2012年 12月 20日
ブラックホールの防火壁 |
米国では、クリスマスの時期になるとジンジャーブレッドでおもちゃの家を組み立てて飾ったりしますが、先日Caltechの教員会館に昼食に行ったら、ジンジャーブレッドで火星探査機「キュリオシティ」が作ってありました。いかにも理科系の大学らしいと思いました。
さて、アインシュタインの一般相対論によると、ブラックホールのまわりに事象の地平線ができます。遠方の観測者からは地平線の中の出来事を観測することはできません。しかし、ブラックホールに近づいて、地平線の中に入ろうとすると、少なくとも古典力学の範囲では、地平線を越えるところで特殊な現象は起きないと考えられています。
ところが、数ヶ月前に、カリフォルニア大学サンタバーバラ校のアルムヘイリさん、マルロフさん、ポルチンスキーさん、サリーさんは、量子力学的な効果を考えると、観測者が地平線を無事に越えられるとすると矛盾が起きると主張しました。
これは、量子力学の「一夫一妻制度」に関係します。
古典力学では、一つの情報を何人でも共有することができます。たとえば、図書館に本が1冊あれば、同じ本を何人でも読むことができ、その内容を知ることができます。
ところが量子力学では、情報の共有に制限があります。たとえばAさんとBさんの波動関数が絡み合っているとします。この絡み合いの程度が高いと、別なCさんが現れたときに、BさんとCさんの絡み合いの程度に制限がつくというのです。
古典力学では、一人の人が多くの人と情報を共有できるので「一夫多妻/一妻多夫制度」。これに対し、量子力学では、一つの波動関数は、複数の波動関数と高い程度で絡み合うことができないので「一夫一婦制度」というわけです。
スティーブン・ホーキングさんが示したように、量子効果を考えると、ブラックホールは熱を持って放射をしています。しかし、量子力学の基本原理から、時間発展で情報は失われないはずなので、ブラックホールの量子状態の情報は、放射された光や物質が担っているはずです。
長い時間ホーキング放射を続けているブラックホールを考えましょう。放射によって、できたときの質量の半分が放射で失われてしまったとすると、エントロピーの計算から、最初のブラックホールの情報のほとんどは放射が持ち去ってしまったことになります。
ということは、ブラックホールの現在の状態と、長い時間をかけて放射された光や物質の状態の間には、強い絡み合いがあることになります。
そのようなブラックホールに近づいて、ブラックホールからたった今放射された光や物質の状態を観測すると、それは大昔に放出された光や物質の状態と強く絡み合っているはずです。
ところが、地平線を越えるところで何も特別なことが起きないとすると、ブラックホールから放出されたばかりの光や物質の状態と、地平線の中で観測される光や物質の状態は、またしても強く絡み合っていなければいけません。
そうすると、ブラックホールから放出されたばかりの光や物質が、「大昔に放出された光や物質の状態」と「地平線の内側の光や物質の状態」の両方と強く絡み合っていることになります。
これは、量子力学の「一夫一婦制度」と矛盾するというのがサンタバーバラのグループが指摘した問題でした。
ブラックホールに近づいた観測者が、事象の地平線を通り越すときに何も特別なことが起きないとすると矛盾が起きる。それを避けるために、地平線のところが高温になっていて、観測者は焼き尽くされてしまうのではないか。地平線は防火壁なのではないか、というのです。
今月にもスタンフォード大学でこの問題についての研究会が開かれましたが、混乱は収拾していません。物理学でこのようなパラドックスが見つかるというのはよいことで、それを理解することでブラックホールの量子力学の理解がさらに進むことが期待されます。
by planckscale
| 2012-12-20 16:19









