2013年 03月 03日
大規模公開オンライン講座 |
最近、Caltechの教授会や理事会などでもしばしば取り上げられる話題に、大規模公開オンライン講座があります。
インターネットを通じた講座というアイデアは以前からありましたが、実用化が本格的に可能になってきたかもしれないというのです。上のビデオは、コーセラ社の創業者の一人のダフネ・コラーさんの講演。スタンフォード大学の教授であるコラーさんとアンドリュー・ングさんが始めたコーセラ社の200以上の講座には、すでに全世界で250万人以上の生徒が登録しているそうです。
私が2009年にCaltechと東京大学をビデオ会議施設でつないで行った「先端物理学国際講義」も、UTコースウェアでオンラインで見ることができます。
⇒ UTコースウェアの先端物理学国際講義
これに対し、コーセラ社のシステムには、実際の講座に参加しているような経験を与える工夫に特長があります。
大学の講座のように決まった週に始まって、決まった週に終わります。講義は10分程度の短いビデオになっていて、好きなときに見ることができるが、途中にクイズがあって、それを解かないと先に進めません。
また、宿題や試験もあります。一つの講座に何万人もの生徒が登録しているので、宿題や試験の採点をどうするかは問題です。大学の授業のように、教授や教授補佐(ティーチング・アシスタント)が採点することなどとてもできません。現在はセンター入試のような選択式の問題が主のようですが、参加している生徒同士で採点するなどの方法も試されているようです。
そして、宿題をやって試験に通ると、修了証書が発行されることになっています。
Caltechでも、今年度から試験的に3つの講座をコーセラ社を通じて公開しています。どの講座にも5万人程度の登録があるそうです(ただし、きちんと宿題をやり、試験を受け、修了証書を取れるのは数千人だそうですが)。Caltechは小規模の大学で、毎年300名程度しか学部生が入学してこないので、数万人の講座ということは創立以来のCaltechの卒業生よりも多い生徒を一度に教えることになります。
また、東京大学でも来年度からコーセラ社を通じて2つの講座を公開するそうで、そのひとつはカブリIPMUの村山斉機構長が担当されます。講座名は「ビッグバンからダークエネルギーまで(From the Big Bang to Dark Energy)」。
⇒ カブリIPMUからの大規模公開オンライン講座に関するプレスリリース
まだ、Caltechでも東京大学でも試験段階ですが、これが成功すると高等教育に革命をもたらすことになるかもしれません。
これまで、高等教育を受ける機会がなかった地域の生徒にも、世界最高の教育がとどく可能性がある。また、最近米国では、高等教育にかかる費用が問題になっているので、大規模公開オンライン講座は伝統的な大学と競合することになるかもしれません。
その一方で、少人数を相手にする対面教育には、オンライン講義では得がたい側面もあります。右の写真は、ノーベル賞受賞者であるCaltechのデイビッド・ポリツァーさんが、研究室を通りかかった学部学生に即興の講義をしているところ。このような環境をオンラインで実現することは難しいでしょう。
オンライン講義と対面教育を組み合わせる「反転授業」と呼ばれる試みもあります。これは、「公開講座」ではなく、大学の中で行われます。通常の講義はビデオになっていて、生徒が好きな時間に見る。実際に先生に会うときには、受身で講義を聴くのではなく、質疑や討論をしたり、一緒に問題を解いたりと、対面でなければできない教育を行うということです。
もちろん、ビデオ講義の部分は各大学で独自に作る必要はなく、他の大学の教授の講義を購入することもできます。これが広まると、数学の「微積分」や物理学の「古典力学」のような基礎的な講座、また人文系でも「社会学概論」や「経済学概論」といったどこの大学でも行われている講義はオンライン化されて、一握りのスター教授のビデオを見ることになるのかもしれません。
インターネットの発達によって、既存の出版業界が打撃を受けたように、新技術には意図しない影響というものがあります。大規模公開オンライン講座が広まるようになると、純粋数学やフランス文学といった「すぐには役に立たない」分野の教職が劇的に減少する可能性を心配している人もいます。
たとえば、理科系の分野がある大学はどこでも数学の講義をしなければいけないので、これまでは純粋数学の研究者にも多くの教職がありました。どの大学にいっても数学者がいるということで、数学研究の多様性が保たれてきた部分もあります。
