2016年 10月 06日
量子重力の沼地問題 |
先週は、カブリIPMUのシンポジウムの他にも、楽しいイベントに参加する機会がありました。金曜日には、南青山のギャラリーで、写真芸術家の片桐飛鳥さんの個展のオープニング企画として、私の簡単な講演の後に片桐さんとの対談がありました。
片桐さんは、天文少年だったそうで、天体の写真撮影から芸術の方に向かわれたのだそうです。講演・対談の前には、片桐さんから作品の解説をしていただいて、貴重な機会でした。
参加されたのはもっぱら芸術関係の方々でしたが、片桐さんからのご報告によると、
「トークは予想していたより分かり易くて勉強になりました」
「普段使ってない脳の部分が刺激されて素敵な時間でした」
「対談は難しかったけれど、とても素晴らしかった」
という反響があったそうで、楽しんでいただけたようでよかったです。
土曜日には、サントリー財団の「社会と科学研究会」でお話をしました。こちらは、もっぱら科学史・科学哲学の関係の方々の研究会で、私にも頭の体操になりました。
9月17日から11月20日まで、茨城県北部の様々な会場で、茨城県北芸術祭「KENPOKU ART 2016」が開催されていますが、その公式ガイドブックで、芸術祭キュレーターの四方幸子さん、出展アーティストの一人の落合陽一さんと、「アートとサイエンスの可能性」というテーマで鼎談をしました。右の写真が公式ガイドブックです。
落合陽一さんは筑波大学の助教をされていて、超音波を使って物体を宙に浮かせて自在に動かす「三次元音響浮揚」など、計算機とアナログなテクノロジーを組み合わせた視覚的・触覚的作品を創作されているそうです。
私は芸術は素人なので、キュレータの四方さんに、
「現代芸術では普通の人が見ても理解できないということがありますが、そのようなときにはどうしたらよいでしょうか」
というぶしつけな質問もさせていただきましたが、丁寧にご対応いただき、
「アートは答えではなく、問いを提示することだと思っています」
というご返事をいただきました。これからは、作品から問いを受け取るつもりで観てみようと思います。
今日は、プレプリントの電子アーカイブ「arXiv」に、ハーバード大学のカムラン・バッファさんとの共著の論文を掲載しました。"Non-supersymmetric AdS and the Swampland"
Swampland(沼地)というのは、いわゆる超弦理論の「ランドスケープ」の補集合で、重力を含む理論模型の中で整合性のある量子理論に組み込むことができないものの集まりのことです。
重力を含まない場の量子論の場合には、くりこみ可能な有効理論は、必ず何らかの量子論に矛盾なく組み込むことができます。しかし、重力の場合には低エネルギー有効理論に非自明な制限があって、それを明らかにしようというのが「沼地問題」です。
私は、以前からバッファさんと、この沼地問題を研究していて、ちょうど10年前にも一つ論文を書いています。
"On the geometry of the string landscape and the swampland"
沼地問題については、これまで、「重力の強さは、それ以外の力の強さ以下である」、つまり 「重力よりも弱い力はない」 という予想がありました。この予想は、宇宙のインフレーション時代の理論模型について制限を与えるなど、重要な予想です。
今回の論文では、これを拡張して、「超対称性を持たない理論では、重力の強さは、それ以外の力の強さ未満である」、つまり 「重力は最も弱い力である」 という予想を提案しました。
「以下」と「未満」の違いだけですが、この予想を認めると、
「反ドジッター(AdS)時空間は、超対称性を持たない状況では不安定になる」
ということが論理的に導かれてしまいます。
AdS/CFT対応は、物性物理学、量子情報理論、ハドロン物理学など、理論物理学の様々な分野に応用されていますが、その多くは超対称性を持たない状況を想定しているので、これらがすべて不安定だということになると、AdS/CFT対応の応用にも重大な影響があると思います。
というわけで、かなり大胆な予想を発表してしまいましたが、「予想を立てるときには、反証される可能性をできるだけ大きくするのがよい」と思っているので、このような予想としました。
by PlanckScale
| 2016-10-06 12:32









