2013年 01月 11日
都市の科学 |

冬休みが終わって、今週から授業も始まりました。
私は、Caltechで数学・物理学・天文学部門の副部門長(理学部副部長に相当)の行政職もしているので、授業の負担を軽減していただいているのですが、今学期は大学院の講義を担当しています。題目は「現代物理学で使われる幾何学的方法」。3年前に東京大学とCaltechとの共通講座「先端物理学国際講義 I 」で行ったのと同じ内容ですが、今回は予定が合わなかったのでCaltechだけでの講義となりました。
3年前にはビデオ会議を使って、東京とパサデナを同時中継でつないで講義をしました。そのときの私の講義のビデオは、東京大学のウェブサイトで視聴することができます。
⇒ 東大オープン・コース・ウェア (全部で31時間半あります)
物理教室全体のコロキウムも始まり、今日の講演者はニューヨーク大学に新しく設立された「都市科学研究センター」所長のスティーブン・クーニンさんでした。
2007年は全世界の人口の半分が都市に住んでいて、これは世界史において初めてのことだそうです。今世紀の半ばには人口の7割以上が都市に住むことになるので、文明の持続可能な成長のためにも、都市の持つさまざまな問題の解決は重要です。
クーニンさんは、Caltechで30年以上物理学教授を勤められた後、BP(以前のブリティッシュ・ペトロリアム)の主任研究員、米国エネルギー省の副長官となり、昨年から都市科学研究センターの所長となられました。
これまでの都市の研究は、数千人規模のサーベイや国勢調査などの大まかなデータに基づくものでした。このブログでも4年ほど前に、都市のスケール則について書きましたが、これも経済規模などについての大まかなデータを使ったものでした。
しかし、ここ数年間の都市機能のIT化によって、依然とは比べ物にならない膨大なデータが手に入るようになりました。大規模なデータから新しいパターンを見出すことは物理学者の得意とするところなので、そのような解析から新しい都市像を見出すことを狙っていらっしゃるようです。
ただし、このような分析をする際には、個人情報の保護も重要な問題です。一見安全そうなデータであっても、それをいくつか集めると個人が特定されてしまうことはよくあります。たとえば、米国に住んでいる人の87パーセントは、5桁の郵便番号、生年月日、性別で特定されてしまうそうなので、たとえばウェブでの登録やアンケートなどでこのようなデータを書き込んでしまうと、名前を伏せておいても本人が特定されてしまうことになります。
クーニンさんの研究所は始まったばかりなので、これからどのような成果が生まれるか楽しみです。


by planckscale
| 2013-01-11 14:01