2013年 01月 16日
『強い力と弱い力-ヒッグス粒子が宇宙にかけた魔法を解く』 |

「強い力と弱い力の関係は、美女と野獣の関係と似ている」
と書きました。強い力が「美女」で、弱い力が「野獣」です。
弱い力は、地震のエネルギー源のひとつであり、福島第1原子力発電所の事故によって深刻な汚染を引き起こしたセシウム137からの放射線の起源でもあります。その一方で、私たちの生命の源である太陽がこれまで46億年も燃え続けることができたのも、弱い力のおかげです。
弱い力はこのように意外と身近な力ですが、不思議な性質を持っています。そもそも、なぜ弱いのか。重力や電磁気力のように、遠くにまで伝わらないのはなぜか。さらに、弱い力の解明には、「パリティの破れ」という大きな謎が立ちはだかっていました。
弱い力に魔法をかけ、野獣の姿に変え、その美しさを覆い隠していたのは、ヒッグス粒子だったのです。
ヒッグス粒子といえば、昨年の7月4日にCERNで発見が報告され、「万物の質量の起源である神の粒子」と話題になったあの新粒子です。しかし、ヒッグス粒子を起源としているのは、私たちの体重のほんの1パーセントでしかありません。つまり、「ヒッグス粒子が万物の質量の起源である」という説明は、100倍も間違っているのです。
物理学者がヒッグス粒子を考え出した本当の理由は、弱い力にかけられた魔法を解き、自然界の法則の美しい姿を明らかにするためでした。
そこで、幻冬舎新書から出版する『強い力と弱い力』の副題は
ヒッグス粒子が宇宙にかけた魔法を解く
としました。
発売は今月末ですが、アマゾンではすでに予約販売が始まっています。
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「強い力」とは、クォーク同士を引き付けあって、陽子や中性子を作る力のことです。しかし、加速器を使って陽子の中をのぞいてみると、その中にある粒子には力は働いておらず、自由勝手に動き回っているように見えました。第3章では、強い力の解明に至る波乱万丈の歴史についてお話します。
「強い力」は美しい理論で説明されましたが、「弱い力」の美しさは長い間明らかになりませんでした。ヒッグス粒子がその美しさを隠していたからです。第4章では、魔法が解ける前の弱い力の姿を、ありのままに見ていただきます。
弱い力にかけられていた魔法を解く手がかりを見つけたのは、南部陽一郎でした。
第5章のお話は、超伝導の発見から始まります。南部は超伝導理論の虜になり、それを納得するために対称性の自発的破れのアイデアに到達します。超伝導の世界はとても不思議です。このビデオをご覧ください。
第5章では南部の思考の跡を追いながら、この不思議な超伝導の仕組みを解説します。また、昨年のノーベル物理学賞の対象となった「シュレディンガーの猫」の話題についてもご紹介します。

第7章では、ヒッグス粒子の発見にいたる実験の歴史を振り返ります。それは加速器物理学における、ヨーロッパの勃興と米国の凋落の歴史でもありました。
ヒッグス粒子の発見によって、素粒子の標準模型は完成しました。しかし、私たち素粒子物理学者は、標準模型よりもさらに根源的な法則を求めて研究を続けたいと願っています。このように科学者が好奇心に駆られて追求する知識は、社会全体にどのように役に立つのでしょうか。最後の第8章では、このような基礎研究を続けることの意義についても考えます。
自然界の奥底の真実を解き明かす科学は、この宇宙における私たちの存在について、深く考えるきっかけを与えてくれます。昨年話題になったヒッグス粒子の発見の本当の意義を理解したい方も、ぜひご覧ください。


by planckscale
| 2013-01-16 11:54