2021年 03月 11日
十年前 |
2011年3月11日、Kavli IPMUの私のオフィスで3名の研究者と議論をしていたら建物が揺れ始めました。
上の写真は、地震直後にKavli IPMUの研究棟の外に避難している様子です。IPMUと書かれた黄色い旗が立っています。
いつも使っている通勤電車も止まってしまい、その日は帰宅難民になりました。
東京にいても何もできないので、とりあえずカリフォルニアに戻りました。しかし科学者として正確な情報を発信しなければいけないと思い、カリフォルニア工科大学で爆発現象を研究されている工学部のジョセフ・シェパード教授に「福島第一原発の危機」と題した一般向けの講演をしていただき、日本人会でそのスライドを和訳して配信しました。
また震災義援金の募金活動では、日本人会の皆さんの努力で多額の寄付が集まり、赤い羽根共同募金に送ることができました。
そのような活動をしているうちに、大震災の後に浮世離れした研究をしている意味があるのだろうかと自問するようになりました。
その数か月後に、理化学研究所(理研)の研究員会議年次総会での講演を依頼されました。
理研研究員会議代表幹事の渡邊康さんから、「科学者の矜持」という畏れ多いタイトルをいただきました。
「ここ1年間に起きた様々な事柄を思い返すと,それらは私たち科学者の役割について考えさせられることばかりであることに思いいたり,その意味合いをもたせたテーマと致しました」
とのことでした。
そこで、基礎科学の研究がなぜ社会にとって必要かについての考えをまとめ、それについてもお話ししました。
「基礎研究はきっと役に立つ」
「研究を真剣に楽しもう」
というメッセージは、参加された研究者の方々に共感を持っていただけたようでした。
その時のビデオをリンクしておきます。8万3000回以上再生されています。
これに関係して思い出すのは、仏教学者の佐々木閑さんが、私との共著『真理の探究』でおっしゃっていた、
「(科学者は)ふつうの仕事はやめて研究の世界で一生を過ごすことになるわけで、これはまさに出家的な生き方と言えます」
という言葉です。
また、佐々木さんは、日本経済新聞で昨年連載されていたエッセーに、釈迦の教えとして、
「いくら出家しても、一般社会と縁を切って暮らすことはできないのだから、社会から支援してもらえるように、自己を律して暮らせ」
と書かれていました。
私たち基礎科学の研究者は、自らの好奇心を満たすという個人的な目的のために、社会の恩恵を受けて、すぐには役に立たないかもしれない研究に専念させていただいていることを自覚する必要があります。
研究を真剣に楽しみ、人類の共通財産である科学の知識を進歩させるとともに、基礎科学の価値とその社会的意義について機会があるごとに社会に伝えることも大切だと思います。
そこで、東日本大震災の数か月後には、科学解説書『重力とは何か』の執筆を開始し、翌年に出版しました。
その後何冊もの解説書や解説記事を執筆し、また一般講演等のアウトリーチ活動を通じて基礎科学の成果をご紹介することにも努めています。
by PlanckScale
| 2021-03-11 03:50