2013年 02月 20日
東京での研究と講演 |
木曜日は、アインシュタインの重力方程式を数値的に解く画期的な方法を開発したプリンストン大学のフランス・プレトリアスさんによる、講演がありました。私と同じときにサイモンズ研究賞を受賞されたご縁で、私がCaltechにお招きしたので、講演の後はレストランにご案内しました。
私はその晩の夜行便で東京に向かうため、プレトリアスさんをCaltechの職員会館に送り届けた後、そのままロサンゼルス空港に。
土曜日の早朝に羽田空港に着きました。午前中は共同研究者との議論など。
昼食を取ってから、東京大学の本郷キャンパスに新しく出来た伊藤国際学術研究センターで開かれているエグゼクティブ・マネジメント・プログラムでの講演に出かけました。左の写真は、参加者専用のサロンの様子。
このプログラムは、
「40代の企業人、公務員、プロフェッショナル等を対象としたもので、日本および世界の大きな地殻変動が予想されるなかで、これからの時代に活躍すべき人材を育成する「場」を提供することが、その目的」
なのだそうです。
私のように基礎科学の研究をしている者の話が役に立つものかと思いましたが、
「ビジネスに直結する知識やスキルには限定せず、それよりも幅広い最先端の自然科学や社会科学などを学んだり、議論したりしています」
「科学者の論理的な思考過程を話していただきたい」
とのことでしたので、お引き受けすることにしました。
『重力とは何か』というタイトルでお話をしました。ところが、直前になって7割から8割の方々が文系と知りました。理系の聴衆を想定した準備をしてきたので動揺しましたが、後に係りの方にお聞きすると、
「難しい研究を楽しそうに話されるのが印象的だった」
「iPS研究と同じで何十年やったからと言って必ずしも結果が出るとは限らないだろう、しかしそれでもやるべき研究であると感じた」
「プレゼンテーションも慣れていて聞きやすかった」
とのコメントがあったとのことでした。
ただし、質疑応答のときのほうが手ごたえがよい感じがしました。講演の内容だけでなく、たとえば
「最近、大学のランキングなどでCaltechの名前をよく聞くが、成功の秘密は何か」
などのご質問もあり、こちらのほうが盛り上がったので、もう少し質疑の時間をとっておけばよかったと反省しました。
また機会がいただけるのでしたら、今回の経験を生かし、もっと参加者に対応した内容を準備していきたいと思いました。
日曜日は、時差のため午前2時に起きて、そのままゆっくり研究。
午後には、三菱一号館美術館で開かれている「奇跡のクラーク・コレクション」展を観にいきました。クラーク美術館はマサチューセッツ州のウィリアムスタウンにあり、普段はなかなか観にいくことができませんが、美術館の改装工事のため、その所蔵品を東京で拝見できるありがたい機会です。ルノワールの美しい世界を堪能しました。
月曜日は、午前9時から午後4時ごろまで打ち合わせ。
そのあと少し休憩して、午後6時30分から、新宿の朝日カルチャーセンターで『強い力と弱い力』と題した講演を行いました。
このブログでも、事前に告知しようと思っていたのですが、開催の2週間まえにほぼ満員になってしまいました。当日は、本来定員100名のところ、机を取り払い、小さいテーブルの付いた椅子を使うことで、120名の方々にご参加いただきました。
朝日カルチャーセンターで講義をさせていただくのは、昨年の2月から4回目です。
昨年10月に朝日カルチャーセンターで開いた講座『ヒッグス粒子とは何か』では、標準模型の完成にいたる歴史に沿ったお話をしました。そのときにご参加くださった方の多くが今回もいらしたので、それと同じような話ではつまらないだろう。前回が歴史に沿った話だったので、今回は論理に沿った話にしようと思いました。
具体的には、電磁気力、強い力、弱い力に共通する原理である「ゲージ原理」と、ゲージ対称性を自発的に破る「ヒッグス機構」について、理論の内容に踏み込んでご説明しました。
この講義については、「とね」さんが早速感想を書いてくださいました。
⇒ とねさんの感想
ゲージ原理について斬新な説明を試み、前回の講義よりも難易度が高くなったかと心配しましたが、とねさんのご感想には、
「説明が進むにしたがい、ぴったり当てはまってしまうので「あ、これはすごい!」と感心させられてしまった」
とありましたので、成功だったのかもしれません。
