Caltechでのオンライン講義がはじまって4週間が過ぎました。心配していたより上手くいっているようで、学生さんの反応も上々です。
オンライン講義ではマイクロソフト・ジャーナルをZoomでシェアして黒板代わりにしています。いろいろなソフトウェアを試してみたのですが、マイクロソフト・ジャーナルが一番Zoomでの伝達速度が速く、学生さんからも見やすいようです。

仮想背景にクロマキー合成を使うために、緑のスクリーンを設置しました。上の写真です。

仮想背景はいろいろ試していて、たとえば、自宅からオンラインで参加している学生さんのために大学のキャンパスの写真を使ったりしています。上の写真はCaltechの学生寮で、私が先週末に撮ったものです。

Caltechや Kavli IPMU の業務もオンラインで行われています。上の写真は
、Kavli 財団が開催した「バーチャル・ティータイム」の様子です。私はKavli IPMUの機構長として参加しました。全世界20か所のKavli 研究所の所長が隔週に集まっています。COVID-19の世界的感染拡大の中で、基礎科学の研究者をどのように支援するかが熱心に議論されました。
上の写真では、私の仮想背景はスーパーカミオカンデです。ちょうどその前の日に、Kavli IPMUも参加しているT2K実験が、ニュートリノによる粒子-反粒子対称性の破れの大きさに、世界で初めて強い制限を与えることに成功したことを発表したところだったからです。このニュースは、ニューヨークタイムズ紙にも大きく取り上げられました。
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昨年はブログをあまり書いていなかったので、思い出しながらいくつか書くシリーズの第3弾。前々回の
フィレンツェ滞在の話の続きです。

フィレンツェの滞在は、5月の連休明けに終わりました。
Kavli IPMUの業務のために東京に向かう途中で、北京に立ち寄って、中国の科学アカデミーが設立したユネスコ国際理論物理学センター - アジア・環太平洋 (ICTP-AP) の国際科学審議会に参加しました。
上の集合写真は、中国科学アカデミーの代表者と審議会の委員とで撮影しました。中央の私の右がICTP-AP所長のユ‐リアン・ウーさん、左がその姉妹研究センターであるバンガロールの国際理論科学研究センターの創立者のスペンタ・ワディアさんです。

日本滞在中には、自由民主党の科学技術・イノベーション戦略調査会 基本問題小委員会で、基礎研究の重要性についてお話しする機会もありました。
米国に戻ると、すぐにテキサス州のコーパス・クリスティで開かれている国際会議 SUSY 2019 に行きました。素粒子現象論の大きな国際会議で、私は講演に呼ばれたのは初めてでした。私の研究している量子重力の沼地問題が、現象論の研究者の間でも注目されているようでした。

6月にはまた東京に戻って、Kavli IPMUの業務。上の写真は、Kavli IPMUの国際諮問委員会の皆さんとの夕食会のときのものです。

京都での国際会議 Quantum Information and String Theory 2019 の合間に、スタンフォード大学のエバ・シルべスタインさん、MITのダニエル・ハーローさんと、伏見稲荷に遠足に行った時の写真。

また、ギャラリーANOMALYで開催された画家坂本夏子さんの個展で、トークイベントを行いました。ANOMALYというのは物理学でも重要な概念で、物理学では古典物理学的には成り立つ対称性が量子力学的効果で破れてしまうことを指します。これがギャラリーの名前に使われていることをおもしろいと思いました。
坂本さんの作品の中には、絵画の局所的なつながりと全体の構成の関係に関するものがあったので、それに関連するかもしれないと思い、数学のガウス‐ボネ定理を説明しているところです。

私は2016年の7月から、米国コロラド州のアスペン物理学センターの所長を務めてきましたが、昨年7月の理事会で無事任期満了し、退任しました。
上の写真のように後継者のジョシュア・フリーマンさんとケーキを配ったのが、所長としての最後のお務めでした。

アスペンでの業務の後は、ベルギーのブリュッセルに飛んで、超弦理論の国際会議Strings 2019で講演しました。上の写真は、会議の集合写真撮影の時のもの。私の左が、
素粒子の強い相互作用の理論における漸近的自由性の発見に対しノーベル物理学賞を受賞されたディビット・グロスさん。右が、会議の主催者のマーク・ハノーさんです。
Strings 2019では、今年お亡くなりになった4名の理論物理学者(マレー・ゲルマンさん、マイケル・アティヤーさん、江口徹さん、ジェフリー・チュウさん)の追悼セッションがありました。私は、江口さんのための追悼スピーチをさせていただきました。このビデオの 26:05 から始まります。 
Strings 2019の後には、2年に一度開催されるヨーロッパ物理学会の高エネルギー物理学会議でプレナリー講演をするためにゲントに移動しました。
ゲントを訪問するのは20年ぶりでしたので、聖バーフ大聖堂にあるファン・エイクの祭壇画「神秘の子羊」を拝見に行きました。
ところが、メインパネルは修復中。幸い、修復が行われていたゲント美術館は、ヨーロッパ物理学会の会場のすぐ隣だったので、会議のコーヒーブレークの時に見ることができました。上の写真です。
20年前に見た時には、中央の羊がおとなしい顔だったように覚えているのですが、修復後は目が前面に移動して、鋭いまなざし。これがファン・エイクが描いた本来の子羊だったのでしょう。