2013年 05月 11日
トヨタ自動車役員会 |
木曜日には、愛知県豊田市にあるトヨタ自動車本社の役員会で、「重力とは何か」についてお話ししました。米国の大学の多くでは、学部全体に向けたコロキウム(談話会)を毎週開いています。各研究室での専門向けのセミナーだけでなく、もっと広い分野の話題に触れることで、見識を広め、研究の新しい方向を切り開くきっかけにするためです。
私は、Caltechで物理コロキウム委員会の委員長をしていますが、毎年新学期が始まる半年前から、次の年のコロキウムの予定を考えます。
米国では、大学だけでなく、グーグルやマイクロソフトのような企業でも、技術系職員向けにコロキウムを開いているところがあります。私も以前、ヘッジファンドの会社で、超弦理論についてお話ししたことがあります。
トヨタ自動車でも、昨年から役員向けに、2-3ヶ月に1回ぐらいのペースでコロキウムを開いているそうで、私はその第4回目の講師としてお呼びいただきました。
一昨年、ベルギーのブリュッセルで開催されたソルベー会議の100年記念イベントの晩餐会で、トヨタ自動車の豊田章一郎名誉会長と隣の席になりました。そのとき一緒にいらしたトヨタのコンポン研究所の増田義彦所長が私のことを憶えてくださっていたようです。
当日は、まず名古屋駅の近くのトヨタ発祥の地にある産業技術記念館で昼食をいただいてから、博物館の中をご案内いただきました。
ご存知のように、トヨタ・グループは豊田佐吉の紡織事業から始まったので、まず織機の展示があります。
豊田佐吉さんが23歳のときに発明した、「豊田式木製人力織機」の複製を実際に使ってみました(右の写真)。ずらりと並んだ織機のそばに職員の方々が控えていらして、すべて動くようになっているのがすばらしいです。
記念館の見学の後は、豊田市に向かいました。私は岐阜の出身なので、小学校の遠足で豊田市の自動車工場を見学に来たことがあり、今回は2回目です。
本社の入り口ではPCを登録し、インターネットポートを封印し、また写真機は預けることになっているので、本社での写真はありません。
トヨタ自動車には、新しい自動車を開発する技術部、それを生産ラインに乗せる生産部と、事務部の3つの部門があるそうで、今回は技術部でお話をしました。
たとえば、今年の6月からトヨタ自動車の会長になられる内山田竹志さんは、技術部の役員で、初代「プリウス」のチーフエンジニアでもあったそうです。
20名以上の役員ほとんどすべてにお集まりいただきました。大学で工学を専攻された方がほとんどなので、ある程度理科系の知識を仮定したお話をしました。
1時間の講演の後、30分の質疑がありましたがが、時間が足りなくなるくらいさまざまな質問が出ました。
宇宙のマイクロ波背景輻射の起きた仕組みや、その「ゆらぎ」を測る意義。また、その測定などから明らかになった暗黒物質や暗黒エネルギーの存在には興味が集まりました。なぜこのような未知のものが存在すると信じるに至ったのか、暗黒物質と暗黒エネルギーはどのように違うのか、などについて時間をかけてご説明しました。
自動車会社で新技術を開発されている方々ばかりなので、自分の開発した技術が役に立つものであるのかどうかはすぐにわかる。それに対して、基礎科学の分野では、そもそも「わかる」とはどういうことかという話になりました。
また、多重宇宙はあるのか、昨年CERNで発見されたヒッグス粒子とは何かという質問もありました。
「この機会に何でもお聞きください」と申し上げると、「霊魂は存在するのか、死後にも意識はあるのか」というご質問もありました。
物理学の基本法則から始めて、人間の意識がどのように表れるのかを説明することはできていません。しかし、脳の反応に関連するエネルギーの大きさからなど、さまざまな見積もりから、意識というものも、私たちがすでに知っている法則(素粒子の標準理論)から導かれる現象であることは確からしい。そうすると、脳という物理的実体がなくなった後に意識が存在することはありそうにないというお答えをしました。
講演の後は名古屋市内に戻って、夕食会がありました。
空を飛ぶ自動車を作ろうとすると、翼をつけるのでは滑走路が必要なので不便である。そこで、重力そのものを何とかできないものか、というご質問がありました。
電気や磁気の力と違って、重力はさえぎることはできないというお話をすると、では重力はどのように伝わるのかと聞かれます。
そこで、手元にあったメニューを破って、空間が曲がると重力があるかように見える、というご説明をすると、「では、空間の性質を変えればよいのか」ということになりました。
SF好きの方も多くいらっしゃるようで、「そういえばワープ航法というものがあったな」ということになって、ひとしきりそちらの話になりました。
せっかくの機会でしたので、トヨタのような日本を代表する企業は日本の大学教育についてどのようにお考えなのかということをお聞きしました。先週、文部科学省の副大臣や高等教育局の審議官の方などがCaltechを訪問され、日本人留学生も交えて高等教育についての懇談会をしたばかりだったので、そのことが気になっていたのです。
⇒ 文部科学副大臣のCaltech訪問
また、トヨタというのは私が考えていたよりももっとグローバルな企業で、たとえば従業員30万人の中で、日本国籍の人は7万人しかいないのだそうです。驚いていると、「大栗先生も、日本人なのに米国の大学で教えているじゃないですか」と言われました。
拙著 『重力とは何か』 のあとがきでは、フランスの生化学者ルイ・パスツールの、
― 科学には国境はないが、科学者には祖国がある ―
という言葉を引用しましたが、トヨタ自動車の場合には、
― 経済には国境はないが、企業には祖国がある ―
ということになるのでしょうか。
日本の大学も、教育についてももっと国際競争力をつけないと、トヨタのような企業に見放されてしまうのではないかと思いました。
普段お会いする機会のない方々にお目にかかれ、お話をすることができ、楽しい一日でした。ありがとうございました。
by planckscale
| 2013-05-11 13:14









