2009年 11月 22日
リーマン予想と天文学 |
リーマン予想についてのNHK特別番組の拡大版(50分⇒90分)が、BSチャンネルで放送されたそうです。今日は、ある方のご好意でこの拡大版を見ることができました。テレビ番組の著作権のことが気になったので、放送コンテンツ適正流通推進連絡会のウェブサイトを参照したところ、著作権の制限規定の中に、「自分の所属する閉鎖的なグループ内」で「使用することを目的とする場合には、著作物を複製(コピー)することができる」とありました。これに当てはまると理解して、心安らかに拝見しました。
エピソードが増えているだけでなく、全体の話のつながりがよく分かるようになっていました。たとえば、50分版ではリーマンのゼータ函数のゼロ点の分布とランダム行列の固有値の分布の関係の話から、非可換微分幾何に移るところが唐突な印象でしたが、拡大版では量子ビリヤードの話をはさんで、このあたりの事情がたっぷり語られていました。また、ドン・ザギエさんが素数定理についてのガウスの貢献を解説したり、ピーター・サルナクさんが物理学との関係の重要性を語るなど、当代一流の整数論研究者が要所で登場するしっかりとした構成でした。
すばらしい番組でした。見せてくださった方、ありがとうございました。
ガウスが N までの素数がおおよそ N/log(N) であることを発見するくだりで、少年ガウスが素数階段からひも付きレンガを落として階段の高さを測るのもうまい演出です。
それで思い出しましたが、素数の表を持っているとRSA公開鍵暗号が解けるような印象を与えるのは正確ではないと思いました。インターネットの認証サービスをしているVeriSignが大きな素数を金庫に保管しているのは、暗号を作るのに必要だからでしょうが、暗号を解くには素数の表を持っているだけでは十分ではありません。
N という数の素因数分解をする一番簡単なアルゴリズムは、2 から N の平方根までのすべての整数で割ってみることですが、この方法では N のけた数に関して指数関数的に計算時間がかかるので、RSA暗号に使われるような大きな N を素因数分解するのは、現在の計算機では時間がかかりすぎます。ガウスが見つけたように、N までには N/log(N) だけの素数があるので、N の最小の素因数の候補は N の平方根を log(N)/2 で割った程度あることになります。log(N)/2 で割ったぐらいではたいした効率化にはならないので、素数の表をもっているだけでは、素因数分解の計算時間はそれほど短くならないと思います。
もちろん、VeriSignが使っている素数が限られているのなら(そうなのかどうか知りません)、その表を盗み出せばよいわけですが…。
番組では、米国の国家安全保障局がリーマン予想の証明を知っていて隠しているのではないかというジョークを紹介していましたが、それに類する話は他の分野で実際にありました。
1980年代の後半にフランスの天文学者は、地上の望遠鏡から星を観測するときに大気の揺らぎが画像をゆがめるのを修正する、補償光学の方法を発表しました。しかしその10年ほど前に、米国国防省の諮問機関であるジェイソンの科学者がすでに同じ技術を開発していたのです。1970年代に国防省はソビエト連邦のスパイ衛星を精密に観察する方法を必要としていました。相談を受けたジェイソンの科学者は、大気圏の上空にナトリウムの層があることに着目し、そこにレーザー光をあてて人工的な星を作ることを思いつきました。この人工的な星の光の揺らぎを観測すれば、これを使ってスパイ衛星の画像を修正できるというわけです。フランスの天文学者が10年後に発表したのも同じような考え方でした。このアイデアが公になってしまったので、国防省はそれまでに開発していた技術を発表しました。今では補償光学の技術は、日本のすばる天文台やCaltechなどが運営しているケック天文台にも応用されています。右の写真は、ケック天文台からレーザー光が打ち出されているところです。
リーマン予想については知りませんが、国家安全保障局は数学や数理科学の様々な研究に資金提供をしています。たとえば、この記事へのコメントにお応えして書いた、ラングランズのプログラムとゲージ場の量子論の関係についても、研究費が支給され研究会も開かれています。日本でこんなことをしていると、行政刷新会議の事業仕分けの俎上にあげられそうですね。
エピソードが増えているだけでなく、全体の話のつながりがよく分かるようになっていました。たとえば、50分版ではリーマンのゼータ函数のゼロ点の分布とランダム行列の固有値の分布の関係の話から、非可換微分幾何に移るところが唐突な印象でしたが、拡大版では量子ビリヤードの話をはさんで、このあたりの事情がたっぷり語られていました。また、ドン・ザギエさんが素数定理についてのガウスの貢献を解説したり、ピーター・サルナクさんが物理学との関係の重要性を語るなど、当代一流の整数論研究者が要所で登場するしっかりとした構成でした。
すばらしい番組でした。見せてくださった方、ありがとうございました。
ガウスが N までの素数がおおよそ N/log(N) であることを発見するくだりで、少年ガウスが素数階段からひも付きレンガを落として階段の高さを測るのもうまい演出です。それで思い出しましたが、素数の表を持っているとRSA公開鍵暗号が解けるような印象を与えるのは正確ではないと思いました。インターネットの認証サービスをしているVeriSignが大きな素数を金庫に保管しているのは、暗号を作るのに必要だからでしょうが、暗号を解くには素数の表を持っているだけでは十分ではありません。
N という数の素因数分解をする一番簡単なアルゴリズムは、2 から N の平方根までのすべての整数で割ってみることですが、この方法では N のけた数に関して指数関数的に計算時間がかかるので、RSA暗号に使われるような大きな N を素因数分解するのは、現在の計算機では時間がかかりすぎます。ガウスが見つけたように、N までには N/log(N) だけの素数があるので、N の最小の素因数の候補は N の平方根を log(N)/2 で割った程度あることになります。log(N)/2 で割ったぐらいではたいした効率化にはならないので、素数の表をもっているだけでは、素因数分解の計算時間はそれほど短くならないと思います。
もちろん、VeriSignが使っている素数が限られているのなら(そうなのかどうか知りません)、その表を盗み出せばよいわけですが…。
番組では、米国の国家安全保障局がリーマン予想の証明を知っていて隠しているのではないかというジョークを紹介していましたが、それに類する話は他の分野で実際にありました。1980年代の後半にフランスの天文学者は、地上の望遠鏡から星を観測するときに大気の揺らぎが画像をゆがめるのを修正する、補償光学の方法を発表しました。しかしその10年ほど前に、米国国防省の諮問機関であるジェイソンの科学者がすでに同じ技術を開発していたのです。1970年代に国防省はソビエト連邦のスパイ衛星を精密に観察する方法を必要としていました。相談を受けたジェイソンの科学者は、大気圏の上空にナトリウムの層があることに着目し、そこにレーザー光をあてて人工的な星を作ることを思いつきました。この人工的な星の光の揺らぎを観測すれば、これを使ってスパイ衛星の画像を修正できるというわけです。フランスの天文学者が10年後に発表したのも同じような考え方でした。このアイデアが公になってしまったので、国防省はそれまでに開発していた技術を発表しました。今では補償光学の技術は、日本のすばる天文台やCaltechなどが運営しているケック天文台にも応用されています。右の写真は、ケック天文台からレーザー光が打ち出されているところです。
リーマン予想については知りませんが、国家安全保障局は数学や数理科学の様々な研究に資金提供をしています。たとえば、この記事へのコメントにお応えして書いた、ラングランズのプログラムとゲージ場の量子論の関係についても、研究費が支給され研究会も開かれています。日本でこんなことをしていると、行政刷新会議の事業仕分けの俎上にあげられそうですね。
by planckscale
| 2009-11-22 15:40