また、「orochonzuke」さんも、このブログに
「今回のように、理論的な背景に絞ってお話していただいたほうが、私個人としてはうれしいです」
と書いてくださいました。
質問のレベルが高いのにも、感心しました。たとえば、感想を書いてくださったとねさんも、「ファンデルワールス力」についてご質問されています。
また、「強い力は電磁気力より強く、弱い力は電磁気力よりも弱い」というお話をしたら、「強い力は近づくと弱くなり、電磁気力は近づくと強くなるのだから、強い弱いというときに、どの長さで比較しているのか」とのご質問がありました。
これもとてもよいご質問で、強い力と電磁気力の比較は、CERNのLHCなどで現在行われている素粒子実験で観測される距離での話です。もっと短い距離では強い力と電磁気力の強さが同じになるという説明から、大統一理論や陽子崩壊にまで話が拡がりました。質問に答えていって話が拡がるのは、よい質問の証拠です。
また、「陽子や中性子の質量の99パーセントは強い力のエネルギーである」というお話をしたら、「クォークの間に働く力は引力なので、ポテンシャル・エネルギーは負ではないか」というご質問がありました。
これについては、ポテンシャル・エネルギーをどこから測るのかが問題であるというお答えをしましたが、その場ではうまく対応できませんでしたので、ここでもう少しご説明します。
強い力には漸近自由性という性質があって、クォーク同士が近づくと引力が消えてしまします。そして、「クォークの質量は、陽子や中性子の質量の1パーセントに過ぎない」というときのクォークの質量とは、クォーク同士が近づいたときに測ったものなのです。
そこで、強い力のエネルギーを、クォーク同士が近づきあったときにゼロになるように決めます。クォークを引き離そうとするとポテンシャル・エネルギーが上昇する。そこで、近づいたときと比べると、強い力のエネルギーは正の量になる。このようにご説明すればよかったと、質疑応答終了後に思いつきました。
今回の『強い力と弱い力』の講座では、このほかにも、よい質問をたくさんいただきました。ご参加くださった皆さん、ありがとうございました。
講義の後で、皆さんとお話をする機会もあり、終了したのは午後9時ごろ。それから一服して、羽田空港から夜行便でロサンゼルスに戻りました。
東京のおみやげは、お雛様のお菓子。早速お供えしました。
私はその晩の夜行便で東京に向かうため、プレトリアスさんをCaltechの職員会館に送り届けた後、そのままロサンゼルス空港に。
土曜日の早朝に羽田空港に着きました。午前中は共同研究者との議論など。
昼食を取ってから、東京大学の本郷キャンパスに新しく出来た伊藤国際学術研究センターで開かれているエグゼクティブ・マネジメント・プログラムでの講演に出かけました。左の写真は、参加者専用のサロンの様子。
このプログラムは、
「40代の企業人、公務員、プロフェッショナル等を対象としたもので、日本および世界の大きな地殻変動が予想されるなかで、これからの時代に活躍すべき人材を育成する「場」を提供することが、その目的」
なのだそうです。
私のように基礎科学の研究をしている者の話が役に立つものかと思いましたが、
「ビジネスに直結する知識やスキルには限定せず、それよりも幅広い最先端の自然科学や社会科学などを学んだり、議論したりしています」
「科学者の論理的な思考過程を話していただきたい」
とのことでしたので、お引き受けすることにしました。
『重力とは何か』というタイトルでお話をしました。ところが、直前になって7割から8割の方々が文系と知りました。理系の聴衆を想定した準備をしてきたので動揺しましたが、後に係りの方にお聞きすると、
「難しい研究を楽しそうに話されるのが印象的だった」
「iPS研究と同じで何十年やったからと言って必ずしも結果が出るとは限らないだろう、しかしそれでもやるべき研究であると感じた」
「プレゼンテーションも慣れていて聞きやすかった」
とのコメントがあったとのことでした。
ただし、質疑応答のときのほうが手ごたえがよい感じがしました。講演の内容だけでなく、たとえば
「最近、大学のランキングなどでCaltechの名前をよく聞くが、成功の秘密は何か」
などのご質問もあり、こちらのほうが盛り上がったので、もう少し質疑の時間をとっておけばよかったと反省しました。
また機会がいただけるのでしたら、今回の経験を生かし、もっと参加者に対応した内容を準備していきたいと思いました。
