2014年 05月 12日
アルキメデスの失われていた写本 |
Caltechの近くにあるハンチントン図書館で、アルキメデスの「失われていた写本」の展示があったので、見学に行きました。
古代世界最高の科学者のひとりといわれるアルキメデスは、積分の方法をパピルスに書き記し、アレクサンドリアの大図書館の館長であったエラトステネスに送ったといわれています。
この手紙は次のように始まっています:
「エラトステネス君、僕は君が勤勉で、哲学のよき教師であり、また数学の研究に大いに興味を持っていることを知っているので、僕が見つけた特別な方法を書き送ることにした。ここで説明する方法を使って、僕らがまだ知らない定理を見つけることができる人が、現在もしくは将来に現れるだろうと思う。」
この書き出しのため「方法」として知られているこの手紙が、図書館に保管されていたことは、300年後の紀元1世紀に数学者で工学者のへロンが借り出して読んだという記録からわかっています。アルキメデスが友人たちに送った手紙の多くは、ローマ帝国の崩壊とともに散逸してしまいましたが、その一部はビザンチン帝国の時代に羊皮紙に写本されました。これらの写本も1204年に首都コンスタンチノープルが十字軍によって略奪されたときに持ち去られ、その後の行方がわかっているのは三冊だけです。その一冊は1311年以来行方不明、もう一冊はルネサンスの時代にレオナルド・ダ・ビンチなどにも影響を与えたといわれていますが、1564年以降の記録はありません。
現在、私たちがアルキメデスの「方法」を直接知ることができるのは、最後に残された三冊目の写本のおかげです。この写本は20世紀の初めに発見され、それを解読したヨハン・ハイベルクによって、アルキメデスの数学の全貌が明らかになりました。その後、一時行方不明になっていましたが、1998年にクリスティーズのニューヨーク競売場に現れ、匿名の個人が落札しました。上の写真が、その失われていた写本です。
彼は、写本を購入しただけでなく、その補修と解読に多額の費用を投じ、現在ではそのデジタル・イメージをウェブで見ることもできます。
この写本を目の前で見ることができる、素晴らしい展示でした。
さて、幻冬舎のウェブマガジンで連載している数学エッセイ「数学の言葉で世界を見たら」の今回と次回は、いよいよ「微積分」です。
高校の数学では、ほとんどの教科書で、まず微分を説明した後で、その逆の操作として不定積分を導入します。そして、面積を計算するための定積分は、不定積分の差として定義されます。しかし、歴史的な発展は全く逆でした。
アルキメデスが面積の計算としての積分を研究したのは紀元前3世紀で、ニュートンやライプニッツが微分の方法をあみだしたのは17世紀。その間には1800年以上の時がたっています。
というわけで、今回の話では、積分を先に説明します。高校で微積分を勉強してチンプンカンプンだった人も、これから微積分に取り組もうという人も、「積分から先に」を試してみませんか。
『数学の言葉で世界を見たら』 連載の第13回の記事はこちらから。
⇒ 第13回 :微積は積分から 前編
次回第14回の配信は5月27日(火曜日)の予定です。お楽しみに。
古代世界最高の科学者のひとりといわれるアルキメデスは、積分の方法をパピルスに書き記し、アレクサンドリアの大図書館の館長であったエラトステネスに送ったといわれています。
この手紙は次のように始まっています:
「エラトステネス君、僕は君が勤勉で、哲学のよき教師であり、また数学の研究に大いに興味を持っていることを知っているので、僕が見つけた特別な方法を書き送ることにした。ここで説明する方法を使って、僕らがまだ知らない定理を見つけることができる人が、現在もしくは将来に現れるだろうと思う。」
この書き出しのため「方法」として知られているこの手紙が、図書館に保管されていたことは、300年後の紀元1世紀に数学者で工学者のへロンが借り出して読んだという記録からわかっています。アルキメデスが友人たちに送った手紙の多くは、ローマ帝国の崩壊とともに散逸してしまいましたが、その一部はビザンチン帝国の時代に羊皮紙に写本されました。これらの写本も1204年に首都コンスタンチノープルが十字軍によって略奪されたときに持ち去られ、その後の行方がわかっているのは三冊だけです。その一冊は1311年以来行方不明、もう一冊はルネサンスの時代にレオナルド・ダ・ビンチなどにも影響を与えたといわれていますが、1564年以降の記録はありません。
現在、私たちがアルキメデスの「方法」を直接知ることができるのは、最後に残された三冊目の写本のおかげです。この写本は20世紀の初めに発見され、それを解読したヨハン・ハイベルクによって、アルキメデスの数学の全貌が明らかになりました。その後、一時行方不明になっていましたが、1998年にクリスティーズのニューヨーク競売場に現れ、匿名の個人が落札しました。上の写真が、その失われていた写本です。
彼は、写本を購入しただけでなく、その補修と解読に多額の費用を投じ、現在ではそのデジタル・イメージをウェブで見ることもできます。
この写本を目の前で見ることができる、素晴らしい展示でした。
さて、幻冬舎のウェブマガジンで連載している数学エッセイ「数学の言葉で世界を見たら」の今回と次回は、いよいよ「微積分」です。
高校の数学では、ほとんどの教科書で、まず微分を説明した後で、その逆の操作として不定積分を導入します。そして、面積を計算するための定積分は、不定積分の差として定義されます。しかし、歴史的な発展は全く逆でした。
アルキメデスが面積の計算としての積分を研究したのは紀元前3世紀で、ニュートンやライプニッツが微分の方法をあみだしたのは17世紀。その間には1800年以上の時がたっています。
というわけで、今回の話では、積分を先に説明します。高校で微積分を勉強してチンプンカンプンだった人も、これから微積分に取り組もうという人も、「積分から先に」を試してみませんか。
『数学の言葉で世界を見たら』 連載の第13回の記事はこちらから。
⇒ 第13回 :微積は積分から 前編
次回第14回の配信は5月27日(火曜日)の予定です。お楽しみに。
by planckscale
| 2014-05-12 06:08