2012年 05月 18日
『重力とは何か』 |
昨年の5月から準備してきた科学解説書
『重力とは何か ― アインシュタインから超弦理論へ、宇宙の謎に迫る』
が、5月30日に幻冬舎新書から出版されます。
昨年のノーベル物理学賞が、「遠方の超新星爆発の観測による宇宙の加速膨張の発見」に与えられたことに象徴されるように、宇宙物理学の発展は、これまで私たちの知らなかった宇宙の姿を明らかにしつつあります。
これにより、これまですべての物質の元であると考えられてきた原子は、実は宇宙のたった4パーセントに過ぎない。宇宙の大部分は「暗黒物質」や「暗黒エネルギー」など、まだ正体のわかっていないものでできていることが明らかになりました。
このような発見の基礎となっている物理学は、「物質」とそこの間に働く「力」によって自然を理解する学問です。
宇宙を理解するためには、それがどのような「物質」からできているかを知るだけでなく、それらの間に働く「力」を解明しなければなりません。そして、宇宙を理解するために一番大切な力が「重力」なのです。
なぜいまさら重力なのかと思われるかもしれません。しかし、実は重力の働きはまだ完全に解明されておらず、重力の謎は、宇宙そのものの謎と深く関わっているのです。
本書では、重力の理解に革命をもたらしたアインシュタインの相対論から始まり、ブラックホールやビッグバン、ホーキングのパラドックス、さらには究極の統一理論とされる超弦理論にいたる、過去百年間の物理学者たちの冒険をたどります。
「重力って当たり前にある力のようだけど、何がふしぎだというのだろうか」、
「ホーキングという名前は聞いたことがあるが、あの人はなぜ偉いのだろうか」、
「超弦理論って、なにやら難しそうな理論だけど、いったい何のことだろう」
などと思われたら、手にとって見てください。
「やさしくても本格的」を心がけて、新しい説明の方法を工夫し、予備知識がなくてもきちんと理解できるように書きました。
物理の勉強をしたことのない高校生や、高校を卒業してから何十年も理科にふれたことのない方から、これまで宇宙や素粒子の一般向け解説書を読んできてさらに深く理解したい方まで、どのような読者にも「読んで新しい発見があった」と思っていただける本になったと自負しています。
本書のイラストは、一部専門家にトレースしていただいたものを除き、すべて私が描きました。
幻冬舎の編集局が「重力のホログラフィー原理」のイラストを気に入って下さり、帯に採用して下さったのはうれしかったです。
右がその帯の写真です。
本書の企画は、重力の七不思議から説き起こし、相対性理論と量子力学の大切なところをきちんと押さえ、さらに超弦理論の最新の発展やホログラフィー原理までを解説するという野心的なものでした。そのため、幻冬舎新書の小木田順子編集長と何度もお会いして、予備知識なしでわかるかどうか、すみからすみまでチェックをしていただきました。
何度目かのミーティングのときに、文系出身の小木田さんが、
「特殊相対論はもうわかったので、今日は一般相対論をきちんとわかろうと思います」
と切り出されたのには驚きました。しっかり「素人チェック」が入っています。
発売は今月末ですが、アマゾンではすでに予約販売が始まっています。
⇒ アマゾンでの予約はこちらから
お読みいただけるとうれしいです。
以下に、本書の「はじめに」から、本書のプランの部分を転載しました。「本書のプラン」と書いてあるところをクリックしていただくと開きます。
「はじめに」から
重力研究は宇宙の理解につながっている
万有引力の法則と相対論は、いずれも重力の働きに関する画期的な発見でした。そして現在、重力研究はニュートンとアインシュタインの時代に次ぐ「第三の黄金時代」を迎えようとしています。重力にまつわる大規模な観測や実験プロジェクトが次々と始まり、それを支える理論も大きく進歩しつつあるのです。また、これによって私たちの知らなかった宇宙の姿が明らかになってきました。本書ではアインシュタインの相対論に始まる過去百年間の研究の発展をたどり、最新の重力理論の描く宇宙像をお伝えします。
