2013年 01月 27日
ディベートの審判 |

審判員が不足しているというので、私も審判員になりました。数日前に学校で講習を受けて、今日の最初のセッションでは時間を計る係りをしながら見学。午後の2つのセッションで、正式な審判をしました。
米国の学校では、野球やフットボールのようなスポーツとして、ディベートが普通に行われています。ルールもきちんと決まっていて、まず大会の2ヶ月ぐらい前に議題が発表になります。今回の議題は、
「連邦政府は太陽光発電を財政的に奨励をすべきか」
「連邦最高裁判所判事には任期を付けるべきか」
「カリフォルニア州は、ニューヨーク市にならって、砂糖飲料の販売を規制すべきか」
「国際養子縁組の害は利を上回るか」
の4つ。2ヶ月の間に、これらの議題のすべてについて討論の準備をします。
たとえば最初の議題なら、「財政的に奨励すべき」と「すべきでない」の立場があります。
しかし、各々の議題について、どのチームがどちらの立場になるのかが発表になるのは、セッション開始の20分前です。上の写真は、その発表を見る生徒たち。
両方の立場について準備しておかなければいけないので、生徒たちにとっては、物事をいろいろな観点から考える練習にもなると思います。
発表後20分間の間に、2ヶ月かけて調査した内容を、各自コピー用紙1枚にまとめます。会場にはこの1枚の紙しか持ち込めません。こうしないと、あらかじめ用意したスピーチをそのまま読み上げる生徒がいるからです。20分しかないので、スピーチをそのまま写すわけには行かず、重要な情報だけをまとめて書いて、討論の場で即興でスピーチを作る練習にもなります。
ディベートには3人1組で臨み、2組のチームが交互に意見を述べます。
ディベートが終わると、討論者と見学者には一時退出してもらい、審判員である私が採点をします。3×2=6人の各自について30段階の点数をつけ、どちらのチームが勝ったかを決めます。そして、討論者と見学者に部屋に戻ってきてもらい、ディベートの講評をして、採点の理由を説明します。その後で採点票に、点数と勝敗だけでなく、採点の理由を詳しく書き込んで提出します。
採点票を集めた人がそれをすぐにコンピュータに入力して、4つの議題についての討論がすべて終わると、即座に優勝者が発表されることになります。
講習を受けておいたおかげで、どのような点に注意してディベートを見るべきかがわかりました。たとえば「国際養子縁組の害は利を上回るか」の議題では、「上回る」ことを主張するチームは、害のほうがインパクトが強いことを証明しなければいけません。一方で「上回らない」ことを主張するチームは、害がないことを示す必要はなく、ただ利益を上回るほどの害があるわけではないことを示せばよいのです。
私が審判をしたディベートでは、「上回る」チームが、国際養子縁組が増えると、国内の孤児の養子縁組が減り、それからさまざまな社会的問題が現れることを主張しました。しかし、「上回らない」チームが、国際養子縁組の増加と国内養子縁組の減少の間に因果関係がないことを示すデータを持ち出します。他にも論点があったのですが、これが決定打になって、「上回らない」チームの勝ちとの判定となりました。中学生のディベートとしては、なかなかの出来でした。
採点結果の説明の後で、ディベート・チームの親がやってきて、「コメントがあるのだが」とおっしゃいます。採点結果について文句を言われるのかと身構えましたが、
「すばらしい講評で、子供たちにとてもよい勉強になった。ありがとう。」
言われてほっとしました。
英語が母国語でないので、審判員を引き受けるかどうか躊躇したのですが、やってみてよかったです。
講習のときに見せていただいたビデオでは、「ボクシングは禁止すべきか」が議題で、「すべき」チームがボクシングのさまざまな害を数え上げ、「すべきでない」チームが守勢になります。
しかし、「すべきでない」チームが 「禁止をすると、地下に潜行して、違法にボクシングが行われるようになるので、こうした問題が、すべて司法の手のとどかないところで起きるようになる」 と主張し、「すべき」チームが築き上げた証拠が、すべて逆手に取られてしまいます。「すべき」チームは、そこで、「すでにボクシングが禁止されているスウェーデンなどの国で、地下でボクシングが行われている証拠はない」 と反論すればよかったのですが、それがなかったのでノックアウトとなりました。
大統領のディベートを主要チャンネルが一斉に生中継をするなど、野球やフットボールと並んで、ディベートは米国の国民スポーツのようです。子供の頃からこのような訓練を受けているので、米国には弁が立つ人が多いはずだと思いました。


by planckscale
| 2013-01-27 11:21