日曜日は、時差のため午前2時に起きて、そのままゆっくり研究。
午後には、三菱一号館美術館で開かれている「奇跡のクラーク・コレクション」展を観にいきました。クラーク美術館はマサチューセッツ州のウィリアムスタウンにあり、普段はなかなか観にいくことができませんが、美術館の改装工事のため、その所蔵品を東京で拝見できるありがたい機会です。ルノワールの美しい世界を堪能しました。
月曜日は、午前9時から午後4時ごろまで打ち合わせ。
そのあと少し休憩して、午後6時30分から、新宿の朝日カルチャーセンターで『強い力と弱い力』と題した講演を行いました。
このブログでも、事前に告知しようと思っていたのですが、開催の2週間まえにほぼ満員になってしまいました。当日は、本来定員100名のところ、机を取り払い、小さいテーブルの付いた椅子を使うことで、120名の方々にご参加いただきました。
朝日カルチャーセンターで講義をさせていただくのは、昨年の2月から4回目です。
昨年10月に朝日カルチャーセンターで開いた講座『ヒッグス粒子とは何か』では、標準模型の完成にいたる歴史に沿ったお話をしました。そのときにご参加くださった方の多くが今回もいらしたので、それと同じような話ではつまらないだろう。前回が歴史に沿った話だったので、今回は論理に沿った話にしようと思いました。
具体的には、電磁気力、強い力、弱い力に共通する原理である「ゲージ原理」と、ゲージ対称性を自発的に破る「ヒッグス機構」について、理論の内容に踏み込んでご説明しました。
この講義については、「とね」さんが早速感想を書いてくださいました。
⇒ とねさんの感想
ゲージ原理について斬新な説明を試み、前回の講義よりも難易度が高くなったかと心配しましたが、とねさんのご感想には、
「説明が進むにしたがい、ぴったり当てはまってしまうので「あ、これはすごい!」と感心させられてしまった」
とありましたので、成功だったのかもしれません。
また、「orochonzuke」さんも、このブログに
「今回のように、理論的な背景に絞ってお話していただいたほうが、私個人としてはうれしいです」
と書いてくださいました。
質問のレベルが高いのにも、感心しました。たとえば、感想を書いてくださったとねさんも、「ファンデルワールス力」についてご質問されています。
また、「強い力は電磁気力より強く、弱い力は電磁気力よりも弱い」というお話をしたら、「強い力は近づくと弱くなり、電磁気力は近づくと強くなるのだから、強い弱いというときに、どの長さで比較しているのか」とのご質問がありました。
これもとてもよいご質問で、強い力と電磁気力の比較は、CERNのLHCなどで現在行われている素粒子実験で観測される距離での話です。もっと短い距離では強い力と電磁気力の強さが同じになるという説明から、大統一理論や陽子崩壊にまで話が拡がりました。質問に答えていって話が拡がるのは、よい質問の証拠です。
また、「陽子や中性子の質量の99パーセントは強い力のエネルギーである」というお話をしたら、「クォークの間に働く力は引力なので、ポテンシャル・エネルギーは負ではないか」というご質問がありました。
これについては、ポテンシャル・エネルギーをどこから測るのかが問題であるというお答えをしましたが、その場ではうまく対応できませんでしたので、ここでもう少しご説明します。
強い力には漸近自由性という性質があって、クォーク同士が近づくと引力が消えてしまします。そして、「クォークの質量は、陽子や中性子の質量の1パーセントに過ぎない」というときのクォークの質量とは、クォーク同士が近づいたときに測ったものなのです。
そこで、強い力のエネルギーを、クォーク同士が近づきあったときにゼロになるように決めます。クォークを引き離そうとするとポテンシャル・エネルギーが上昇する。そこで、近づいたときと比べると、強い力のエネルギーは正の量になる。このようにご説明すればよかったと、質疑応答終了後に思いつきました。
今回の『強い力と弱い力』の講座では、このほかにも、よい質問をたくさんいただきました。ご参加くださった皆さん、ありがとうございました。
講義の後で、皆さんとお話をする機会もあり、終了したのは午後9時ごろ。それから一服して、羽田空港から夜行便でロサンゼルスに戻りました。
東京のおみやげは、お雛様のお菓子。早速お供えしました。
by planckscale
| 2013-02-20 15:32