読み始めたばかりのところでは、「これは何の本なのだろうか」「重力の話はどのように展開していくのだろう」と思われるかもしれません。そこで、お話を始める前に、本書の全体のプランを説明しましょう。
湯川秀樹に続き日本人として二番目にノーベル賞を受賞した朝永振一郎は、京都市青少年科学センター所蔵の色紙に、次のような言葉を残しています。
ふしぎだと思うこと これが科学の芽です
よく観察してたしかめ そして考えること これが科学の茎です
そうして最後になぞがとける これが科学の花です
重力は私たちの地上での生活を支配している力ですが、あらためて考えてみるといろいろ不思議な性質があります。第一章では、そのうち「七つの不思議」を選んで、これを本書の「科学の芽」とします。
第二章からは、こうした不思議のいくつかがどのようにして解かれてきたか、またそれがどのように宇宙の理解につながってきたかをみていきます。近代の重力の研究はガリレオやニュートンの時代に始まりました。ところが、十九世紀になって電気や磁気の性質が明らかになるにつれ、これがニュートンの理論とうまくかみ合わないことがわかり、科学者の間で大問題になりました。この問題を解決して、新しい重力理論である「一般相対論」を構築したのがアインシュタインでした。そこで、第二章ではアインシュタインの特殊相対論、第三章では一般相対論についてお話しします。
相対論の啓蒙書は数多く出版されていますが、本書はそうした本を読んでいなくてもわかるように書きました。そのときに心がけたのは、「ごまかしをしない」ということ。また、私自身が納得できるように、これまでにない新しい説明のしかたも工夫しました。丁寧に解説したので、全部理解しようとすると、かえってつまずきそうになるかもしれません。そんなときには、とりあえず次の節まで読み飛ばしても結構です。後から読み直すと、「そういうことだったのか」とわかることもあるかもしれません。
アインシュタインの相対論は、今日では宇宙を観測し理解するためになくてはならないものになっています。
光とは電場や磁場の振動が波のようにして伝わっていくものです。アインシュタインは、重力も波のように伝わっていくことを予言し、これは重力波と呼ばれています。間接的な証拠は見つかっていますが、まだ直接的に観測されたことはありません。そこで、岐阜県の神岡鉱山の地下に、これを観測するための大型低温重力波望遠鏡「KAGRA(かぐら)」が建設されつつあります。重力波観測の目的は、相対論の検証のためだけではありません。人類はこれまでもっぱら光を使って宇宙を見てきました。重力波が観測できるようになると、宇宙を「見る」新しい窓が開けることになります。宇宙には光では見えないものがあるのですが、それが重力波なら見える。宇宙が生まれたときの風景が見える可能性もあるので、重力波観測には大きな期待が寄せられているのです。
アインシュタイン理論のもう一つの大きな予言は、重いものがあるとそのそばで光が曲がるという事実です。最近ではこれを使って、宇宙の中にある目に見えない重力源――「暗黒物質」や「暗黒エネルギー」―― を探る研究が行われています。暗黒物質も暗黒エネルギーも、その正体を突き止めることができれば、数百年間にわたって教科書に載るような大発見となることは間違いありません。日本の誇る「すばる望遠鏡」では、遠方の銀河からとどく光の曲がりぐあいを観測し、世界最高の精度で宇宙の暗黒物質や暗黒エネルギーを測定するプロジェクトが始まりました。これは、私が主任研究員として参加している東京大学のカブリIPMU(数物連携宇宙研究機構)が、国立天文台などと共同で行っている研究です。
第三章の後半では、こうした重力波や暗黒物質の観測の現状について詳しくお話しします。
アインシュタインの重力理論は、ブラックホールの存在を予言しました。ブラックホールは本書の後半で大切な役回りをするので、まず第四章で、それが何であるか、どのようにして見つかったのかをお話しします。
第四章のもう一つの話題は、ホーキングによる「ビッグバンの証明」です。スティーブン・ホーキングは、車椅子の物理学者として有名ですが、彼がなぜ偉いのかを知っている人は少ないかもしれません。宇宙がビッグバンによって始まったことの証明は、ホーキングの最初の大きな仕事でした。証明自身には高度な数学が使われますが、その意義は式を使わずに解説できます。
