2012年 01月 24日
下條信輔さんとの対談 |
先週金曜日の夜行便でCaltechに戻ったところ、青土社の雑誌『現代思想』の2012年1月号が届いていました。『現代思想』というと、私が大学生のころにはいわゆるニュー・アカデミズムの舞台となっていましたが、最近は1年に1回ほど、科学関係の特集をされるようで、今回は「ニュートリノ/相対論:観測がひらく新世界」と題した特集でした。
Caltechの生物学の教授、下條信輔さんと私との対談が掲載されています。
昨年の10月後半に『現代思想』の「ニュートリノ」の特集への原稿を依頼されましたが、ちょうど岩波の『科学』に解説記事を書いたばかりだったので、ご辞退しました。しかし、対談ではということになって、それならとお引き受けしました。
下條信輔さんには、Caltechの数少ない日本人教授ということもあり、懇意にさせていただいています。9月に超光速ニュートリノの発表があったときに、メールで質問をいただいていたので、対談相手として思いつきました。
前半は、『科学』に書いた解説記事を膨らませたような内容になっていますが、後半になると「時間と因果律」、「エントロピーと時間の矢」、「素粒子論と心理学における現象論」、「自然界の階層構造」、「ランドスケープとマルチバース」など、ニュートリノをネタに、好きなことを語り合うというかたちになりました。下條さんがうまくリードしてくださったので、楽しい対談になりました。
対談はカリフォルニアで行ったので、私が録音したものをMP3にして、ドロップボックスで送りました。東京の編集者はスカイプで参加しました。
対談に添えられた写真は、私の子供が撮りました。ちゃんと掲載されたので、見せたところ、「私のクレジットがないじゃない」と怒られてしまいました。
この特集には、もう二つ対談が掲載されています。
一つは、「超光速ニュートリノ」を発表したOPERA実験グループの小松雅宏さんと哲学者の戸田山和久さん。実験グループの内部の事情まで踏み込んだお話で、興味深く拝見しました。
もう一つは、超新星爆発の理論やインフレーション理論で有名な佐藤勝彦さんと科学コミュニケーションを専門にされる横山広美さん。超新星1987Aからカミオカンデにニュートリノが届いたときの裏話がスリリングです。その当時は、私も東京大学理学部の助手をしていて、小柴さんの退官講演もお聞きしたのですが、ちょうどその日に、神岡からデータを入れたテープが届いていたのですね。
量子情報理論の小澤正直さんと科学哲学の北島雄一郎さんの論考も掲載されています。今月のはじめに、量子力学の「小澤の不等式」がウィーン工科大学の実験グループによって検証されたことが話題になったこともあり、よいタイミングの記事でした。
量子力学の授業では、粒子の位置の分散をΔX、運動量の分散をΔPとすると、どのような波動関数についても、これがh/4π(h はプランク定数)より大きいことを教えます。
ΔX ΔP > h/4π
これは、量子力学の基本原理から導くことのできる「定理」ですが、これと測定についての「ハイゼンベルクの不確定性原理」との関係には、微妙なところがあります。
この不等式において、 ΔX、ΔPは、位置や運動量の測定の不確定性を表すものと教えてしまいがちです。しかし、測定の不確定性だとすると、この不等式が必ずしも成り立たないことは、以前から知られていました。
CaltechがMITと共同で行っている重力波検出実験では、観測精度を上げる方法を探るうちに、不確定関係による「量子限界」が問題になりました。30年ほど前に「ハイゼンベルクの不確定性原理」に従わない測定法があることが指摘されたのです。そこで、どんな測定にも当てはまる関係式を見つけることが課題となり、これを解決したのが「小澤の不等式」でした。
このほか、科学ライターの竹内薫さん、量子重力から最近は量子情報理論を研究されている細谷暁夫さんの記事も掲載されています。
ツィッターなどでは、『現代思想』がこのような特集をすることへの批判もお聞きしましたが、私は、充実した内容の特集だったと思います。
Caltechの生物学の教授、下條信輔さんと私との対談が掲載されています。
昨年の10月後半に『現代思想』の「ニュートリノ」の特集への原稿を依頼されましたが、ちょうど岩波の『科学』に解説記事を書いたばかりだったので、ご辞退しました。しかし、対談ではということになって、それならとお引き受けしました。
下條信輔さんには、Caltechの数少ない日本人教授ということもあり、懇意にさせていただいています。9月に超光速ニュートリノの発表があったときに、メールで質問をいただいていたので、対談相手として思いつきました。
前半は、『科学』に書いた解説記事を膨らませたような内容になっていますが、後半になると「時間と因果律」、「エントロピーと時間の矢」、「素粒子論と心理学における現象論」、「自然界の階層構造」、「ランドスケープとマルチバース」など、ニュートリノをネタに、好きなことを語り合うというかたちになりました。下條さんがうまくリードしてくださったので、楽しい対談になりました。
対談はカリフォルニアで行ったので、私が録音したものをMP3にして、ドロップボックスで送りました。東京の編集者はスカイプで参加しました。
対談に添えられた写真は、私の子供が撮りました。ちゃんと掲載されたので、見せたところ、「私のクレジットがないじゃない」と怒られてしまいました。
この特集には、もう二つ対談が掲載されています。
一つは、「超光速ニュートリノ」を発表したOPERA実験グループの小松雅宏さんと哲学者の戸田山和久さん。実験グループの内部の事情まで踏み込んだお話で、興味深く拝見しました。
もう一つは、超新星爆発の理論やインフレーション理論で有名な佐藤勝彦さんと科学コミュニケーションを専門にされる横山広美さん。超新星1987Aからカミオカンデにニュートリノが届いたときの裏話がスリリングです。その当時は、私も東京大学理学部の助手をしていて、小柴さんの退官講演もお聞きしたのですが、ちょうどその日に、神岡からデータを入れたテープが届いていたのですね。
量子情報理論の小澤正直さんと科学哲学の北島雄一郎さんの論考も掲載されています。今月のはじめに、量子力学の「小澤の不等式」がウィーン工科大学の実験グループによって検証されたことが話題になったこともあり、よいタイミングの記事でした。
量子力学の授業では、粒子の位置の分散をΔX、運動量の分散をΔPとすると、どのような波動関数についても、これがh/4π(h はプランク定数)より大きいことを教えます。
ΔX ΔP > h/4π
これは、量子力学の基本原理から導くことのできる「定理」ですが、これと測定についての「ハイゼンベルクの不確定性原理」との関係には、微妙なところがあります。
この不等式において、 ΔX、ΔPは、位置や運動量の測定の不確定性を表すものと教えてしまいがちです。しかし、測定の不確定性だとすると、この不等式が必ずしも成り立たないことは、以前から知られていました。
CaltechがMITと共同で行っている重力波検出実験では、観測精度を上げる方法を探るうちに、不確定関係による「量子限界」が問題になりました。30年ほど前に「ハイゼンベルクの不確定性原理」に従わない測定法があることが指摘されたのです。そこで、どんな測定にも当てはまる関係式を見つけることが課題となり、これを解決したのが「小澤の不等式」でした。
このほか、科学ライターの竹内薫さん、量子重力から最近は量子情報理論を研究されている細谷暁夫さんの記事も掲載されています。
ツィッターなどでは、『現代思想』がこのような特集をすることへの批判もお聞きしましたが、私は、充実した内容の特集だったと思います。
by planckscale
| 2012-01-24 15:03