2013年 01月 18日
準結晶をめぐる冒険 |

準結晶は、1984年にダニエル・シェヒトマンさんらによって発見され、シェヒトマンさんは2011年にノーベル化学賞を受賞しています。
結晶は原子が周期的に並んでいる構造ですが、このような構造は古くから分類されていました。特に、5角形の対称性を持つ結晶は存在しないと考えられていたのですが、シェヒトマンさんらはこのような対称性を持つ物質を作ってしまったのです。シェヒトマンさんらの発見した物質は不安定でしたが、東北大学の蔡安邦さんらが安定な準結晶を発見したので、その存在が広く認められるようになりました。
シェヒトマンさんらの発見とほぼ同時に、独立に準結晶の概念を理論的に考えていたスタインハートさんは、このような物質が、実験室ではなく、自然界にも存在するかどうかに興味を持ちました。
そして、さまざまな調査の末、イタリアのフィレンツェの博物館にあった鉱物の中に、蔡安邦さんらが発見したのと全く同じ準結晶物質を見つけました。
しかし、地質学者に相談したところ、この物質を作るには純粋なアルミニウムが必要なので、自然にできるとは考えにくいと言われてしまいました。博物館にある鉱物に、人造のまがい物が紛れているのはよくあることなのだそうです。
フィレンツェの博物館の鉱物の来歴を調べてみると、アムステルダムの収集家から購入したものだとわかりました。そこで、アムステルダムに問い合わせてみると、本人は亡くなっていましたが、未亡人に秘密の日記を見せていただくことができました。
この日記によって、旧ソ連のプラチナ研究所の所蔵品が、ルーマニアの密輸団の手で持ち出されたものであることが判明します。そこで、イスラエルに亡命した当時の所長に問い合わせますが、埒が明きません。どうやら所長自身が密輸に関与していたらしいのです。
この鉱物についてのプラチナ研究所の公開された報告書を読んでみると、これを発見した人の名前が書いてありました。そこで、その人を何とか探し出して聞いてみると、カムチャッカ半島の付け根のハティルカ川沿岸で見つけたことがわかりました。
スタインハートさんは探検隊を組織してハティルカ川に向かい、上の写真にあるように、キャタピラ付の装甲車で準結晶を探し回ります。そして、フィレンツェにあったと同様の鉱物を採集して持ち帰ります。

Caltechのジョン・エーラーさんの分析により、この鉱物に含まれる酸素同位体の比率から、地上でできたものでなく、宇宙から隕石として降ってきたものだということもわかりました。
スタインハートさんらが発見した鉱物は、2010年に国際鉱物学連合によって、「アイコサヘドライト」と正式に命名されました。この準結晶は、正20面体(アイコサヘドロン)の対称性を持つからです。
スタインハートさんは、Caltech滞在中に、このような鉱石がどのようにして宇宙空間で生成したのかを解き明かしたいとおっしゃっていました。


by planckscale
| 2013-01-18 13:41