2019年 04月 21日
1月から4月まで |
年末にブログ記事を書いてから、すでに3か月半がたちました。話題がたまってしまったので、まとめて書きます。
上の写真は、ちょっと暗いですが、シンポジウムの集合写真です。
今回は、加速器物理学の現状と将来の展望に焦点を当てた研究会で、Kavli IPMUでは将来計画を検討中なので、私にとってもちょうどよい機会でした。
事務系スタッフとの新年昼食会などの後、一度ロサンゼルスに戻りました。
ロサンゼルスのベニス・ビーチにあるGoogle LAで「機械学習と量子重力のホログラフィー原理」に関するシンポジウムに出席しました。

その翌週には、私が所長をしているアスペン物理学センターの「機械学習のための理論物理学」の研究会に参加しました。

上の写真は、研究会の会期中にアスペンのオペラハウスで行われた科学アウトリーチのイベントの様子です。
「物理学のための機械学習」をテーマにした会議はよく行われていますが、その逆に、理論物理学の手法から機械学習の仕組みを理解しようという試みです。
その次の週には日本に戻って、日本学術会議の天文関係の分科会にオブザーバーとして参加しました。

上の写真は、審査委員会が開かれた日経ビルの会議室から撮りました。


スーパーカミオカンデでは、Kavli IPMUのマーク・ベィギンズさんらが考案した純水にガドリニウムを混ぜて効率を上げる計画が進行中で、昨年から水を抜いて補修作業をし、水を入れなおしていました。
ちょうど私が訪問をした日に、水が満杯になったので、上の1枚目の記念写真に入れていただきました。後ろの列で一人だけ半そでのシャツを着ているのがベィギンズさんです。この計画については、ネイチャー誌にもニュース記事として取り上げられてました。
また、Kavli IPMUは参加していませんが、宇宙線研究所が中心になって建設中の重力波天文台KAGRAも見学しました。上の2枚目の写真は、KAGRAの3キロの真空パイプに沿って移動中の様子です。今年中には稼働を始めるそうなので、楽しみです。

忌憚のない意見が聞けるように、指導教官抜きで、私とKavli IPMUの事務部門長だけが参加しました。
2月の最初の週には、国立天文台の常田佐久台長のKavli IPMUご訪問もありました。

上の写真は、オックスフォード大学教授のサクラ・シェファー=ナメキさんの講義の様子です。

上の写真は、シカゴ大学での私の専門講演(上)とコロキウム講演(下)のアナウンスです。
シカゴ大学では、Kavli研究所の所長のマイケル・ターナーさんと、Kavli IPMUとの連携についてご相談することもできました。
コーネル大学とシカゴ大学訪問の後は、シカゴ市の北のエバンストン市にあるノース・ウェスターン大学で開かれたアスペン物理学センターの夏のプログラムの選考会議に出席しました。
アスペンの夏のプログラムには、世界各地から1000名程度の物理学者が応募してくるので、毎年2月の後半に選考会議があります。今年はノース・ウェスターン大学の先生が選考委委員長をなさったので、そこで委員会がありました。様々な分野から10名が委員として参加し、1000名の応募者の中から600名程度を選びます。
世界中から選りすぐりの物理学者が応募してくるので、10名の委員が2日間缶詰になって議論します。私はアスペン物理学センターの所長をしているので、選考が厳正に行われていることを確認し、また、選考過程で出てくる様々なケースについて判断をするために参加しました。
アスペン物理学センターの夏のプログラムには、最低2週間は参加することが期待されており、それ未満の参加は原則お断りしてきました。研究発表のために来るのではなく、長期滞在し参加者とゆっくり議論をして新しい研究成果を出すことが夏のプログラムの目的だからです。しかし、2週間以上の参加は、育児などのために長期に家を空けることが難しい研究者に不利だという声がありました。特に、女性の参画を妨げるものになるという心配もあり、昨年度、特別委員会を立ち上げて、この規則を再検討しました。今年度から、2週間未満の参加についても、限られた数について許すことにし、そのための厳格な規則を作りました。今回の選考会議は、この規則が初めて当てはめられる機会でしたが、うまく機能したようでほっとしています。
世界中から選りすぐりの物理学者が応募してくるので、10名の委員が2日間缶詰になって議論します。私はアスペン物理学センターの所長をしているので、選考が厳正に行われていることを確認し、また、選考過程で出てくる様々なケースについて判断をするために参加しました。
アスペン物理学センターの夏のプログラムには、最低2週間は参加することが期待されており、それ未満の参加は原則お断りしてきました。研究発表のために来るのではなく、長期滞在し参加者とゆっくり議論をして新しい研究成果を出すことが夏のプログラムの目的だからです。しかし、2週間以上の参加は、育児などのために長期に家を空けることが難しい研究者に不利だという声がありました。特に、女性の参画を妨げるものになるという心配もあり、昨年度、特別委員会を立ち上げて、この規則を再検討しました。今年度から、2週間未満の参加についても、限られた数について許すことにし、そのための厳格な規則を作りました。今回の選考会議は、この規則が初めて当てはめられる機会でしたが、うまく機能したようでほっとしています。

