2010年 08月 16日
ワード・高橋恒等式 |

フリードマンさんらのグループは、超対称性やE(7,7)対称性、そして粒子の入れ替えの対称性を課すと、7ループまで発散を起す項を書くことはできないことを示しました。4ループはおろか7ループまでは、実際に計算してみるまでもなく有限性が明らかだということで、紫外発散が非自明に相殺しているかを検証するためには少なくとも7ループまで行かないといけないそうです。
ストーニー・ブルックに行く前の週に、ミュンヘンの夏の学校で講義をしたときに、フリードマンさんの共同研究者のマイケル・キールマイヤーさんが出席していらっしゃいました。キールマイヤーさんは南ドイツのババリア地方のご出身で、帰省がてら夏の学校にいらしたようです。昼食をとりながらN=8超重力理論の摂動計算の現状についてお聞きしたところ、7ループでは発散する可能性のある項が無限個ありそうなので、7ループで有限になっていることを確かめるためには、無限個の散乱振幅を計算しないといけないのではないかとのことでした。4ループ程度の計算でN=8超重力の整合性について語るのは、時期尚早のようです。
ところで、フリードマンさんが講演の途中でなんども「ワード恒等式」とおっしゃるので、つい手を挙げて、「対称性から導かれる量子振幅の恒等式はワード・高橋恒等式と呼んではどうでしょうか。」と言ってしまいました。
ジョン・ワードさんは、量子電磁力学(QED)において、電子の波動関数のくりこみ定数と光子と電子の間の結合を表す頂点関数のくりこみ定数の間に関係があることを示し、くりこみの方法を整理しました。高橋康さんはこの関係式を対称性から導出し、一般に対称性があると量子振幅の間に関係がつくことを示しました。これは、古典力学におけるネーターの定理の場の量子版と呼べます。高橋康さんはこの業績に対し素粒子メダルを受賞されています。
QEDのくりこみ定数の間の関係は「ワード恒等式」、対称性から導かれる量子振幅の間の関係式は「ワード・高橋恒等式」と呼ぶのが正しいと思います。


by planckscale
| 2010-08-16 10:39