2014年 03月 17日
原始の重力波 |

発表の内容は明らかではありませんが、英国の『ガーディアン』紙によると、初期宇宙の時空間の量子的な揺らぎを起源とする原始の重力波の存在を、世界で初めて確認したのではないかということです。
BICEPとは Background Imaging of Cosmic Extragalactic Polarization の略で、南極点の近くのアムンゼン‐スコット基地に設置された望遠鏡を使い、138億年前の宇宙の始まりに発せられた、宇宙背景マイクロ波輻射(CMB)の偏光の観測を行うものです。上の写真の右側の望遠鏡が、第2世代のBICEP2です。

残念なことにラングさんは4年前にお亡くなりになりましたが、実験グループがその遺志を継いで、原始重力波の証拠をつかんだのだとすると素晴らしいです。
右の写真はCaltechの工作室からBICEP望遠鏡を運び出すところのもので、左の灰色のシャツがボックさん、右下の端がラングさんですね。
私たちの宇宙は、約138億年前に誕生したとされています。誕生後約38万年の間は高温高密度のプラズマ状態にあり、電子などの荷電粒子に邪魔をされて、光はまっすぐに進むことができませんでした。しかし、宇宙が膨張して温度が下がり、光を遮っていた電子が陽子と結びついて水素原子になると、宇宙が晴れ上がりました。このときの光が、138億年を越えて現在の私たちまでまっすぐに飛んできたものがCMBです。このCMBには、38万歳の若々しい宇宙の姿が残されているのです。
CMBはベル研究所のアルノ・ペンジアスさんとロバート・ウィルソンさんによって発見され、この2人には1978年にノーベル物理学賞が授賞されています。また、初期宇宙の物質の揺らぎがCMBの温度の異方性に反映されている様子は、NASAのCOBE実験によって確認され、この実験を指導したジョン・マザーさんとジョージ・スムートさんには、2006年にノーベル物理学賞が授賞されています。
インフレーション模型は、宇宙の初期条件に関する様々な謎を説明する最も有力な理論です。この理論では、ビッグバンの以前に宇宙が指数関数的に膨張した時期があった(10のマイナス36乗秒の間に、宇宙の大きさが10の26乗倍になった)とされています。この指数関数的な膨張によって、宇宙の初期の物質の揺らぎが引き伸ばされて固定される。これを確認したのがCOBE実験だったと解釈されています。
さて、一般相対性理論によると、重力を伝えるのは時間や空間の歪みです。この理論を量子力学と組み合わせると、物質だけでなく、時間や空間も量子力学の効果で揺らぐと考えられます。そして、インフレーション模型は、この時空間の揺らぎが、重力波となり、宇宙の晴れ上がりまで伝わってくることを予言します。1990年代の理論的研究により、初期宇宙に重力波が存在すると、それはCMBの偏光にB-モードと呼ばれる渦状のパターンを引き起こすことがわかりました。
CMBのB-モード偏光は、原始の重力波以外にも、ビッグバンの後に形成された銀河などの重力によって光の伝わり方が変化することでも起きます。そして、この効果は、すでに南極点望遠鏡でも観測されています。南極点望遠鏡は、このブログ記事の一番上の写真の左側の望遠鏡です。この効果は、南米チリのアタカマ高原で行われているPOLARBEAR実験でも確認されています(この実験には、Kavli IPMUも参加しています)。
原始の重力波の存在を確認したというためには、B-モード偏光からこのような効果をきちんと引き去る必要があります。
『ガーディアン』紙の伝えているうわさでは、BICEP2実験は、原始重力波と起源とするCMBの偏光を確認したのことです。もしこれが正しいとすると、そこには次の4つの意義があると思います。
(1) 原始重力波の確認は、インフレーション模型の検証になる。
インフレーション模型は、宇宙の様々な謎を説明する強力な理論ですが、これまで決定的な証拠が見つかっていませんでした。原始の重力波はインフレーション模型に特有な予言なので、その存在が確認されれば、インフレーション模型が検証されたことになります
(2) B-モード偏光の観測により、インフレーションの機構が明らかになる。
重力波の強さは、インフレーションを引き起こすインフラトンと呼ばれる粒子のポテンシャル・エネルギーや、インフラトンの変動の大きさと関係があります。原始の重力波を原因とするB-モード偏光の性質を調べることで、インフレーションがどのように起きたのか、どのように終わったのかを理解するヒントが得られるはずです。
(3) 量子重力の効果の始めての観測である。
重力の理論(一般相対性理論)と量子力学の統合する量子重力理論の完成は、20世紀からの宿題です。超弦理論はこれ達成する最も有望な理論とされていますが、まだ実験的に検証されていません。原始重力波が確認されたのなら、初期宇宙の量子重力の効果が観測できたことになり、超弦理論のような量子重力理論を検証する道が開けたことになります。
(4) 誕生38万年以前の宇宙の姿を見ることができる。
宇宙の晴れ上がりは誕生の38万年後のことでした。その以前には、宇宙はプラズマ状態にあったので、その状態を光を使って直接観測することはできません。しかし、重力波はプラズマに遮られることなく進みます。ですから、重力波の効果を使えば、宇宙の歴史をさらに遡って観測できるはずです。
明日の発表が楽しみですね。


by planckscale
| 2014-03-17 11:39