2013年 01月 23日
ニュートリノ |

先週、1月30日に出版される私の科学解説書 『強い力と弱い力』 について、ブログ記事を書きました。
⇒ 『強い力と弱い力 ― ヒッグス粒子が宇宙にかけた魔法を解く』
今月は、カブリIPMUからもう一冊。村山斉機構長が 『宇宙になぜ我々が存在するのか』 と題した解説書を出版されました。こちらはすでに書店にも並んでいるはずです。
村山さんの本の主役は、ニュートリノと呼ばれる素粒子です。
私は、研究生活の中で村山さんと3回重なっていて、今回カブリIPMUで一緒にお仕事をしているのが3回目です。
1回目は、私が助手として東京大学に赴任したときで、大学院に入学し素粒子論研究室に配属されたばかりの村山さんたちの輪講の指導をしました。
2回目は、私がカリフォルニア大学バークレイ校の教授になったときで、ポストドクトラル・フェローとしていらした村山さんと再会しました。村山さんも翌年には同校の助教授となられ、私がCaltechに移籍するまでの間、同僚として互いに切磋琢磨しました。
村山さんは当時、素粒子の標準模型を越える理論、特に超対称性を持つ理論の研究をされていましたが、1998年にスーパーカミオカンデでニュートリノ振動が観測され、ニュートリノが質量を持つことがわかると、ニュートリノの研究に軸足を移されました。
スーパーカミオカンデで観測されたのは、宇宙から降ってくるニュートリノの振動でしたが、原子炉で人工的に作られるニュートリノでも振動を検出するためのカムランド実験が計画されます。これは同じ神岡宇宙素粒子研究施設の旧カミオカンデの跡地を利用しようというものです。
バークレイでも、スチュアート・フリードマンさんが中心となってカムランド実験に参加することになります。日本と米国では研究のやり方も異なるので、アイデアマンのフリードマンさんは、村山さんを実験に勧誘されます。2007年にIPMUが設立されたときに、村山さんに機構長としての白羽の矢が立ったのも、カムランド実験での活躍が認められたからだと思います。
先月のブログに書きましたが、フリードマンさんは昨年お亡くなりになりました。残念なことです。
このような背景がありますので、村山さんの新著を出版する講談社から、推薦文の依頼を受けたときに、
「村山さんのニュートリノへの愛にあふれたすばらしい本です。」
と書きました。


by planckscale
| 2013-01-23 15:35