2018年 08月 05日
String-Math 2018 |
6月18日ー22日には、東北大学の知のフォーラム(Tohoku Forum for Creativity)で、String-Math 2018 を開催しました。
String-Mathは2011年から毎年開かれている国際会議で、弦理論と数学の諸分野との交流を促進することを目的にしています。今回は、参加者が232名と、過去8回の中で最も大きな会議となりました。
異分野の交流を促進するため、パラレルセッションは設けず、プレナリー講演だけのプログラムとしました。若手にも発表の機会を与えるために、ポスターセッションを開くことにしたところ、63件もの応募があったので、その中で選りすぐった15名には5分の口頭発表もしてもらいました。
今年は、丘成桐(シン‐トン・ヤウ)さんによるカラビ予想の証明の40周年、エドワード・ウィッテンさんのトポロジカルな場の量子論の論文の30周年、また、マイケル・ベルシャドスキーさん、セルジオ・セコッティさん、カムラン・バッファさんと私のトポロジカルな弦理論の論文(いわゆるBCOV論文)の25周年でしたので、会議の最終日には記念のセッションを開き、ヤウさんの特別講演で締めくくりました。右の写真は、会議終了後の夕食会で撮りました。左からヤウさん、つぎにBCOVの順番で並んでいます。
4月のインドのムンバイで行った一般講演の日本語版で、30分の講演の後、科学映画『9次元からきた男』の上映、その後質疑という順番でした。
今回 String-Math 2018を開催させていただいた東北大学の研究は、弦理論をはじめとする数理物理学の諸分野に大きな影響を与えてきました。
たとえば、佐々木重夫さんの、いわゆる「佐々木多様体」の理論は、超弦理論の特にAdS/CFT対応の構成、その物性物理学の問題などへの応用、さらには、いわゆる弦理論のランドスケープの理解に大きな役割を果たしています。
AdS/CFT対応では、超弦理論におけるブレーンの近くの時空間の幾何学の性質が重要になります。特に、ブレーンがカラビ‐ヤウ多様体の部分多様体の上に置かれているときには、その近くの時空間が、佐々木‐アインシュタイン多様体と、反ドジッター空間と呼ばれる対称空間との直積になることが、AdS/CFT対応の発見直後の1998年にディビッド・モリソンさんとロネン・プレッサーさんによって指摘されました。
これにより、量子重力のホログラフィー原理の多くの例で、佐々木多様体が登場することが明らかになったのです。以来、佐々木多様体は、物性物理学や流体物理学、ハドロン物理学をはじめとする理論物理学の諸分野へのAdS/CFT対応の応用、また、まだその性質が明らかになっていないM理論のメンブレーンに関する理論的研究に大きな役割を果たしてきました。
また、宇宙の暗黒エネルギーの本性を理解するヒントと考えられている「超弦理論のランドスケープ」の研究でも、その具体例の構成において佐々木多様体は基本的な役割を果たしています。
淡中次郎さんの双対性定理は幾何学と解析学をつなぐ基本的な定理です。それをグロタンディークが発展させた淡中圏の理論は、2次元の共形場の理論の分類問題や、物性物理における(2+1)次元のトポロジカルな相の分類、さらにはそれを使った量子計算の理論に重要な役割を果たしています。
私が最初に淡中圏の理論について知ったのは、1989年のグレゴリー・ムーアさんとネーサン・サイバーグさんの2次元の共形場の理論の分類に関する問題です。 2次元の共形場は、2次元のくりこみ群の固定点で現れる理論で、物性における相転移の理論から、素粒子論における場の量子論の分類、また超弦理論の運動方程式の解の構成などで基本的な役割を果たすものです。ムーアさんとザイバーグさんは、このような 共形場の理論の分類の問題が、淡中圏の言葉を使うとスッキリと表現できることを示しました。
2次元の共形場は、(2+1)次元のトポロジカルな場の量子論と密接な関連があり、これを使ったトポロジカルは相の分類が物性物理学や量子計算によって盛んに研究されています。文小剛(シャオ‐ガン・ウェン)さんなどの著名な論文にも、 淡中圏が登場します。
佐々木さんや淡中さんのこうした研究は、半世紀以上前に、純粋に数学への知的好奇心から研究されたものです。
これが、半世紀を超えて物理学の様々な分野における重要な応用を持ってきていることは、プリンストンの高等研究所の初代所長のアブラハム・フレクスナ―が強調した「役に立たない研究の効用」のよい例だろうと思います。
この言葉は、2012年に、日本数学会の『数学通信』に寄稿した巻頭言に使わせていただいたことがあります。
⇒「役に立たない研究の効用」
このように、弦理論と数学との接点で大きな成果をあげてきた東北大学で、今回 String-Math 2018 を開催できたことには、大きな意義があったと思います。
今回の会議では、東北大学の皆さんにとてもお世話になりました。ありがとうございました。
by PlanckScale
| 2018-08-05 09:38











