には私と一緒にIPMUで国際会議を組織しました。こちらに、レファートさんが自分の研究を一般向けに3分間で説明するビデオがあります。⇒ 「はてな宇宙」
レファートさんはIPMUに着任してから、自分の研究や日本での生活についてのブログを書いています。ブログを読むと、日本での生活を冒険として楽しんでいる様子がよく分かります。しかし昨日のブログ・エントリーは暗転して、行政刷新会議の事業仕分け作業でIPMUを含む世界トップレベル研究拠点(WPI)プログラムが予算削減の対象となっていることを述べ、世界中の研究者にSOSを発信しています。
このように海外から招聘した気鋭の研究者に対し、「屋根に上げて梯子を外す」ような仕打ちが行われようとしています。基礎研究のみならず、日本の国際的信用に関わることです。すでに日本の科学予算削減の可能性は、英国ネイチャー誌や米国サイエンス誌に大きく取り上げられています。幸い、文部科学省は行政刷新会議のやりかたについて広く国民の意見を求めています。ぜひ皆さんの生の声を文部科学省のトップへ届けていただきたいと思います。メールアドレスはnak-got_at_mext.go.jpです。正しいあて先に届くため、メールの件名は、『No.14「競争的資金(外国人研究者招へい)」WPI』としてください。
さて話題は変わって、今日の超弦理論セミナーはスタンフォード大学からカリフォルニア大学のサンタバーバラ校に移籍したシャミット・カチュルさんでした。AdS/CFT対応によると、電荷を持つブラックホールの中の量子重力理論は、共形場の量子論で化学ポテンシャルをオンにしたものと等価になるとされています。最近では、これを使って物性物理学の強結合電子系の模型を作り、高温超伝導の謎を解こうとする試みもなされています。しかし、このようなブラックホールは絶対温度ゼロ度でも膨大なエントロピーを持つのが普通なので、物性模型の基底状態とは考えにくいという問題があります。実際に、このようなブラックホールは不安定になる場合もあり、私が先々週に京都大学の中村真さんとCaltechの学生のチャンスン・パークさんと一緒に発表した論文もこのような不安定モードに関するものです。このような場合には、ブラックホールは基底状態ではなく、それに変わる何か別な解があるはずです。
カチュルさんたちは、ディラトンとよばれるスカラー場のある場合に、熱力学エントロピーがゼロになる解を作って見せました。今週論文が発表されたばかりだったので、よいタイミングでした。カチュルさんたちの解では、事象の地平線の近くの時空間が、リフシッツ対称性と呼ばれるある種の不変性を持っています。しばらく前に、IPMUの高柳匡さんたちがリフシッツ対称性を持った解は超弦理論からは作りにくいという論文を書いていたので、セミナーの後で職員会館に昼食に行ったときにその話題でひとしきり議論になりました。
行政刷新会議の事業仕分け騒動のために書き忘れていましたが、水曜日のセミナーはプリンストンの高等研究所のブライアン・ウェヒトさんで、シチリア型ゲージ理論についての話でした。ウェヒトさんは今年度末に高等研究所の契約が切れるので、この2週間ほどはカリフォルニアの各大学をセミナー行脚していらっしゃいます。
by planckscale
| 2009-11-21 14:39









