
昨日は、Caltechの物理教室談話会(コロキウム)で、Caltechの名誉教授で、映画 『インターステラー』 のプロディユーサー兼科学アドバイザーだったキップ・ソーンさんが講演をされました。
「ハリウッドでの物理学者の冒険」というタイトルで、SF映画に科学的内容をできるだけ盛り込むように、どのような努力をしたかというお話しでした。
この映画は、もともとはソーンさんと、友人の映画プロデューサーのリンダ・オブストさんの発案でしたが、もともとの案では、CaltechとMITが行っている重力波検出実験 LIGO が土星の近くに大きな重力波源があることを発見するというストーリーでした。そのような重力波源はありえないと思ったら、土星の近くと遠くの星とが、ワームホールでつながっていた。そして、ブラックホールと中性子星の連星からの重力波がワームホールを伝わってきていたというのが話しの発端になるはずでした。
上の写真は、ソーンさんがこのストーリーを説明するために使ったスライドです。
しかし、監督のクリス・ノーランさんが、「話が難しくなりすぎる」とダメだしをされたので、別なストーリーになったのだそうです。
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ところで、宇宙背景マイクロ波輻射(CMB)の偏光を観測実験 BICEP2 が、昨年の3月に「原始の重力波」の痕跡を発見したと発表した偏光データは、大部分が天の川銀河内のちりの影響による偏光によるものだった可能性が高くなりました。
BICEP2 のグループが、CMB観測衛星 Planck のグループと協力して、2つのグループのデータを組み合わせて解析した結果が、今週発表になりました。
「原始の重力波」による偏光と、「天の川銀河内のチリ」による偏光は、周波数依存性が異なるので、それを調べれば、2つの偏光は区別できるはずです。BICEP2 は低い周波数で観測していたのですが、それをPlanck 衛星の高い周波数での観測と比べると、銀河系内のチリによる偏光であるという仮説とうまくあったのだそうです。しかも、偏光は宇宙のいろいろな方向から来るのですが、角度依存性についても、BICEP2の低周波数の偏光データと、Planck 衛星の高周波数の偏光データがうまくあったのが、チリ起源説の証拠になりました。
昨年の3月のBICEP2の発表では、当時の最新のデータから銀河系内のチリの効果を見積もって、その影響は少ないとしていたのですが、その後に Planck 衛星が発表したデータから、その影響が無視できないということになったのです。
原始の重力波の存在は、初期宇宙のインフレーション模型の重要な証拠になるものですが、これでその存在が否定されたわけではありません。たとえば、重力波の大きさを示すパラメータ r は、昨年3月の発表ではおよそ r = 0.2 だとされていましたが(これは、理論から予想されるよりも大きな値だったので、私たち理論物理学者もビックリしたのですが)、今回の BICEP2 と Planck 衛星の合同発表によると、r は 0.13以下ということになりました。0.13 よりは小さいはずだが、ゼロかどうかはわからないという、いわゆる「上限がついた」という段階です。
昨年の3月の発表はエキサイティングだったので、それが銀河内のチリに埋もれてしまったのは残念ですが、このようにして実験結果が検証されていくというのが科学的方法です。幸い、CMBの偏光については、これからいくつかのグループが様々な周波数で行う予定になっているで、初期宇宙の重力波の有無についても、これからより正確な結果が得られていくと期待されます。
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上の左は、昨年の11月にエドワード・ウィッテンさんが京都賞を受賞されたときに行われた談話会のときの写真です。そのときの記録が、Kavli IPMUのニュースレターで、公開になりました。過去数十年の数理物理学の発展についての、ウィッテンさんのさまざまの経験やご意見をお聞きすることができ、貴重な記録になっています。
ウィッテンさんを囲んだ座談会の記録
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オリジナルの英語版
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日本語翻訳版
ウィッテンさんご自身が、「これまで参加した中で、もっとも内容のあるインタビューだった」とおっしゃっているだけに、深い内容になっています。
たとえば、ご自身が検証されたゲージ理論の双対性について、
「私は、2つのレベルで懐疑的だった。まず第1には、そもそもそれが真実かどうかについて懐疑的だった。また、第2には、仮にそれが正しいとしても、それについて何か意味のあることがいえるかどうかについて懐疑的だった」
また、ゲージ理論とラングランズ対応の関係についての論文執筆については、
「人生の意味を見つけたのに、それを誰にも説明できないでいる人のように感じた」
とおっしゃっています。
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今日は、Caltechの学長主催の教授会パーティがありました。米国では日本食が評判で、上の右の写真のように、お寿司やもちアイスクリームも供されました。もちアイスクリームが液体窒素で冷やされている(下の写真)は、Caltechらしいといえるかもしれません。