2013年 01月 07日
強い力と弱い力 : 美女と野獣 |
昨年上梓した『重力とは何か』は、幸いにして多くの方々に読んでいただくことができました。
物理学は、「力」によって自然を理解する学問です。宇宙の謎を解くためには、それが何からできているかを知るだけでなく、それらの間に働く「力」の仕組みを解明しなくてはなりません。
自然界には重力のほかに3つの力があります。電気や磁石の力である「電磁気力」は古くから知られていましたが、20世紀になってさらに2つの力 ― 「強い力」と「弱い力」 ― が発見されました。
電磁気力については、学校の理科の時間にも勉強します。また、重力については、前著『重力とは何か』でご説明しました。これで、強い力と弱い力がわかれば、力の理解は完成です。
そこで、この2つの力を解説する 『強い力と弱い力』 を、幻冬舎新書から上梓することにしました。
強い力と弱い力の関係は、美女と野獣の関係と似ていると思います。
娘がまだ小さかったときに、『美女と野獣』のミュージカルを見に行ったことがあります。心優しい「美女」ベルは、父親の身代わりとして、恐ろしい「野獣」の住む城に向かいます。しかし、ベルは、野獣が美しい心を持っていることに気がつきます。ベルの愛で魔法が解け、野獣は立派な王子様に戻るというお話です。
強い力の理論は、アインシュタインの一般相対論の数学的構造をそのまま受け継いでおり、その美しさは物理学者や数学者の目には明らかです。これに対し、弱い力の美しさは、長い間明らかになりませんでした。それは、弱い力に魔法がかけられ、野獣の姿に変えられていたからです。
弱い力の美しさを覆い隠していた魔法は、どのようにして解かれたのでしょうか。
私は素粒子論が専門なので、強い力と弱い力の理論についてなら、いくらでも語ることができます。しかし、科学の発見の歴史にはさまざまな逸話があり、その中には真偽不明なものもあります。前著『重力とは何か』の前半ではアインシュタインが主役でしたが、今回の本には、40人以上のノーベル賞受賞者を含む数多くの物理学者が登場します。伝聞に頼って誤った歴史を語ることを避けるために、執筆の際には、できる限り科学史の一次資料にあたりました。
本書の第1章は、アイザック・ニュートンの主著『プリンキピア』から始まります。私はCaltechの隣にあるハンチントン図書館の閲覧権を持っているので、この図書館が所蔵する『プリンキピア』の初版本を見に行くつもりでしたが、ケンブリッジ大学のデジタル・ライブラリーではウェブで読めるようになっていました。ラテン語ですが、Google translateを使えば簡単に解読できます。本書で引用した部分については、原書で確認しました。
湯川秀樹が中間子の存在を予言した1934年の日記は、生誕100年を記念して2007年に公開され、朝日選書から出版されています。出版当時、私はこの本の書評を雑誌『数学セミナー』に書きました。中間子論発見の経緯に光を当てる第一級の科学史資料だと思うので、本書でも引用しました。
ファインマンの研究ノートの原本はCaltechのアーカイブに保存されているので、それを閲覧しました。スタンフォード大学の実験を解析して、陽子の内部構造を理解したときの、手書きのノートを読むことができたのはスリリングでした。これも本を書く楽しみです。
11月の後半に原稿を完成し、12月の半ばに初校。冬休みの間に再校を校閲しました。左の写真は、再校の校閲の様子です。
1月30日に出版の予定です。お読みいただけるとうれしいです。
by planckscale
| 2013-01-07 15:51