2012年 04月 04日
プレスリリース |
⇒ カブリIPMUからのプレスリリース:「アクシオン場を持つ磁性体における新現象の予言〜素粒子アクシオン検出手法の研究が物性分野の研究に貢献〜」
素粒子のアクシオン模型は、強い相互作用によってCPの破れが起き過ぎないようにするために考え出されました。アクシオン粒子は宇宙の暗黒物質の候補でもあり、その検出には様々な方法が試みられてきました。
私は、AdS/CFT対応の研究から、強電場をかけたときにアクシオン場が真空の相転移を起こすことに気がつき、これを使った新しい検出方法があるのではないかと考えて見ました。しかし、これまでの実験や観測から知られているアクシオンの質量や電磁場との相互作用についての制限を使って見積もると、必要とされる電場が大きすぎて、この方法でアクシオンを検出するのは難しいという結論になりました。
ところが、物性研の押川さんとの議論の中で、転機が生まれました。
最近物性の分野で注目されているトポロジカルな絶縁体では、磁気秩序の振動から素粒子のアクシオン場と似た振る舞いをする自由度が現れます。さらによいことには、自然によってパラメータが決定されているはずの素粒子のアクシオンと異なり、物性の系では 不純物のドーピングを調節するなどの方法でパラメータを調整することができるのです。
そこで、二人で詳しく調べて見ると、トポロジカルな絶縁体や通常の絶縁体でも、ドーピングの仕方を調節して臨界点に近づけてやれば、アクシオン場の有効質量が小さくなって、電場による相転移現象が現在の物性実験の現在技術で観測できそうだということがわかりました。また、この研究の過程で、アクシオン場の引き起こす不安定性についての理論的理解も深まりました。
それをまとめたのがこの論文で、Physical Review Lettersに投稿したところ、素直にアクセプトされました。
押川さんとは以前から面識はありましたが、学問的な交流が始まったのは2009年にIPMUと物性研とで共同の国際会議を開催してからです。その後、私はIPMUにいくたびにしばしば物性研究所を訪問して、押川さんと議論を重ねてきました。そのように交流を続けてきたことが、今回の論文につながりました。
素粒子論と物性理論は、場の量子論という共通の言語を使うので、一方の分野で開発された方法が、もう一方でも使えるということがありますが、今回の研究もその例だと言えます。
プレスリリースでは、カブリIPMUの村山斉機構長と物性研究所の家泰弘所長がコメントをして下さいました。
カブリIPMU 村山斉機構長のコメント:
「アクシオンは素粒子物理学で長年あるに違いないと言われながら、未だ見つかっていない素粒子の代表格です。今後も実験的な探索には時間がかかりそうです。一方、今回の論文ではこのアクシオンと同じ様な素励起 が、トポロジカル絶縁体に顕われ、その相互作用を調べることができるかもしれない、ということで、今後のアクシオン研究に弾みがつく結果です。非常に面白い結果だと思います。そしてまた、素粒子物理学と物性物理学が『量子場の理論』という共通の数学的な言語を持つことで、互いに触発・連携できることを示した、大変素晴らしい例になっています。」
物性研究所 家泰弘所長のコメント:
「素粒子物理学と物性物理学では、その対象とする世界が、長さのスケールやエネルギースケールで大きく異なっていますが、数学的定式化や理論的概念における接点も少なくありません。本論文の内容は、素粒子物理学の分野で近年目覚しい発展を遂げているAdS/CFT対応の研究から、アクシオンと呼ばれる未知の素粒子に関して導かれた新しいアイデアを実験的に検証する場として、最近物性分野で注目されているトポロジカル絶縁体と呼ばれる物質が使えるのではないかという提案です。柏キャンパスでは2009年度に数物連携宇宙研究機構(IPMU)の建物が物性研究所の隣に完成したのを機に、IPMUと物性研とで共同の国際会議を開催しました。今回の論文は、そこから継続的に行われている両研究所の交流による成果の一つです。今後も、両分野間の相互啓発による新しい展開に大いに期待するところです。」
by planckscale
| 2012-04-04 12:18