折り返し地点の第五章では、相対論とともに二十世紀の物理学を支えてきた量子力学を紹介します。アインシュタインは電気や磁気の理論とニュートンの重力理論の矛盾を解消するために相対論を確立しました。ところが、この相対論が、量子力学とうまくかみ合わないことがわかってきたのです。これを解決する新たな重力理論が本書の後半のメインテーマになります。
第六章ではいよいよ相対論と量子力学を統合する「超弦理論」の話が始まります。「超ひも理論」と呼ばれることもありますが、私たち専門家は「超弦理論」と呼ぶことが多いので、本書ではこちらを採用します。個人的な話をしますと、超弦理論が素粒子論の主流に躍り出たのは、私が大学院に進んだ年でした。自然界の最も奥深い真実を知りたいと思って大学院に入った私は、それ以来この分野の研究を続け、今日に至っています。本書の後半では、私自身がこれまで考えてきたことについてもお話しします。
ホーキングの二つ目の大きな仕事は、相対論と量子力学の矛盾を照らし出す「ブラックホールの情報問題」を指摘したことです。第七章では、超弦理論がこの問題をどのように解決したかをお話しします。この問題の解決の過程で、重力や空間の性質についての新しい見方である「ホログラフィー原理」が明らかになりました。ここが本書のクライマックスです。重力の謎を追って本書を読んでこられた方は、ここでどんでん返しにあうことになります。楽しみにお待ちください。
超弦理論は発展途上の理論で、未解決の問題もたくさんあります。たとえば、第一章で提示する「重力の七不思議」もすべてが解明されたわけではありません。おしまいの第八章では、超弦理論の課題と将来の展望についてお話しします。
大規模な観測や実験のプロジェクトが始まりつつあるこの分野からは、これからさまざまなビッグニュースが届けられることでしょう。いまほど、この分野の研究がエキサイティングな時代はないと言えるかもしれません。重力のことを知っていれば、宇宙の研究から出てくるニュースもより深く理解できる。いま重力は「楽しい」研究分野なのです。
『重力とは何か ― アインシュタインから超弦理論へ、宇宙の謎に迫る』
が、5月30日に幻冬舎新書から出版されます。
昨年のノーベル物理学賞が、「遠方の超新星爆発の観測による宇宙の加速膨張の発見」に与えられたことに象徴されるように、宇宙物理学の発展は、これまで私たちの知らなかった宇宙の姿を明らかにしつつあります。
これにより、これまですべての物質の元であると考えられてきた原子は、実は宇宙のたった4パーセントに過ぎない。宇宙の大部分は「暗黒物質」や「暗黒エネルギー」など、まだ正体のわかっていないものでできていることが明らかになりました。
このような発見の基礎となっている物理学は、「物質」とそこの間に働く「力」によって自然を理解する学問です。
宇宙を理解するためには、それがどのような「物質」からできているかを知るだけでなく、それらの間に働く「力」を解明しなければなりません。そして、宇宙を理解するために一番大切な力が「重力」なのです。
なぜいまさら重力なのかと思われるかもしれません。しかし、実は重力の働きはまだ完全に解明されておらず、重力の謎は、宇宙そのものの謎と深く関わっているのです。
本書では、重力の理解に革命をもたらしたアインシュタインの相対論から始まり、ブラックホールやビッグバン、ホーキングのパラドックス、さらには究極の統一理論とされる超弦理論にいたる、過去百年間の物理学者たちの冒険をたどります。
「重力って当たり前にある力のようだけど、何がふしぎだというのだろうか」、
「ホーキングという名前は聞いたことがあるが、あの人はなぜ偉いのだろうか」、
「超弦理論って、なにやら難しそうな理論だけど、いったい何のことだろう」
などと思われたら、手にとって見てください。
「やさしくても本格的」を心がけて、新しい説明の方法を工夫し、予備知識がなくてもきちんと理解できるように書きました。
物理の勉強をしたことのない高校生や、高校を卒業してから何十年も理科にふれたことのない方から、これまで宇宙や素粒子の一般向け解説書を読んできてさらに深く理解したい方まで、どのような読者にも「読んで新しい発見があった」と思っていただける本になったと自負しています。
