2016年 06月 05日
中日文化賞贈呈式 |
金曜日には、名古屋の中日ビルで、中日文化賞の贈呈式と祝賀会がありました。贈呈式では、私とともに受賞された東京大学宇宙線研究所所長の梶田隆章さん、詩人で文芸評論家の北川透さん、名古屋大学大学院理学研究科教授の森郁恵さんの、各々熱のこもったスピーチをお聞きすることができました。
また、祝賀会の最中には、直前の贈呈式の記事が掲載された夕刊が配られるという、新聞社ならではの素敵な趣向もありました。左の写真が、そのときに配られた夕刊の記事です。
贈呈式の記事と私のインタビュー記事です。
⇒ 贈呈式記事
⇒ インタビュー記事
また、贈呈式の翌日の朝刊のコラム記事「中日春秋」(東京新聞では「筆洗」)にも、私が受賞スピーチでお話ししたエピソードが取り上げられていました。
⇒ コラム記事
コラムの締めくくりの、「想像力で命を吹き込まれることを静かに待っている事実や知識が、私たちのまわりには、満ちあふれているのだろう」というくだりは、まさしく私がお話しした体験で感じたことでした。
いただいた賞状は、「日本の伝統を踏まえた新しい和紙芸術の創造」で2014年に中日文化賞を受賞された加納俊治さんの工房で漉かれた和紙を使っているそうです。加藤さんは残念ながら昨年お亡くなりになり、今回の和紙はその工房を受け受け継がれたご長女ご夫妻によって漉かれたそうです。土佐の楮(コウゾ)と秋田の楮、越前の雁皮を漉き重ねた特別な紙で、1,000年もつ強さだとのことでした。
以下に、私の受賞スピーチの原稿を添付します。
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歴史と伝統のある中日文化賞を受賞させていただき、光栄に思います。私は岐阜市の出身で、高校まで岐阜で教育を受け、中部地方には沢山のゆかりがあります。また、我が家では中日新聞を購読していましたので、子供のころから読んでいた新聞から賞をいただいたことを、とりわけ嬉しく思います。この中日ビルにも、子供のころ、よく両親に連れてきてもらいました。中日ビルの後は、3筋ほど西に行った丸栄デパートに行くのがお決まりでしたので、まだ保育園児だったときに、親を置いて、1人でさっさと丸栄デパートに行ってしまったことがあります。ところが、いつまで待っても親が来ないので、中日ビルにもどると、守衛の人が外に待っていて「大栗君だろう」と呼びかけられて保護されました。というわけで、中日ビルの守衛さんには恩があります。
また、これは今回の授賞記事に書いていただいたエピソードですが、小学生の時に、中日ビルの屋上にあった回転展望レストランから地球の大きさを測ったことがあります。地平線のあたりに父の故郷が見えるので、聞いてみると、20キロぐらい先だと言います。学校でならっていた図形の性質を使うと、地平線までの距離の自乗は、地球の半径とビルの高さの積であることを思いつきました [脚注]。ウルトラマンの身長が40メートルということは知っていたので、中日ビルはそれより少し高い50メートルぐらいでしょう。そこで、地平線までの距離が20キロということを使えば、地球の半径は、20キロの自乗・割る50メートルで、8,000キロだと計算できます。実際は6,400キロなのでちょっと長めですが、それほど悪くない。観察と思考の力によって、「窓から見える景色だけで、地球の大きさがわかる」ことは素晴らしいと、強い印象を受けました。
そのようなところから始まって、いまでは、地球の大きさではなく、宇宙の形を解明する研究をしています。この分野では、今後10年の間に、実験や観測によって理論の検証が大きく進むことが期待されています。たとえば、今回受賞された梶田さんが中心となって建設が進んでいる重力波望遠鏡KAGRAが完成すれば、宇宙観測に新しい窓が開けるとともに、アインシュタインの重力理論を、強い重力場のもとで検証することができるようになるでしょう。また、昨年より日本学術振興会の「加速宇宙」という新学術領域に参加しておりまして、宇宙の観測や実験をしている研究者たちと協力して、理論の検証を目指しています。さて、今回受賞させていただいた中日文化賞は、日本国憲法の施行を記念して制定されたものだとお聞きしています。私たち基礎科学の研究者が、自らの好奇心の赴くままに研究をすることができるのも、日本が70年以上にわたって平和を保ってきたおかげです。戦後の荒廃から立ち上がり、今日の繁栄する社会を築き上げてくれた私たちの親や先輩の世代に感謝するとともに、この文明をさらによいものにして未来の世代に手渡したいという思いを強くしています。
これまで育ててくれて、また私の好きなように勉強をさせてくれ、夢をかなえさせてくれた両親に、感謝の気持ちを伝えたいと思います。また、今年はちょうど私と妻の銀婚式に当たる年であり、これまで支えてきてくれた妻にも感謝します。本日は、誠にありがとうございました。
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[脚注] 小学生であった私は、小学校で習った三角形の相似の考え方を使って、右の図のようにして、距離の比例関係を導きました(詳しくは、拙著『数学の言葉で世界を見たら』の補遺をご覧ください)。
今回の贈呈式に、3年前に中日文化賞を受賞された小澤正直さんがお越しになり、祝賀会の歓談のときに、中学校の学習指導要領にあるピタゴラスの定理を使えば、
(地平線までの距離)×(地平線までの距離)
= 2×(地球の半径)×(ビルの高さ)
というように、右辺の2倍の係数まで導くことができることをご指摘くださいました。
実はこれも近似式で、高等学校で学ぶ三角関数を使うと、正確な式は、
cos[(地平線までの距離)÷(地球の半径)]
= (地球の半径)÷[(地球の半径)+(ビルの高さ)]
と表現されます。この式で、(地平線までの距離)÷(地球の半径) が小さい数だとして、左辺の cos をティラー展開の2次までで打ち切ると、上の近似的な式になります。
by PlanckScale
| 2016-06-05 14:12









