2014年 04月 27日
百億光年の三角形 |
上の写真は左がハーバード大学の物理学教室。前回のブログにも、2週間前に訪問したときの写真を載せましたが、今回は桜が満開で、物理学教室の前の木蓮もきれいでした。右上はMITのドームの下。壁に沿って、「科学の進歩と発展のために設立 …」と書いてあります。
右下は、合同理論セミナーでの講演に皆さんが集まっている様子です。写真機を持っていなかったので、一番前の列のカムラン・バッファさんのiPhoneを借りて撮りました。
素粒子論のリサ・ランダルさんや物性理論のスビル・サチデフさんもいらして、いろいろな方面から質問やコメントがあって、今後の研究の参考になりました。
セミナーの後は、ハーバード・スクエアのレストランに。今回はスピーカー・ディナーに40名程度の参加者があって、記録的だったそうです。ハーバード大学とMITの両方を訪れ、いろいろな人と議論することもできて、楽しい出張でした。
さて、先月発表になったBICEP2望遠鏡による宇宙背景マイクロ波輻射の「偏光」の観測と、それによる「原始の重力波」の確認、さらに「インフレーション理論」の検証の可能性について、日経新聞(4月13日朝刊)と朝日新聞(4月21日朝刊)に特集記事が掲載されていました。
左の切り抜きは、上が日経新聞、下が朝日新聞です。
どちらの新聞からも私にコメントの依頼があり、日経新聞には
「物理学の次の理論に向けて期待する。… 研究しているのは物質などの最小単位である素粒子が点ではなくひもと考える超弦理論。物理学者たちは一般相対性理論と量子力学を統合することを大きな目標にしている。つじつまが一番合うのが超弦理論とされるが、実験できないのが難点だった。今回の結果が正しければ、『次世代の精密な観測により、超弦理論を検証する道筋が見えた』と考える。」
と掲載されました。また朝日新聞の記事では、
「物理学者を色めき立たせたのは、それだけが理由ではない。『一般相対論と量子力学の統合を観測した』という意義があるからだ。宇宙が素粒子より小さかった状態で起きたインフレーションは量子力学の世界。これまで観測できていた宇宙はアインシュタインの一般相対性理論の世界。その二つの理論の統一は、物理学者が目指す究極の夢なのだ。『物理学が次のステージに進む』と大栗さんは興奮を隠さない」
と引用していただきました。どちらも、しっかり調査をして、丁寧に書かれたよい記事だと思いました。図版にも力が入っていました。
幻冬舎のウェブマガジンで連載している数学エッセイ「数学の言葉で世界を見たら」で、今日配信になった「宇宙の形を測る 後編」でも、宇宙背景マイクロ波輻射の観測に触れました。
前回配信したエッセイでは、私が小学校のときに、名古屋の中日ビルの屋上にあった回転展望レストランから地平線を見て、地球の大きさを測った話をしました。このときに使ったのは、中日ビルの1階と屋上という2つの点、そして地平線の1点。この3つの点を結ぶ直角三角形です。このように、物の形や大きさを測るためには、三角形を考えると役に立ちます。
1990年代の終わりから2000年代の初めにかけて行われた宇宙観測によって、私たちの宇宙は空間方向にほぼまっ平らだということがわかりました。宇宙の形を決めるためには、宇宙の中に大きな三角形を描く必要があります。私たちは地球を遠く離れることができないのに、どうしたら宇宙に三角形が描けるのでしょうか。
そこで使われたのが、宇宙背景マイクロ波輻射です。このマイクロ波は、宇宙が誕生して37万年後に発せられたもので、その後138億年をかけて地球に届きました。そこで、地球から見て違う方向のマイクロ波の様子を観測し比べれば、138億年前の宇宙の2つの点と、現在の地球とを結ぶ、一辺が百億光年程度の大きな三角形を宇宙に描くことができます。
宇宙背景マイクロ波の観測実験によって、この大きな三角形の内角の和が180度だということが確かめられ、宇宙が平坦だと判定されたのです。
これは10年前の発見でしたが、今回のBICEP2望遠鏡の観測では、宇宙の始まりをさらに遡って、宇宙誕生の1兆×1兆×1兆秒後に、宇宙のかたちが量子力学的にゆらいでいる様子がわかりました。
最近の宇宙物理学の観測の発展はすばらしいと思います。今後も様々な観測が予定されているので、楽しみです。
『数学の言葉で世界を見たら』 連載の第12回の記事はこちらから。
⇒ 第12回 :宇宙のかたちを測る 後編
次回第13回の配信は5月12日(月曜日)の予定です。お楽しみに。
by planckscale
| 2014-04-27 07:20