本書のイラストは、一部専門家にトレースしていただいたものを除き、すべて私が描きました。
幻冬舎の編集局が「重力のホログラフィー原理」のイラストを気に入って下さり、帯に採用して下さったのはうれしかったです。
右がその帯の写真です。
本書の企画は、重力の七不思議から説き起こし、相対性理論と量子力学の大切なところをきちんと押さえ、さらに超弦理論の最新の発展やホログラフィー原理までを解説するという野心的なものでした。そのため、幻冬舎新書の小木田順子編集長と何度もお会いして、予備知識なしでわかるかどうか、すみからすみまでチェックをしていただきました。
何度目かのミーティングのときに、文系出身の小木田さんが、
「特殊相対論はもうわかったので、今日は一般相対論をきちんとわかろうと思います」
と切り出されたのには驚きました。しっかり「素人チェック」が入っています。
発売は今月末ですが、アマゾンではすでに予約販売が始まっています。
⇒ アマゾンでの予約はこちらから
お読みいただけるとうれしいです。
以下に、本書の「はじめに」から、本書のプランの部分を転載しました。「本書のプラン」と書いてあるところをクリックしていただくと開きます。
「はじめに」から
重力研究は宇宙の理解につながっている
万有引力の法則と相対論は、いずれも重力の働きに関する画期的な発見でした。そして現在、重力研究はニュートンとアインシュタインの時代に次ぐ「第三の黄金時代」を迎えようとしています。重力にまつわる大規模な観測や実験プロジェクトが次々と始まり、それを支える理論も大きく進歩しつつあるのです。また、これによって私たちの知らなかった宇宙の姿が明らかになってきました。本書ではアインシュタインの相対論に始まる過去百年間の研究の発展をたどり、最新の重力理論の描く宇宙像をお伝えします。
読み始めたばかりのところでは、「これは何の本なのだろうか」「重力の話はどのように展開していくのだろう」と思われるかもしれません。そこで、お話を始める前に、本書の全体のプランを説明しましょう。
湯川秀樹に続き日本人として二番目にノーベル賞を受賞した朝永振一郎は、京都市青少年科学センター所蔵の色紙に、次のような言葉を残しています。
ふしぎだと思うこと これが科学の芽です
よく観察してたしかめ そして考えること これが科学の茎です
そうして最後になぞがとける これが科学の花です
重力は私たちの地上での生活を支配している力ですが、あらためて考えてみるといろいろ不思議な性質があります。第一章では、そのうち「七つの不思議」を選んで、これを本書の「科学の芽」とします。
第二章からは、こうした不思議のいくつかがどのようにして解かれてきたか、またそれがどのように宇宙の理解につながってきたかをみていきます。近代の重力の研究はガリレオやニュートンの時代に始まりました。ところが、十九世紀になって電気や磁気の性質が明らかになるにつれ、これがニュートンの理論とうまくかみ合わないことがわかり、科学者の間で大問題になりました。この問題を解決して、新しい重力理論である「一般相対論」を構築したのがアインシュタインでした。そこで、第二章ではアインシュタインの特殊相対論、第三章では一般相対論についてお話しします。
相対論の啓蒙書は数多く出版されていますが、本書はそうした本を読んでいなくてもわかるように書きました。そのときに心がけたのは、「ごまかしをしない」ということ。また、私自身が納得できるように、これまでにない新しい説明のしかたも工夫しました。丁寧に解説したので、全部理解しようとすると、かえってつまずきそうになるかもしれません。そんなときには、とりあえず次の節まで読み飛ばしても結構です。後から読み直すと、「そういうことだったのか」とわかることもあるかもしれません。
アインシュタインの相対論は、今日では宇宙を観測し理解するためになくてはならないものになっています。
