2010年 11月 16日
場の量子論の勉強、その2 |
昨日に続いて、場の量子論の勉強を振り返ってみます。「おせっかい」さんのご指摘を受けたので、著者名はアルファベットで書くことにします。
Bjorken-DrellやItzykson-Zuberを読んで、場の量子論のくりこみの方法のあらましを理解したので、次にゲージ理論の量子化の勉強を始めました。原論文を読むと勉強になるというアドバイスがありましたので、ちょうどそのころ日本物理学会から発行された新編物理学選集70の 「ゲージ場の理論」 (吉川圭二、細谷暁夫編集)に収められているいくつかの論文を読みました。
特に強い印象を受けたのは、束縛ハミルトニアン系の場合に、正準形式から説き起こして経路積分の公式を与えたFaddeevの1970年の論文です。これから、ゲージ場の量子化に必要なFaddeev-Popovの行列式が導かれます。Faddeev-Popovの行列式については、経路積分からの導出を与えた1967年の論文が有名で、教科書の説明もこれに基づくものが多いのですが、私はFaddeevの1970年の論文の導出のほうが好みです。
このようにゲージ場の理論の大まかな形式を理解しましたが、実際に摂動計算ができるようになるのにはさらに勉強が必要でした。新編物理学選集70には、ノーベル物理学賞の対象ともなった't HooftやVeltmanの論文も載っていましたが、これだけでは理解できなくて困りました。そこで読んだのが、Physics Reports誌に掲載されたAberとLeeのレビュー論文 "Gauge Theories" でした。教科書で見かける経路積分の導出は、このレビュー論文に準拠しているものが多いように思います。
その次に、1975年にフランスのLes Houchesで開かれた夏の学校の講義録 "Methods in Field Theory" を読みました。ゲージ理論が素粒子論の主流となったのは1973年の漸近的自由性の発見以降なので、これが流行の最先端であった1975年の講義録はどれも力がこもったもので、私が学生のころには素粒子論の必読書でした。特に、Leeのゲージ理論についての講義録は何度も読みました。
Benjamin Leeはシカゴ市郊外にあるフェルミ国立加速器研究所の理論部長をなさっていましたが、1977年の夏に車でアスペンに行く途中に事故でお亡くなりになりました。アスペン物理学センターの中庭に、墓碑が置かれています。
大学院の1年生の時には、九後汰一郎さんによるゲージ場の量子論の講義があり、九後‐小嶋形式を本人から学ぶことが出来ました。最近は、九後さん自身の教科書 「ゲージ場の量子論 I、II」 (培風館、新物理学シリーズ)で勉強することもできます。
また、福来正孝さんの講義もあり、こちらではゲージ理論の計算をみっちり教えていただきました。ゲージ結合定数のベータ関数の1ループぐらいの計算は、だれでもしておかないといけないと言われて、3日間ぐらい集中して計算をしたことを憶えています。これをしておいたのは、よかったと思います。現在、場の量子論を勉強されている方も、免許皆伝のために一度は計算されてみてはいかがでしょうか。
書店でFaddeevとSlavnovの "Gauge Fields. Introduction to Quantum Theory" を見つけて読んだのもこのころです。この本は1991年に第2版がでていますね。
長くなってきたので、今回はここまでにします。続きは、また後日に。
Bjorken-DrellやItzykson-Zuberを読んで、場の量子論のくりこみの方法のあらましを理解したので、次にゲージ理論の量子化の勉強を始めました。原論文を読むと勉強になるというアドバイスがありましたので、ちょうどそのころ日本物理学会から発行された新編物理学選集70の 「ゲージ場の理論」 (吉川圭二、細谷暁夫編集)に収められているいくつかの論文を読みました。
特に強い印象を受けたのは、束縛ハミルトニアン系の場合に、正準形式から説き起こして経路積分の公式を与えたFaddeevの1970年の論文です。これから、ゲージ場の量子化に必要なFaddeev-Popovの行列式が導かれます。Faddeev-Popovの行列式については、経路積分からの導出を与えた1967年の論文が有名で、教科書の説明もこれに基づくものが多いのですが、私はFaddeevの1970年の論文の導出のほうが好みです。
このようにゲージ場の理論の大まかな形式を理解しましたが、実際に摂動計算ができるようになるのにはさらに勉強が必要でした。新編物理学選集70には、ノーベル物理学賞の対象ともなった't HooftやVeltmanの論文も載っていましたが、これだけでは理解できなくて困りました。そこで読んだのが、Physics Reports誌に掲載されたAberとLeeのレビュー論文 "Gauge Theories" でした。教科書で見かける経路積分の導出は、このレビュー論文に準拠しているものが多いように思います。
その次に、1975年にフランスのLes Houchesで開かれた夏の学校の講義録 "Methods in Field Theory" を読みました。ゲージ理論が素粒子論の主流となったのは1973年の漸近的自由性の発見以降なので、これが流行の最先端であった1975年の講義録はどれも力がこもったもので、私が学生のころには素粒子論の必読書でした。特に、Leeのゲージ理論についての講義録は何度も読みました。
Benjamin Leeはシカゴ市郊外にあるフェルミ国立加速器研究所の理論部長をなさっていましたが、1977年の夏に車でアスペンに行く途中に事故でお亡くなりになりました。アスペン物理学センターの中庭に、墓碑が置かれています。
大学院の1年生の時には、九後汰一郎さんによるゲージ場の量子論の講義があり、九後‐小嶋形式を本人から学ぶことが出来ました。最近は、九後さん自身の教科書 「ゲージ場の量子論 I、II」 (培風館、新物理学シリーズ)で勉強することもできます。
また、福来正孝さんの講義もあり、こちらではゲージ理論の計算をみっちり教えていただきました。ゲージ結合定数のベータ関数の1ループぐらいの計算は、だれでもしておかないといけないと言われて、3日間ぐらい集中して計算をしたことを憶えています。これをしておいたのは、よかったと思います。現在、場の量子論を勉強されている方も、免許皆伝のために一度は計算されてみてはいかがでしょうか。
書店でFaddeevとSlavnovの "Gauge Fields. Introduction to Quantum Theory" を見つけて読んだのもこのころです。この本は1991年に第2版がでていますね。
長くなってきたので、今回はここまでにします。続きは、また後日に。
by planckscale
| 2010-11-16 13:49