選考会議が終わった後、午後に時間があったので、エバンストン市の中ににあるバハーイー教の寺院に行ってみました。1989年にシカゴ大学の助教授に着任した時に、南部洋一郎先生が車でシカゴの周りを案内してくださったことがありました。その時に立ち寄った場所のひとつがこの寺院で、建物に強い印象を受けたので、もう一度行ってみたいと思っていました。
上の写真です。レースがきれいですね。

上の写真は、シンポジウム最後のスピーチをしている様子です。
Kavli IPMUでは、すでにXMASSというダークマター探索実験を行ってきており、最近はイタリアのグランサッソ―施設で行われているXENON実験にも参加しています。このような大規模実験とともに、最近は精密量子測定技術を使った小規模実験によるダークマターやその他の素粒子の標準模型を超える物理現象の探索が注目されています。Kavli IPMUの長期計画委員会でも議論になっているので、この分野の指導的研究者を集めたシンポジウムを開き、この方面の研究の現状と展望を議論しました。

授賞式の後のレセプションでは、受賞者の皆さんとお会いし、ゆっくりお話をすることもできてよかったです。
また、星新一さんのご令嬢と小松左京さんのご令息にお会いすることもできました。上の写真です。
レセプションに先立つ授賞式では、一般部門で優秀賞(旭化成ホームズ賞)を受賞されたマウチさんの作品「不安」と、グランプリ(星新一賞)を受賞された梅津高重さんの作品「SING×レインボー」について、講評をしました。
この記事の最後に、講評を再録しておきます。

3月の初めには、私も参加している科研費新学術領域研究「なぜ宇宙は加速膨張をするのか?-徹底的究明と将来への挑戦ー」の国際シンポジウムの最初に講演をしました。
また、その週の後半にはKavli IPMUが支援を受けているWPIプログラムのプログラム・ディレクターとプログラム・オフィサーの拠点視察があり、計画の進捗状況についてご報告しました。
また、カブリ財団の新しい科学プログラム担当副理事長になられたケビン・モーゼスさんのご訪問もありました。
3月の半ばには、米国連邦政府の依頼でワシントンDCで業務がありました。
また、その次の週には、昨年お亡くなりになったカリフォルニア大学バークレイ校のマーティン・ハルパーンさんの追悼シンポジウムがあり、講演しました。ハルパーンさんには、1990年代半ばからバークレイ校の教授をしたときにお世話になりました。
ハルパーンさんの追悼シンポジウムの後は、サンフランシスコ空港から東京に向かいました。
4月の最初の週でしたので、まずは、Kavli IPMUの新しい研究員の辞令交付。

また、Kavli IPMUでコロキウム講演を行いました。
米国の大学のコロキウムでは、物理学教室なり数学教室なり天文学教室なりの中の個別の分野の専門講演でなく、教室の構成員全体(学部生から教授まで)の幅広い聴衆に伝わるような講演が求められます。
コロキウムには、物理学なり数学なり天文学なりの研究の現状について幅広い情報を伝え、新しい研究の方向へのアイデアを促す。また、コロキウムに参加している他の分野の研究者と交流する機会を与える、という様々な役割があります。
そこで、コロキウム委員を刷新し、上記の目的に合ったスケジュールを組んでもらうことにしました。Kavli IPMUの研究者の間の交流を促すために、所外だけでなく、所内の研究者による講演も数多く予定されています。

Kavli IPMUでは、コロキウム講演者が、コロキウムが開始されるときに、ティータイムが開かれている藤原交流広場のドラを鳴らすことになっています。上の写真は、私が、コロキウム開始のドラを鳴らしているところです。

上の写真は、午後3時に行われる Kavli IPMU 恒例の藤原交流広場におけるティータイムにご案内しているところです。

タイトルは「変容する暗黒エネルギー 超弦理論が示す新たな予想」。
この特集で取り上げられた論文は、私がバッファさんと2006年以来研究している「スワンプランド問題」の一環として書かれたものですが、宇宙論や素粒子論にも幅広いインパクトがあったようです。素粒子物理学の論文データベース Inspires によると、2018年に発表された素粒子論の論文の中で、被引用件数が一番高かったのは私たちの論文だったそうです。