光とは電場や磁場の振動が波のようにして伝わっていくものです。アインシュタインは、重力も波のように伝わっていくことを予言し、これは重力波と呼ばれています。間接的な証拠は見つかっていますが、まだ直接的に観測されたことはありません。そこで、岐阜県の神岡鉱山の地下に、これを観測するための大型低温重力波望遠鏡「KAGRA(かぐら)」が建設されつつあります。重力波観測の目的は、相対論の検証のためだけではありません。人類はこれまでもっぱら光を使って宇宙を見てきました。重力波が観測できるようになると、宇宙を「見る」新しい窓が開けることになります。宇宙には光では見えないものがあるのですが、それが重力波なら見える。宇宙が生まれたときの風景が見える可能性もあるので、重力波観測には大きな期待が寄せられているのです。
アインシュタイン理論のもう一つの大きな予言は、重いものがあるとそのそばで光が曲がるという事実です。最近ではこれを使って、宇宙の中にある目に見えない重力源――「暗黒物質」や「暗黒エネルギー」―― を探る研究が行われています。暗黒物質も暗黒エネルギーも、その正体を突き止めることができれば、数百年間にわたって教科書に載るような大発見となることは間違いありません。日本の誇る「すばる望遠鏡」では、遠方の銀河からとどく光の曲がりぐあいを観測し、世界最高の精度で宇宙の暗黒物質や暗黒エネルギーを測定するプロジェクトが始まりました。これは、私が主任研究員として参加している東京大学のカブリIPMU(数物連携宇宙研究機構)が、国立天文台などと共同で行っている研究です。
第三章の後半では、こうした重力波や暗黒物質の観測の現状について詳しくお話しします。
アインシュタインの重力理論は、ブラックホールの存在を予言しました。ブラックホールは本書の後半で大切な役回りをするので、まず第四章で、それが何であるか、どのようにして見つかったのかをお話しします。
第四章のもう一つの話題は、ホーキングによる「ビッグバンの証明」です。スティーブン・ホーキングは、車椅子の物理学者として有名ですが、彼がなぜ偉いのかを知っている人は少ないかもしれません。宇宙がビッグバンによって始まったことの証明は、ホーキングの最初の大きな仕事でした。証明自身には高度な数学が使われますが、その意義は式を使わずに解説できます。
折り返し地点の第五章では、相対論とともに二十世紀の物理学を支えてきた量子力学を紹介します。アインシュタインは電気や磁気の理論とニュートンの重力理論の矛盾を解消するために相対論を確立しました。ところが、この相対論が、量子力学とうまくかみ合わないことがわかってきたのです。これを解決する新たな重力理論が本書の後半のメインテーマになります。
第六章ではいよいよ相対論と量子力学を統合する「超弦理論」の話が始まります。「超ひも理論」と呼ばれることもありますが、私たち専門家は「超弦理論」と呼ぶことが多いので、本書ではこちらを採用します。個人的な話をしますと、超弦理論が素粒子論の主流に躍り出たのは、私が大学院に進んだ年でした。自然界の最も奥深い真実を知りたいと思って大学院に入った私は、それ以来この分野の研究を続け、今日に至っています。本書の後半では、私自身がこれまで考えてきたことについてもお話しします。
ホーキングの二つ目の大きな仕事は、相対論と量子力学の矛盾を照らし出す「ブラックホールの情報問題」を指摘したことです。第七章では、超弦理論がこの問題をどのように解決したかをお話しします。この問題の解決の過程で、重力や空間の性質についての新しい見方である「ホログラフィー原理」が明らかになりました。ここが本書のクライマックスです。重力の謎を追って本書を読んでこられた方は、ここでどんでん返しにあうことになります。楽しみにお待ちください。
超弦理論は発展途上の理論で、未解決の問題もたくさんあります。たとえば、第一章で提示する「重力の七不思議」もすべてが解明されたわけではありません。おしまいの第八章では、超弦理論の課題と将来の展望についてお話しします。
大規模な観測や実験のプロジェクトが始まりつつあるこの分野からは、これからさまざまなビッグニュースが届けられることでしょう。いまほど、この分野の研究がエキサイティングな時代はないと言えるかもしれません。重力のことを知っていれば、宇宙の研究から出てくるニュースもより深く理解できる。いま重力は「楽しい」研究分野なのです。
by planckscale
| 2012-05-18 08:52