2012年 07月 21日
String-Math 2012 |

主催者のアルブレヒト・クレムさんから、最終日の総括セッションで「今回の会議の発表の中で特に重要だと思われるものを取り上げ、将来さらに発展が期待される分野について語るように」という依頼を受けていました。何とか果たすことができて、一息ついているところです。
総括セッションのほかに、木曜日には私の研究についても講演をしました。講演の朝にはいつも緊張するので、講演の内容を考えながら一人で朝食をとっていると、マキシム・コンセビッチさんがいらして30分ぐらいお話をしました。コンパクトなカラビ・ヤウ多様体の場合にも、すべての種数についてトポロジカルな弦理論の分配関数を計算する行列模型があるという夢のような話をなさるので、驚きました。
木曜日の最初の講演者はドン・ザギエさん。上の写真がザギエさんの講演の様子です。写真では、黒板にごちゃごちゃ書き込んでいるように見えますが、これが隅々までわかるすばらしい講演でした。理解したいと思っていた、モックモジュラー形式の最近の発展がよくわかりました。
モックモジュラー形式は、インドの天才数学者ラマヌジャンが亡くなる年に研究をしていたもので、ラマヌジャンが亡くなった後に管財人が、ケンブリッジ大学のハーディにノートを送ったのだそうです。しかし、ハーディはこれを理解できず、ノートはワトソン(ホイティッカー‐ワトソンという有名な数学書の著者です)に渡り、さらにワトソンの死後は同僚のホイティッカーに受け継がれます。ホイティッカーはノートをケンブリッジ大学トリニティカレッジの図書館に寄贈し、ノートはそのままそこで眠ってました。それをジョージ・アンドリュースが1976年に発掘し、1987年に本として発表しました。
私は、ちょうど1987年に国際会議でインドを訪問していたのですが、このラマヌジャンの「失われたノート」の内容が話題になっていました。会議中にこのノートについてのテレビ番組があり、参加者とそれを見て、「モックモジュラー形式って、弦理論に使えるのだろうか」という話を冗談交じりにしたことを覚えています。
モックモジュラー形式の理論には、最近になってサンディ・ツベーガーズさんによる大きな進歩があり、ザギエさんの講演でもこの話が中心になっていました。
ザギエさんの次は私の番。1987年にインドに行っていたときには冗談のように思っていたのですが、モックモジュラー形式は弦理論の研究でも重要になって来ていて、それを使った話をしました。
講演中にふと右のほうを見ると、オクンコフさん、コンセビッチさん、ウィッテンさん、ヤウさんとフィールズ賞受賞者が4人集まって座っているのが見えたので、また緊張しました。
講演の後でザギエさんがいらして、とてもよい講演だったとほめてくださったのがうれしかったです。その後で昼食に行ったときにも、ウィッテンさんやヤウさんが一緒にいらして、私の講演に興味を持っていただけたようで、質問やとても参考になる指摘をしてくださいました。
木曜日にはこのほか、ジェフ・ハーベイさん、マティアス・ガバディエルさん、カトリン・ウエンドランドさんの3名が、M24ムーンシャインについて話をされました。これは、江口徹さん、立川裕二さんと私が2年前に予想したもので、詳しくはこちらのブログ記事に書いています。⇒ M24ムーンシャイン
私たちが2年前に発表したときには、M24ムーンシャインの証拠は限られたものでしたが、今回の3人の講演を聞いて、確かなものであるとの強い印象を受けました。そこで、私の総括講演でも、最近のヒッグス粒子発見のニュースにかけて、「M24ムーンシャインは、私たちが2年前に発表したときには3シグマの観察レベルだったのが、今回の3名の発表で5シグマの発見レベルになった」と言いました。
金曜日のハイライトはウィッテンさんの講演。超弦理論の摂動振幅の計算という1980年代から研究されている話題について、超リーマン面のモジュライ空間の性質を精密に調べることで、正しい計算の仕方を確立し、それによって超弦理論の有限性の証明に確かな基礎付けをあたえるという重要な話でした。講演の最後には、最近までボンのマックスプランク数学研究所の所長をなさっていたマニンさんが立ち上がって、盛んに質問をされていました。私にとってはとても勉強になる会議でしたが、総括講演を依頼されていたので、最後まで気が抜けない会議でもありました。
ボンには2年前にセミナーに来ましたが(そのときのブログ記事)、1週間ゆっくり滞在したのは初めてで、とても居心地のよい町だと思いました。ドイツの首都だったとは信じられないくらいこじんまりとした町ですが、趣のある町並みとライン川に沿った景色が美しく、散歩のできるところがたくさんあります。
ホテルから会議場までは、きちんと整備された公園の並木道に沿って歩いていけるのですが、途中に図書箱(?)のようなものがあって、本の貸し借りができるようになっています。こういうシステムがうまく機能しているのも、ドイツらしいと思いました。明日は、インターシティ・エクスプレスに乗ってミュンヘンに向かいます。
by planckscale
| 2012-07-21 22:38