しかし、大規模公開オンライン講座が広まって、大学初年度の数学講義がこれに置き換わると、これまでのような数の数学教授が必要とされなくなるかもしれません。
高等教育に黒船来航ということになるのでしょうか。
インターネットを通じた講座というアイデアは以前からありましたが、実用化が本格的に可能になってきたかもしれないというのです。上のビデオは、コーセラ社の創業者の一人のダフネ・コラーさんの講演。スタンフォード大学の教授であるコラーさんとアンドリュー・ングさんが始めたコーセラ社の200以上の講座には、すでに全世界で250万人以上の生徒が登録しているそうです。
私が2009年にCaltechと東京大学をビデオ会議施設でつないで行った「先端物理学国際講義」も、UTコースウェアでオンラインで見ることができます。
⇒ UTコースウェアの先端物理学国際講義
これに対し、コーセラ社のシステムには、実際の講座に参加しているような経験を与える工夫に特長があります。
大学の講座のように決まった週に始まって、決まった週に終わります。講義は10分程度の短いビデオになっていて、好きなときに見ることができるが、途中にクイズがあって、それを解かないと先に進めません。
また、宿題や試験もあります。一つの講座に何万人もの生徒が登録しているので、宿題や試験の採点をどうするかは問題です。大学の授業のように、教授や教授補佐(ティーチング・アシスタント)が採点することなどとてもできません。現在はセンター入試のような選択式の問題が主のようですが、参加している生徒同士で採点するなどの方法も試されているようです。
そして、宿題をやって試験に通ると、修了証書が発行されることになっています。
Caltechでも、今年度から試験的に3つの講座をコーセラ社を通じて公開しています。どの講座にも5万人程度の登録があるそうです(ただし、きちんと宿題をやり、試験を受け、修了証書を取れるのは数千人だそうですが)。Caltechは小規模の大学で、毎年300名程度しか学部生が入学してこないので、数万人の講座ということは創立以来のCaltechの卒業生よりも多い生徒を一度に教えることになります。
また、東京大学でも来年度からコーセラ社を通じて2つの講座を公開するそうで、そのひとつはカブリIPMUの村山斉機構長が担当されます。講座名は「ビッグバンからダークエネルギーまで(From the Big Bang to Dark Energy)」。
⇒ カブリIPMUからの大規模公開オンライン講座に関するプレスリリース
まだ、Caltechでも東京大学でも試験段階ですが、これが成功すると高等教育に革命をもたらすことになるかもしれません。
これまで、高等教育を受ける機会がなかった地域の生徒にも、世界最高の教育がとどく可能性がある。また、最近米国では、高等教育にかかる費用が問題になっているので、大規模公開オンライン講座は伝統的な大学と競合することになるかもしれません。

オンライン講義と対面教育を組み合わせる「反転授業」と呼ばれる試みもあります。これは、「公開講座」ではなく、大学の中で行われます。通常の講義はビデオになっていて、生徒が好きな時間に見る。実際に先生に会うときには、受身で講義を聴くのではなく、質疑や討論をしたり、一緒に問題を解いたりと、対面でなければできない教育を行うということです。
もちろん、ビデオ講義の部分は各大学で独自に作る必要はなく、他の大学の教授の講義を購入することもできます。これが広まると、数学の「微積分」や物理学の「古典力学」のような基礎的な講座、また人文系でも「社会学概論」や「経済学概論」といったどこの大学でも行われている講義はオンライン化されて、一握りのスター教授のビデオを見ることになるのかもしれません。
インターネットの発達によって、既存の出版業界が打撃を受けたように、新技術には意図しない影響というものがあります。大規模公開オンライン講座が広まるようになると、純粋数学やフランス文学といった「すぐには役に立たない」分野の教職が劇的に減少する可能性を心配している人もいます。
たとえば、理科系の分野がある大学はどこでも数学の講義をしなければいけないので、これまでは純粋数学の研究者にも多くの教職がありました。どの大学にいっても数学者がいるということで、数学研究の多様性が保たれてきた部分もあります。
しかし、大規模公開オンライン講座が広まって、大学初年度の数学講義がこれに置き換わると、これまでのような数の数学教授が必要とされなくなるかもしれません。
高等教育に黒船来航ということになるのでしょうか。


by planckscale
| 2013-03-03 14:02