また、プリンストン大学のハミルトン・コロキウムで講演しました。講演のビデオは、こちらから見ることができます。
上の写真は、同じ日にハミルトン一般講演会でお話をなさったコロンビア大学教授でKavli IPMUも参加しているダークマター実験XENONの代表者を務められているエレナ・エイプリルさんとの写真です。
私のハミルトン・コロキウムと、エイプリルさんのハミルトン一般講演会が同じ日に行われたので、その間にレセプションがあり、その時の写真です。

研究会の初日には、世界各地の電波望遠鏡のネットワーク「イベント・ホライゾン望遠鏡」が撮影した、M87星雲の中心の超巨大ブラックホールの影絵が発表されたました。研究会でもその記者会見のビデオ配信を視聴しました。
上の写真の中央は、私の隣でご覧になっていたジョセフ・テイラーさん。連星パルサーからの重力波の間接観測でノーベル賞を受賞されています。
このニュースをお聞きになってブラックホールに興味を持たれた方のために、拙著『重力とは何か』のブラックホールのついての解説の部分が、幻冬舎のウェブページのこちらから、無料公開されています。


星新一賞授賞式での講評
優秀賞(旭化成ホームズ賞)「不安」
私が教鞭をとっているカリフォルニア工科大学の教授を務めたセオドア・フォン・カルマンは、「科学がこの世界を発見する学問であるのに対し、工学はこれまでなかった世界を創造する学問である」という言葉を残しています。
フォン・カルマンは、流体力学という基礎科学の分野でも重要な業績を挙げていますが、航空機産業や宇宙工学の発展に貢献したことでも知られています。この言葉からは、彼が工学における業績によって、社会に大きな影響を与えたことを誇りに思っていたことがうかがえます。
この科学と工学の比較を小説にあてはめますと、通常の文学作品が、私たちのこの世界、存在している・もしくはかつて存在していた世界のあり方に新しい光を当て、この世界に対する私たちの見方を変えることを目的とするのに対し、サイエンス・フィクションは、私たちの世界とは前提の異なる社会を、論理的に構築して見せるものだといえるでしょう。
前提を変えるだけなら、ファンタジー作品も含まれることになりますが、そこに論理性や理系思考がもたらす独特な説得力のあることが重要だと思います。星新一の作品の多くには、このように前提の異なる世界の中での人々のふるまいを描くことで、人間の愚かさのようなものを浮かび上がらせるというテーマのものも多くみられます。
旭化成ホームズ賞を受賞した作品「不安」は、このような星新一のテーマを継承したものです。発明が、意図した目的とは異なる影響を社会に与え、話がどんどん拡がっていく様子も、星が書いたのかと思わせるようなスタイルで楽しく読みました。主人公の社長が、ステレオタイプではなく、その人物像が深く書き込まれているところも好感が持てます。今回拝見した応募作の中でも、ショート・ショートの王道を行く作品になっていると思います。
グランプリ(星新一賞)「SING×レインボー」
私は、今回審査員をさせていただくにあたって、星新一賞のウェブサイトのために次のような文章を書きました。講評をさせていただくまえに、その一部を読みたいと思います。
数学では、「公理」と呼ばれる仮定を置いて、これを前提として論理を積み重ね、定理を導きます。異なる公理から始めると異なる定理が導かれます。たとえば、平面上の図形に関するユークリッド幾何学には「平行線の公理」と呼ばれるものがあり、これを変えるとピタゴラスの定理の成り立たない非ユークリッド幾何学になります。数ある公理のなかには、豊かな数学を生み出すものもあれば、そうでないものもあります。数学者には、筋がいい公理を見抜くセンス、そこから美しい数学を紡ぎだす発想、そしてそれを定理として完成できる強靭な論理力が大切です。
星新一の作品では、登場人物が合理的な行動をするにもかかわらず、思いがけない展開を見せることがよくあります。異なる公理から異なる数学が生まれるように、私たちの世界の前提をすこしずらすことで、どのように物語が拡がっていくかを論理的に突き詰めて考えるのも、理系文学のひとつのありようだと思います。
私は、今回このような観点から審査をさせていただきました。一般部門でグランプリに選ばれた「シンクロレインボー」では、「容量の限られたインターネットを使った音ゲームだけが通信手段として残された」という仮定の下で、人々がどのように文明を再構築していくかが、想像力を駆使して語られています。特に、絵文字で書かれたジェムが財産になる意外性や、通信帯域の削減方法がきちんと書かれていおり、理系思考を生かした作品として星新一賞グランプリにふさわしいものだと思いました。前提をずらすセンス、驚きをもたらす発想、納得できる物語を展開させる論理力によって、これまで想像したこともなかった世界を見せてくれる素晴らしい作品です。
by PlanckScale
| 2019-04-21 19:21